第4話「記憶の断片と、消された真実」

朝は洗濯に限るわね。


ちょっと冷たい空気の中で干すシーツって、なんだかしゃんとするっていうか、気持ちも一緒にパリッとなるのよね。


「ハルさ~ん、パンの匂いがする~!」


子どもたちが朝っぱらから我が家の前に集合してくるのも、もうすっかり日常。

こっちでは“お母さん”がみんな忙しくて、朝ごはんは適当ってのが多いらしくて……

なんか私、勝手に“朝食担当おばさん”みたいになってるのよね。


でも、喜んでくれるのはうれしいし、

「今日もがんばろう!」って声かけると、「おー!」って元気に走ってくのよ。

かわいいわ~。


 


朝ごはんがひと段落して、洗濯物も干し終えて。

井戸でちょっと顔を洗ってたとき、なんだか急に思い出したの。


――あれ、昨日の夢……なんだったっけ?


黄色いヘルメット。ホコリっぽい現場のにおい。

がしゃん!って音。誰かが叫んでて――


「……うっ」


あらやだ、なんか心臓がバクバクしてる。

妙にリアルだったわ。あれって……夢じゃなくて……


 


「ハルさん?」


肩をぽんって叩かれて振り返ったら、ティアちゃんがいた。

洗濯かごを抱えて、ちょっと不安そうな顔。


「どうしたんですか、顔色悪いですよ?」


「あ、ううん。なんか、変な夢見ちゃって。工事現場で倒れたような……」


「……それ、“転送前”の記憶かも」


「へ?」


ティアちゃん、すごく真剣な顔。


「迷い人の中には、最初の記憶が曖昧なままの人もいます。無理に思い出そうとすると……苦しくなるって聞いたことがあります」


え~……? でも夢よ夢。寝言言ってたら笑って流すタイプの私が、記憶で悩むとか柄じゃないわ。


「……じゃあまあ、深く考えないでおこうかな~って。朝ごはん食べたし♪」


「ハルさん、メンタル強すぎです……」


 


でも、ティアちゃんの顔がちょっと引っかかってて。

午後、洗い物を片付けた後に、ちょっとだけ村のはずれを散歩してみたの。


空気が澄んでて、草のにおいが気持ちよくて。

こういうときって、なんとなく歩きたくなるのよね。


……と。


「あら……?」


木の根元で、なにかが光ってた。


落ちてる石? ガラス? いや、もっとこう……キラキラしてる。


私はしゃがんで、それをそっと拾い上げた。


「……結晶?」


掌の中で青白く光るそれは、まるで氷みたいにひんやりしていて、でも不思議なあたたかさもあったの。

じっと見つめてたら――


 


ビリリッ


「わっ……!」


一瞬、頭の中に電気が走ったみたいに、ビジョンが流れ込んできた。


――足場が崩れる

――誰かが「ハル子さーん!」って叫んでる

――まぶしい光

――そして、暗闇


「……なに、いまの……?」


私、立ってるのに足元がぐらつく感じがして、思わずぺたんって座り込んじゃった。


でも次の瞬間にはもう、何も残ってなかった。


「ん~~~、感電した!? あっぶな~、やっぱ変電所の近くはダメね~~!」


って、思いっきり異世界で変電所ないわよ!


 


でも、あの“結晶”。ただの石じゃない気がするのよね。


私はそっと、それをエプロンのポケットにしまった。


 


「ただいま~って、誰もいないけど!」


自宅に戻って独り言つぶやきながら、夕ご飯の準備を始めた頃。

ティアちゃんがまた、ちょっと真剣な顔して訪ねてきたの。


「ハルさん……さっき、村のはずれで何か拾いませんでしたか?」


「え? あー、これ?」


ポケットからごそごそ出した青い結晶を見せたら――


ティアちゃんの顔が、明らかに青ざめた。


「これ……もしかして、“導石(どうせき)”……!? 遺跡とか、古代の魔法陣とかで使われてる、記憶封印の媒体って……」


「え~……そうなの? でも、見た目はきれいよ。お風呂場に飾ったら映えると思わない?」


「ハルさん、それすっごいヤバいやつかもしれません!!!」


 


あらやだ。久々に全力でツッコまれたわ。


 


その日の夜――


村の奥深く、誰も近づかない“祠(ほこら)”のそば。


誰もいないはずの森の中で、もうひとつの青い結晶が、かすかに光を放っていた――


 


そしてそれに呼応するように、

私のポケットの中の結晶も、またふわっと、光った……気がしたの。


 


でも私は、その夜も気持ちよ~く爆睡してました。


夢の中では、なぜかたこ焼き器が爆発してたんだけど……

それって、何かの暗示??


……ううん、たぶん、寝る前にソースかけすぎただけね!



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