第19話 管理者との対峙

『凛夢!凛夢聞こえますか?!』

 焦った様子でシエナが頭の中に語り掛けてくる。


『大丈夫。聞こえてるよシエナ』

 凛夢の落ち着いた声に、シエナもいくらかの落ち着きを取り戻す。


『凛夢…地上の皆さんは…』

 シエナの問いに、

『うん。終わったよ…みんな安らかに眠って、そのあと隕石で…』

 さみしそうに答える凛夢。

 みんなが眠った後、凛夢は自身の持つ別の権能スキルでみんなの魂を二つに分けた。

 そして分けた魂は今、凛夢が肌身離さず持っている状態だ。


『それで、そっちはどうなってるの?逃げきれそう?』

 凛夢が問いかけると、

『いえ、既に私たちの方へ管理者がひとり向かっています。幸いなのは、この者は他の管理者と情報を共有していないみたいです』

『じゃあソイツを何とかすれば逃げ切れるわけだね!もうやっつけるしかないかな』

『簡単にはいきませんよ。この者は管理者の中でも執念深く、粘着質な性格です…私にも執着しており、それで今回の件が露呈してしまったのだと思います』

『…管理者にもストーカーみたいなのがいるのね』

『…その者の名は管理者サディウス。私に執着するあまり、私に関する情報すら独占している様子です。おかげで今回は大勢相手にせずに済みそうですが…』

『誰にも見つからないのがベストだったんだけど、そうもいかないわね』

 そんな話を頭の中でしていると、シエナの姿を凛夢の目が捕らえた。


 管理者シエナと合流した凛夢は、持っていた魂の欠片のうちのひとつを差し出す。

 するとシエナは大事そうにそれを両手で受け取り、

「あぁ、ラアズ…」

 と言って愛しい者を見る眼差しで欠片を見つめている。



「とりあえず合流はできたわね」


 ここは、いわば管理者の領域である高位次元のひとつに位置している。

 凛夢が権能スキルにより分けた魂のひとつは地上に残って肉体は死に、今は輪廻の輪の中に戻っている。

 そしてもうひとつが、今シエナと会話している凛夢だ。

 皆の魂をかかえ、この高次元から別の多元宇宙へと転移する予定だった。


 しかしこのまま逃げればおそらく転移先がその管理者にバレてしまう。

 管理者ならば追いかけるのは容易。

 全く知らない場所へは管理者も探しには来れないだろうが、場所がばれてしまえばおしまいなのだ。

 となるとこの追いかけてきている管理者をどうにかするしかない。


「そうですね、ですがサディウスがもう近くに…」

 凛夢とシエナが現状を確認しようとしたその瞬間。


「ははは。僕の噂かい?うれしいなぁシエナ」

 と突然何者かが背後から現れる。

 と言ってもこの高次元空間に姿を現すことができる者は決まっている。


「…サディウス」

 シエナがその管理者を見据えて呟く。


(コイツが…)

 凛夢がサディウスを見る。

(ぱっと見は爽やかな男に見えるけど…たちが悪そう)


 凛夢が今までの経験からその男を瞬時に見極める。

 するとサディウスは、

「ん~?君は何なのかな?思念体?ちょっと違うような…しかしその人を見定めるとような目は気に入らないね」

 と凛夢を舐めまわすように見ている。


「しかし君もシエナに負けず劣らず美しいな…しかし僕はシエナ一筋なんで申し訳ないな」

 何を勘違いしているのかわからないが、そんなことをひとり話しているサディウス。


 しかし、

「もしかして君たち…ここから逃げようとしてるな?それは大罪だよ?その大事に抱えている欠片は…」

 その瞬間その場の空気が凍り付く。


『シエナ…話し合いでは無理そう?』

 凛夢が頭の中でシエナに問いかけるが、シエナは

『無理です。この男は裏切りが生き甲斐のような男です。過去、私やラアズも裏切られ…ラアズは牢獄エデンに…』

 それを聞いた凛夢は、

『話すだけ無駄か…』

 とすぐに頭を切り替える。


 もう抜け殻とはいえ、奏斗の何代前の前世かはわからないが、そのラアズを裏切ったとなればそれは友達を裏切ったヤツと同義。

 凛夢の目が赤色に光る。

 同時にプレッシャーがサディウスの動きを止める。


「…は?何だその力は?管理者である僕の動きを止められるだとっ?!何なんだお前は?!」

(特異な権能の反応を察知して来てみれば、コイツはいったい…)

 狼狽するサディウスを横目に、

「いちいち答えるわけないでしょ?」

 とシエナを見る凛夢。


 するとシエナは何もない空間からレイピアのような細いエネルギー状の武器を取り出す。

 そしてそのレイピアを構えるとサディウスめがけ突進していく。


「私がけじめをとります。私が凛夢たちを必ず無事に送り届けます。そのためにあなたはここで終わってください!」


 レイピアはサディウスの肩を貫通する。

「ふん。シエナ、その行動が何を意味するかわかっているのかい?管理者ともあろう者が…」


 サディウスの動きは凛夢のプレッシャーにより制限されているが、それでも少しは動けるようだった。


(さすが管理者…一筋縄ではいかなさそうね)

 凛夢が更にプレッシャーをかける。


「く…一体君は何なんだ?管理者でもあるまいし、ただの人間とも…むっ」

 話しながらシエナの攻撃を何とか避けている。


 プレッシャーを受けながらも動けるところを見ると、このサディウスはかなり力を持った管理者らしい。


「ええい、シエナ!いい加減にしなさい。これ以上やるなら僕も本気で相手をするよ?!」

 サディウスが叫ぶ。



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