第15話 繰り返す始まり

 ◇◇◇◇◇◇◇


「んあっ!!!!」

 ベッドから飛び起きる。


「うわーびっくりした!隕石でみんな死んじゃうなんて…って」

 ドキドキと鼓動が早い心臓を落ち着かせながら、お気に入りのテーブルミラーで顔を見る。


「ん。今日もカワイイではないか」

 …同じことを繰り返してみるティナ。

 そしてスマホで日付を確認する。


(…なんでだろう…変に落ち着いてる…夢…じゃないよね。繰り返してる?…うん、あれは夢なんかじゃない。…あの黒い人、また来るのかな)

 ティナは部屋に置いてあるデジタル時計とスマホの日付を確認したあと、平静を装いながら、母親の用意した朝食を平らげる。


 そして玄関に置いてある姿見で自分の姿を確認して、

(あ…しまった。カワイイではないかのセリフは今だった気がする!)


「きょ、今日もきゃわいいではないか」

(噛んじゃった…)


 何故だかわからないが、あまりと違うことをしてはいけない気がするティナ。

 本当に何故かはわからないけど…。


 家を出ていつもの通学路を歩く。

 通学路を歩いていると、後ろから足音とともに

「ティナー!」

 と自分を呼ぶ声が聞こえる。


小夜サヤ、おはよう…ティナ先輩と呼ぶようにと前も言ったはずだよー」

「ティナそんなこといいから、凛夢さんどこ?あ、学校か。ほら早く行くよ!」

「え、ちょ、ちょっと小夜?あんまりアレするとアレだよ」


 訳の分からないことをいいながら、走って登校するふたり。

 するとその分早く追いついたのか、吉秋奏斗の登校する背中が見える。


「カーナートーセンパーイ!!」

 小夜が奏斗を呼び止める。

 ティナは混乱している。

「え?え?いつから小夜が奏斗くんを名前で?」

 振り返る奏斗に小夜が指を指しながら…

「センパイ今日は何回目?」

 と意味深な質問をする。


「…記憶にあるのは二回目だ」

 と真面目な顔して答える奏斗。


「やっぱり…」

 真剣な顔になる小夜。


(ん?まって…これってみんなも…)


 ティナが考えていると、ずんずん廊下を進んでくる美しい黒髪が見えた。

「あ…凛夢ちょっと聞きたいことが…」

 ティナを見るやいなや、凛夢はティナの腕を掴んで目を見つめてくる。


 その美しい凛夢の瞳に吸い込まれそうになりながらも耐えるティナ。

 すると、凛夢は

「…ティナも覚えているみたいね。前回のこと」

 と呟き、ティナの手を引っ張り教室へと戻る。

 何故か奏斗もついてきている。

 ティナが反対の手で小夜の手をつないだままだったので、小夜も一緒に来てしまった。


「あ、小夜は一年生の教室に戻らないと…」

 とティナが言いかけると、凛夢が

「大丈夫!連れてきて!」

 と言い放つ。


 教室に凛夢が入ると、むんずとリサと玲音レオの腕を掴んで立ち上がらせる。

「な、なんだしっ?!」

「おぉ…おお?」

 びっくりするリサとちょっと頬を赤く染める玲音レオを横目に

「奏斗君!三年の教室から和人君連れてきて、校門に集合」

 と凛夢の指示を受けた奏斗は

「わかった」

 と一人教室をでていった。


「じゃあみんな私についてくるように!」

 凛夢の剣幕に押されて、ティナ、小夜、リサ、玲音レオの五人は校門へと向かう。


 すると、奏斗が既に和人を連れてきており、合流して七人になった集団はそのまま歩いてある場所へ向かう。


 神荘院じそういん総合病院。

 凛夢の従妹、花城 亜流夢はなしろ あるむが入院している病院だ。


 すると凛夢がおもむろにスマホを取り出し、電話をかける。

「絢奈。もう準備できてる?うん、うん。わかった」


 すると電話を切った凛夢が、病院に入るのかと思いきや、裏手の救急入り口の方向へ向かう。

 すると同時に出入り口からベッドのまんま亜流夢あるむが運ばれてくる。


「ア、アルムちゃん?凛夢これはいったい…」

 ティナが代表して質問するけど、凛夢はクイっと顎でしゃくって近くに止まってあった黒塗りのリムジンに向かう。

 ベッドの亜流夢は、神荘院じそういん家の執事が運んでおり、リムジンの後部へとまわる。

 リムジンの後部座席の窓が開き、

「皆様ごきげんよう」

 といって、神荘院じそういん家の跡取り娘、深窓の令嬢である神荘院 絢奈じそういん あやなが顔をのぞかせる。


「え?嘘っ?!神荘院絢奈じそういん あやな?」

「マ"?テレビで見たことあんぞ?!」

 とリサと玲音レオが驚く。


 神荘院家といえばこの国の最高権力といってもいいほどの力を持った家である。

 そんな家の跡取り娘、雑誌やニュースで特集が組まれるほどの存在を前に舞い上がる一行。


「亜流夢様もお久しぶりですね。さあ皆さま、お乗りください」

 と亜流夢を車に乗せ終えた執事が今度はリムジンのドアを開ける。


 戸惑う一行に、凛夢が

「早く乗る!」

 の一声でみんなそそくさと車に乗り込む。


 すると、リムジンは動き出した。


 車内にて、

「もうみんなある程度わかっているでしょう?」

 と凛夢が話し始める。


 ティナや他の皆もお互いに顔を見合わせ頷いている。

「私たちは今日という日を繰り返している。そして明日には終末の日を迎える…何よりみんながそのことを覚えているってことは、私の権能が強まった証でもあるのだけれど…ひとつ確認。みんな思い出したのは今朝のタイミングという理解でいいかしら?」


「ああ、俺はそうだ。今朝起きたら思い出した」

 奏斗が答える。


「私もだよ。何故が繰り返してることがすんなり受け入れられたんだ…変な感覚」

 ティナは胸に手を当てている。


「私もだ。朝起きたら弟達が元気に朝メシ食べてたから…泣いちゃったわ…」

 リサは目に涙を浮かべている。


 玲音レオ

「アタシは明日の朝熱出ちまうからな…あれはあれでしんどいんだけど」

 とどこから出したのか栄養ドリンクを飲んでいる。


「私も…今朝思い出した。凛夢さんに抱きしめられながら死んだこと」

 ちょっと顔が赤い小夜。


「あ?なんで凛夢に抱きしめられてんの?アタシらムサイ男どもと一緒の最期だったのに」

 ちょっとキレ気味の玲音レオ

 ティナとリサは苦笑い。

 小夜はそっぽを向いてツーンとしている。


「俺も今朝思い出した…もしかして今回だけ繰り返しているわけじゃないのか?」

 和人が凛夢を見る。


「…今回だけじゃない。みんな何度も繰り返してる。覚えていないだけ」

 凛夢が静かに答える。


 そこでリムジンが停車し、絢奈に促され車を降りる。


 するとそこには広大な庭園とこの国古来の建築方法で建てられた豪邸があった。

 どうやら神荘院じそういん家の敷地内らしい。

 そして絢奈が歩き出し、その後について暫く歩いた後、地下に案内された。

 どうやらシェルターらしい。


 そこには生活出来るだけの準備がしてあるらしく、普通にテーブルやソファも置かれていた。


 それぞれソファや椅子に腰を下ろす。

 亜流夢は執事と凛夢がソファに座らせて、絢奈がブランケットを持ってきてくれた。


「…すごいな…凛夢とアルムちゃん?本当にそっくりじゃん」

 並んだ凛夢と亜流夢を見てリサが感嘆の息を漏らす。

 玲音レオと和人も頷いている。



 少しの沈黙の後、ティナが口を開く。

「どうして今回だけ覚えてるの?」

 ティナの問いに凛夢は、みんなに自分が何度も何度も人生を繰り返していることを説明する。

 そして、その運命にあらがうため、みんなを助けるために途方もない時間をかけて準備してきたことを説明する。

「みんなが覚えているのは私のせい…私のもつ権能…能力っていう方がわかりやすいかな?みんなの魂の欠片を連れてこの地獄から抜け出すために、私はずっと前から準備していたの。私の能力が力をつけて、その影響でみんなの記憶が引き継がれたんだ」

 と答える。


「信じられないような話だが、今となっては…だな」

 と凛夢の放ったプレッシャーを回想しながら答える和人。


「また…あの黒い人が来るの?…私…」

 ソファに座らされていた亜流夢は、前回の恐怖が蘇り、身を縮こませる。


「ごめんアルム。助けられなくて…」

「凛夢のせいじゃないのはわかってる…だけど…怖くて…。小説みたいに魔法が使えたら…やっつけるのに…」

 凛夢は亜流夢を抱きしめながら呟く。

「魔法か……」


 その様子を見ながら、奏斗は

「この地獄から抜け出すって言ったが、抜け出せるのか?」

 と凛夢を見る。


 すると凛夢はじっと奏斗の目を見つめ、お互い見つめあう。

 その様子にティナが凛夢と奏斗を交互に見ながら「え?え?」と、ちょっと慌てている。


「期待させたならごめんなさい。あくまであなた達の魂の欠片を持ち出せるだけ…私も含めて、あなた達自身がこの地獄から抜け出す術はない…少なくとも今のところは」

 凛夢が俯いて答える。


「…魂の欠片とやらを逃して何になるんだ?意味があるのか?」

 奏斗は思ったことを直球で質問してくる。



 ――――――――――――――――――――――


 寝起きティナ

 https://kakuyomu.jp/users/Jinkamy/news/16818792439673627559

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