第19話

鏡に触れた瞬間、私を襲ったのは激しい光と、身体が分解されるような感覚だった。目を開けると、私たちはまだ旧校舎の廊下に立っていた。しかし、鏡は消え、その代わりに、廊下の壁に古びた扉が現れていた。


「鏡が……消えた?」


悠真が驚きの声を上げる。鏡があった場所には、以前私たちが地下室で見たものに酷似した、埃まみれの古びた扉があった。扉には、誰かの手形のような黒い汚れがべったりとついており、不気味さを増している。


「鏡に触れたことで、部屋の姿が変わったんだ。鏡は、私たちの懺悔を受け入れたのかもしれない」


陽菜が、力なくつぶやく。彼女の目には、まだ恐怖の色が残っていたが、どこか諦めにも似た静けさがあった。


「この扉の先に、健太と結衣がいるのか?」


私が尋ねると、悠真は扉に近づき、その表面を調べ始めた。


「この扉は、あの地下室で見た扉と同じだ。そして、この黒い手形……」


悠真は、その手形が、兄の手記に描かれていた**「後悔の印」だと気づいた。この扉こそが、この部屋の核心**へと繋がる、本当の入り口だったのだ。


その時、扉の向こうから、かすかに声が聞こえてきた。


「助けて……りお……」


それは、健太と結衣の声だった。彼らは、まだ部屋のどこかで生きている。


「行こう!健太と結衣を助けに行かないと!」


私はそう言って、扉を開けようと手を伸ばした。しかし、悠真が私を止めた。


「待って、りお。この扉を開けるには、鍵が必要だ」


悠真が指差す扉には、鍵穴が二つ空いていた。一つは、兄の友人が残した鍵で開くもの。もう一つは、私たちが地下室で使った鍵とは違う、小さな鍵を要求しているようだった。


「もう一つの鍵は……どこに?」


陽菜が尋ねる。悠真は、再び兄の手記を取り出し、最後のページに書かれた暗号を読み始めた。


「『真実は、最も静かな場所に隠されている』……この部屋で、最も静かな場所……」


私たちは、この部屋で最も静かな場所を必死に考えた。この部屋は、絶えず怨念と後悔の声が響き渡っている。静かな場所など、どこにもないように思えた。


その時、陽菜がハッとしたように、一つの場所を指差した。


「あそこよ!あの古びたロッカー!」


廊下の隅に、なぜか音を立てない、古びたロッカーが一つだけ立っていた。私たちは、音を立てないようにロッカーに近づき、その扉を開けた。


ロッカーの中には、埃を被った古いオルゴールが置かれていた。オルゴールの上には、小さな真鍮の鍵が、静かに光を放っていた。

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