第3話「え!? 私が村を救っちゃった!? 魔法ってなんですか〜!」

朝の空気って、なんでこんなに清々しいのかしら。

鳥のさえずり、薪の焼ける匂い、ちょっとひんやりする空気に、思わず深呼吸して背伸び。


「ふぁ~~、今日もいい天気~!」


私は“異世界村生活”にもだいぶ慣れてきた……と思う。たぶん。


「ハルさーん! おはようございまーす!」


はい、来たわ。朝のエミリちゃん。毎朝パンとスープを届けてくれる、村の天使。


「おはよう、エミリちゃん! あら、このスープ、今日はいつもより香ばしい匂いがするわねぇ」


「はいっ! 昨日ハルさんが教えてくれた“炒めてから煮る”ってやつ、やってみたんです!」


「すごいすごい! もう未来のシェフだわ~!」


ちょっとした調理技術を教えただけで、こんなに喜んでもらえるって、主婦冥利に尽きるわねぇ。


さてさて、今日は洗濯日和。村の共同井戸のそばで、村人たちがせっせと洗濯してる姿が目に浮かぶわ。


昨日も「ハルさんの洗濯、なんであんなに早くてきれいなの!?」って騒がれちゃったし……ちょっとした“洗濯魔法”だなんて、言われちゃったりして。


魔法ねぇ……ほんとに私、使ってるのかしら?


 


* * *


 


洗濯場に行くと、すでに数人の村人が集まってた。

女性たちに交じって、カルロくんも来てる。


「あ、ハルさん! 昨日の洗濯術、もう一回教えてくれませんか? あのシャッシャッって動き!」


「え~と、コツはね、リズム! たとえば“ゴシゴシ、トントン、くるくるポン!”って感じで――」


「あははっ、なんですかそれ!」


笑い声が広がる。


そう、こうして笑いが生まれるって、ほんと幸せなことだと思うのよ。


でも――。


「……ん?」


ふと、視線を感じた。


森の方角。木々の陰に、なにか黒っぽい影。


見間違い? ……いや、違う。


あれは――人?


 


* * *


 


「旅人……?」


村の外れに現れた数人の男たちは、妙にきれいな革鎧を身につけ、馬に乗っていた。


雰囲気的に、ただの旅人じゃない。武装してるし、視線も鋭い。


「おい、あんたたち。ここは迷い人の村か?」


「迷い人……?」


村人が首をかしげる中、私の背中がゾクっとした。


“迷い人”って……もしかして、“異世界から来た人間”って意味?


私……バレた? 誰に? なぜ? どうして今さら?


「白い髪の女を探している。このあたりに最近来た者はいないか?」


やばい。髪の色までバッチリ合ってる。なんで知ってるのよ、誰よ、密告したのは~!


カルロくんが、そっと私の前に立った。


「ここにはそんな人、いません」


声がちょっと震えてるけど、男の子なりに守ろうとしてくれてるのが伝わってくる。


「そうか……なら、少し村の中を見て回っても?」


にっこり笑ってるけど、目が笑ってない。うーん、嫌なタイプ。


これは……逃げるべき? でも私が逃げたら、村に迷惑がかかるし――


「ちょ、ちょっと待ってくださーい!」


私はえいっと前に出た。心臓バクバク。足ガクガク。


でも、お母さんはね、いつだって子どもたちのために強くなるんだから!


「白い髪の女、私です!」


兵士たちの視線が、一斉にこっちに向く。


うわっ、こわ。けど負けない。私は、ハルリエッタ! 異世界の村で頑張る元・主婦!


 


* * *


 


「あなたたち、どこから来たの?」


「王都からの命で、迷い人を確保しに来た。我々は王直属の捜索兵だ」


「確保って……私、なんにも悪いことしてませんけど?」


「だが、おまえが地球の技術を持っていると聞いている」


「え? あの、洗濯とか、保存食とか、干し芋とかのこと?」


「そうだ。異界の知識は王都にとって重要。王の下で監督し保護する義務がある」


「……えー、めっちゃこわい!」


私は思わず叫んじゃった。だって、“保護”とか言って、どうせお城に連れてかれて、研究対象にされるやつでしょ? やだやだ!


「ハルさん、逃げて!」


「村長、こっちは任せて!」


村のみんなが、私をかばうように立ちはだかる。


ダメだ、みんな巻き込んじゃう――!


……ってことで、奥の手を出すことにしました。


 


* * *


 


「……説教、します」


「は?」


「私はね、5人の子どもを育ててきた“お母さん”なんです!」


私は深呼吸して、全力でスキル【説教オーラ】を発動した。


「人の家に勝手に押しかけてきて、“お前を確保する”って、それ、大人のすること!? 誰がそんなのについていくって言ったの!?」


びりびりびり~っ。


空気が震えて、地面が小さく揺れる。兵士たちは、うっと目を押さえて後ずさり。


「はっ……これは、魔法!?」


「いいえ、愛情と根性とお母さんの魂ですっ!」


場が静まり返る。


私は、そのまま手製のパンケーキを取り出した。


「これでも食べて、もう一度よく考えてください」


……兵士たち、全員完食。

「……うまっ」「なんだこれ、もちもち……」


「帰って上に報告します。“対象、超怖い。説教と料理スキルが神”って」


そう言い残して、馬に乗って帰っていった。なんか……いろいろ間違ってない?


 


* * *


 


「ハルさん、かっこよかったっす……!」


「いやいや、私ただ怒っただけだからね?」


「魔法とかじゃなくて、“お母さんの力”ってやつですか?」


「そうそう。異世界でも、主婦は最強ってことで♪」


私は胸を張って、今日も村の洗濯場に立つ。


よーし、次は“アイロン術”を教えちゃおうかしら!


異世界ママ、今日も元気に無双中!



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