第9話 不思議な力?

 翌朝。


「ティナ~!」

 登校中、ティナに駆け寄る小夜さやの声。


「だからティナ先輩と呼びなさいと…」

「いいからいいからちょっと教えてよ!」

 人差し指を立てて説教モードの姿勢をとったティナの話を遮って小夜が耳元で呟く。


「凛夢先輩って不思議な力があったりする人なの?」

 突拍子のない小夜の質問に、ティナは目を瞬かせる。

 腕を組んでうーんと考えるティナは、

「うん。確かに不思議な力はあるかも…」

 と頷く。


 それを聞いた小夜は背筋を正して、

「ど、どんな力?神様と会話できるとか?」

 と昨日見たことをそのまま聞いてみるが、

「んーとね、凛夢によしよしされるとスゴイ落ち着くの!」

 とドヤ顔で頷くティナ。


「…それって…」

 といって、小夜はティナの後ろから抱きつき、頭をよしよししてみる。


「あ…あぁぁ。落ち着きますぅ」

 されるがままのティナに対し、小夜は

「結構誰でもいいパターンだなこれは…」

 とそれ以上聞くのを諦めた。


「誰でもいいわけないじゃない!私だってちゃんと人を選びますー」

 と唇を尖らせて怒るティナに、はいはい言いながらなだめる小夜。


(他に誰に聞いたらいいんだろう…本人に直接聞くのはなんか怖いし…)

 とモヤモヤしていると、もう学校に着いてしまった。


 するとまたも下駄箱のところでゆっくり靴を履き替えている吉秋奏斗よしあき かなとを発見した。


 なんとなく、直感を覚えた小夜は、奏斗に声をかけた。

「吉秋先輩。凛夢先輩って、不思議な力がありますか?」

 いきなり後ろから声をかけられた奏斗は、怪訝な顔をしながらも

「…そうだな。そう感じることはある」

 と呟く。

「やっぱり…どんなことで…」

 と言いかけたところで、

「お前も…、青海ティナにも感じる」

 と指を指される。


(ん?私って吉秋先輩と話したの今が初めてなんだけど…)

 と戸惑う小夜。


(え?もしかしてストライクゾーンに入ってる人のこと言ってるだけ?)

 と大いなる勘違いをする小夜。


(確かにティナも超絶可愛いし、凛夢先輩も世界の至宝レベルのミステリアス美人…まぁ私もそこそこ可愛いと思うけど…)

 モジモジしながら考える小夜。


(でもそれってどういうことなのかな?誰でもいいってこと?失礼しちゃうなー!)

 自分が奏斗に聞いたのは不思議な力の話だったはずだが、頭の中で何故か好みの話に変換されている小夜。


「ちょっといくら先輩でもそれはどうかと思います!」

 ビシーっと人差し指で奏斗を指さしたつもりだったが…既に奏斗は教室に行ってそこには誰もいなかった。


「小夜~遅刻するわよ~」

 笑いをこらえながら声をかけるティナを涙目で睨んだ小夜はズンズンと教室に向かっていったのだった。


 ◇


 小夜に声をかけられた後、教室に向かう奏斗は後ろから声をかけられる。


「おい吉秋!ちょっとツラかせよ」

 奏斗が振り向くと、そこには不良女…玲音レオが立っていた。


「…今から授業なんだけど」

 奏斗が横目のまま答えると、玲音レオ

「オメー別に授業なんてなんとも思ってねぇだろ?」

 と適当に吐いたセリフが奏斗には刺さったらしい。


「…まぁそうだな」

 奏斗が意外とすんなりいうことを聞いたので、玲音レオはちょっと拍子抜けしながらも、

「じゃあ屋上いこうぜ!あそこなら誰もこねーだろ」

 と廊下を歩き始める玲音レオ

 ちゃんと奏斗もうしろについてきている。


 階段を登って、屋上の扉を開ける。

 ちなみに鍵は誰がやったかわからないが壊れている。

 すると玲音レオはそのまま屋上の奥の方まで進みフェンス越しに街を見下ろす。

「やっぱ高いとこ気持ちイイなー♪」

 と背伸びをする。


「それで要件は何なんだ?」

 うしろをついてきていた奏斗が話しかける。


「ん?ああ、そうだった。オメーさ、昨日繁華街のとこいただろ?」

 と本題を口にすると、奏斗はピクッとして動きを止める。


「…なんで知ってる?」

 睨むような奏斗の視線に、玲音レオは負けじと視線を返す。


和人かずと…和田和人って大男がオメーを見たって…何してたんだ?」

 すると黙り込む奏斗。


「…わからない」

「は?」

 奏斗の声に玲音レオが反応するが、玲音レオも意味がわからなかった。


「オメー頭飛んでんのか?」

 と玲音レオが威嚇するようにいうと、奏斗は視線を落とし、

「わからないんだ。自分でもなんで…」

 と呟く。


 玲音レオは続きを促す様に黙っている。

 すると奏斗はポツポツと話し始める。

「ただ…お前たちが危ない目に遭うような”予感”がしたんだ。だから助けられるなら助けようと…」

 と言って黙る。


「アタシらが危ない目に遭う予感?」

(本気で言ってんのか?だとするとマジで頭逝って…ん、待てよ)


 その時思い出したのは昨日ティナが公園で凛夢に話していた言葉。

 リサの家で勉強する前、リサと玲音レオがコンビニで買い出しした後にふたりの元に戻ってくると、何やらティナと凛夢が真剣に話し込んでるから、恋バナでもしてるのかと思ってこっそりベンチの後ろから聞き耳を立てていた。


(「私が奏斗くんを引き離して大通りに戻ったんだ」)

 ティナの話は、あんまり聞き耳立てていいような話でもなかったから、リサとふたりで顔を見合わせて頷き、ティナが自分から話してくれるまで聞かなかったことにしようと決めていた。


 その話が全部聞こえてたわけじゃないけど、ティナは吉秋に危ないところを助けてもらったことはわかった。

(となると…あながち嘘って決めつけるのも…でも待てよ。昨日は冗談みたいに言ったけど、コイツがティナのストーカーっていう可能性もあるな。ティナのあとをつけてて、たまたま危ない目に遭ってたから助けたっていう線も…)


「オメーティナ狙いか?」

 頭の中は冴えわたっていた玲音レオだが、言語化は少々苦手だった。


「…いや、予感がしたのはだ」

 と真面目な顔で返してくる奏斗。


 一気にパニックになる玲音レオの脳内。

「は?ティナと…アタシ?なんだ?…アタシも助けようとしたのか?」

 と何故か焦りながら問いただす。


 奏斗は眉根を寄せて怪訝な顔をしながらも、

「そうだが…。だが他の助けがあったみたいだし、俺は結局何もしなかった。……もういいか?どうせまともに聞いてもらえるとは思ってない」

 と言って屋上から出て行ってしまった。


 残された玲音レオは、

「は?アイツ何?なんなの?ティナと…アタシ?釣り合わねーだろ…」

 と独り言を言いながら、

「…どっちでもいいってことか?何考えてるかわかんねー」

 とちょっとキレ始める玲音レオ


(でもさっきの吉秋の顔は嘘ついてる感じじゃないんだよな)

 と考えているとスマホに着信がある。


玲音レオー!今どこだし?鞄あるのに授業出てねーからセンセー怒ってんぞ!』

 とリサからの電話だった。


「おわっ。ゴメンリサ!今から戻る」

 といって教室に戻った玲音レオだった。


 ◇


 教室に戻った玲音レオはこってり先生に絞られた。

 そしてリサにジト目で見られる。


「授業中にスマホ使ったから没収されたんだけど…」

 とリサ。

 解せぬ…といった顔で玲音レオをひたすら見つめてくる。


「ごめんってリサ…帰りにアイス奢るから」

 とちょっと涙目の玲音レオだった。





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小夜

https://kakuyomu.jp/users/Jinkamy/news/16818792438960813578


小夜(中学校時代)

https://kakuyomu.jp/users/Jinkamy/news/16818792438960996373


屋上の玲音レオ

https://kakuyomu.jp/users/Jinkamy/news/16818792439151871274

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