第2話 私が総理大臣に

田尾は新聞も読まず、携帯電話ももっていない。ここ3年ほどは、日本はおろか自分の住む町の事すら何も知らない。

当然、昨日矢部総理が選挙演説中に撃たれた事も知らない。

佐々木が言うには田尾と矢部総理が、姿かたちがそっくりだと言う。

さすがに田尾も矢部を知っているが、それは数年前であり年齢や身長は似ているが体形や顔は全く似ていないと思っている。しかし最近自分の体形や顔をじっくりと見たことが無い事に気づいた。

それ以降は、質問にも答えてもらうこともなく、まるで拉致されるように佐々木の車に乗り大松自衛隊駐屯地から、ヘリコプターで一谷駐屯地まで行き、佐々木と一緒にとあるマンションに入った。

時間は午前2時になっていた。それから朝8時まで睡眠をとり(ほとんど眠れなかった)朝食、のどを通らないと思ったが、美味しく食べられた。

そこから、肩まであって束ねていた髪をカットされ、長く伸びた髭を剃られ、風呂に入らされた。身綺麗になった姿を鏡で見ると、自分の知らない自分がいた。そして今日朝見たテレビに映っていた矢部総理がいた。

ここで最大の疑問が浮かんだ。「四国にいる俺が、矢部総理に似ている事がわかったのだろう」

佐々木に聞いても答えないだろう。

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