第6話

「もう一度、行くしかない」


悠真の言葉に、結衣は「ありえない」と叫んだ。健太と陽菜も、恐怖と疑念の入り混じった表情で私たちを見つめている。しかし、悠真の目は、私たちを説得しようとしているのではなく、何か深い決意を秘めているようだった。


「なぜ、そこまでして……」


結衣が震える声で尋ねる。悠真は、一瞬ためらった後、重い口を開いた。


「この学校の噂には、俺の兄が関わっている」


悠真の突然の告白に、私たちは皆、息をのんだ。彼の兄がこの高校の卒業生だということは知っていたが、噂に関わっていたなんて、誰も知らなかった。


「兄は、数年前に学校で失踪した。あの『存在しない部屋』の噂を追って、姿を消したんだ」


悠真は、力なくつぶやいた。彼の言葉は、私たちにとって、単なるホラー小説の始まりではなく、現実の恐怖へと変わっていく。陽菜が以前調べていた「生徒の失踪事件」は、悠真の兄のことだったのだ。


「俺は、兄が残した手がかりを追って、放送部に入った。いつか、兄が消えた場所を突き止めようと……」


悠真は、私たちを犠牲にするつもりはなかったと謝った。しかし、私の好奇心が、皮肉にもその真相を突き止めるきっかけになってしまったのだ。


「俺は、兄が残した手記を見つけた。そこには、部屋に入るための方法と、警告が書かれていた」


悠真が明かした事実に、私たちは言葉を失った。私たちが単なる好奇心で始めたことは、悠真にとっては、兄の行方を追うための、命がけのミッションだったのだ。


「その手記に、なんて書いてあったの?」


私が尋ねると、悠真は震える声で答えた。


「『鍵は、裏切りの中にある』……。そして、もう一つ、『午前1時、鏡、廊下』……」


私たちは、その言葉に凍り付いた。それは、陽菜が古い資料で見つけた、失踪した生徒のメッセージと酷似していた。


「……彼らは、私たちにヒントをくれたんだ」


陽菜が、震える声でつぶやく。


「もう引き返せない。この呪いを解くには、部屋の謎を解き明かすしかない」


悠真の言葉に、私たちは恐怖を感じながらも、その決意に心を動かされた。私たちは、悠真の兄の無念を晴らすため、そして、自分たちの恐怖を終わらせるため、再び夜の学校へ忍び込むことを決意した。


そして、その日の夜。私たちは、悠真が持ってきた手記のヒントを頼りに、旧校舎の廊下を進んでいった。


廊下の突き当たりに、古びた大きな鏡が、不気味に私たちの姿を映し出している。


「ここだ……。この鏡が、噂の部屋への入り口なんだ……」


悠真がそう言った瞬間、鏡の中に映る私たちの姿が、歪み始めた。そして、鏡の奥から、無数の手が私たちに向かって伸びてくる。

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