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パソコン人文倶楽部

第1話:東アジアの夜明け

## 1


ある日、東京・永田町。


総理官邸の記者会見場に、日本、韓国、台湾の首脳が並んだ。歴史的瞬間だった。


「本日、我々は東アジア自由経済協力機構の設立を宣言します」


日本の首相が宣言すると、会場から拍手が湧き起こった。偶然にも、3カ国すべてで対中強硬派の政権が誕生していた。中国の経済的圧力に対抗するため、歴史的な対立を超えて手を結ぶ。誰もが不可能だと思っていたことが、現実になった瞬間だった。


## 2


それから10年。福岡空港国際線ターミナル。


「本日の搭乗者数、12万3千人です」


空港職員が報告する。10年前の10倍。ソウルまで1時間、台北まで2時間半。まるで国内線のような感覚で、2億人が行き来する巨大経済圏が生まれていた。


ビジネスマンは朝ソウルで会議をして、昼には東京でランチミーティング。学生たちは週末に台北へショッピング。「東アジア・エクスプレス・パス」を持てば、入国審査は顔認証で10秒。


## 3


秋葉原。


「見て見て!『鬼滅の刃』の韓国版WebToonが更新されたよ!」


日本人の女子高生がスマホを見せる。韓国人アーティストが描いた公式スピンオフ作品。逆に、韓国の人気WebToon「神之塔」は日本のアニメスタジオが制作し、世界中で大ヒットしていた。


街のあちこちで、日本のアニメキャラと韓国のアイドルがコラボしたポスターが貼られている。台湾発のVTuberグループ「電脳天使」は、3カ国語で配信し、登録者数は5000万人を突破していた。


## 4


大阪・堺市の工業地帯。


「JKTセミコンダクター」の巨大工場が24時間稼働している。Japan-Korea-Taiwan の頭文字を取った合弁会社。日本の精密加工技術、韓国の量産ノウハウ、台湾の設計力が融合した、世界最先端の半導体工場だった。


「今四半期の生産高、過去最高を更新しました」


3カ国から集まったエンジニアたちが、リアルタイム翻訳イヤホンを付けて会議をしている。言語の壁を越えて、技術者たちは一つのチームとして動いていた。


## 5


ソウル・江南区のゲーム開発スタジオ。


「新作『サムライ×K-POP』、事前登録が1000万人突破!」


日本の戦国時代を舞台に、K-POPアイドルが武将となって戦うモバイルゲーム。荒唐無稽な設定だが、両国のファンを虜にしていた。キャラクターボイスは日韓台の人気声優が担当し、音楽は3カ国のトップアーティストがコラボ。


開発チームには、東京、ソウル、台北からリモートで参加するクリエイターも含まれている。時差がほとんどないことが、この地域の強みだった。


## 6


台北・信義区の新築タワーマンション。


「32階の部屋、日本人の投資家が即決で購入されました」


不動産業者が説明する。東アジア経済圏の誕生で、不動産投資も国境を越えた。日本の低金利マネーが韓国・台湾に流れ、逆に韓国・台湾の富裕層は東京の不動産を買い漁る。


マンションの1階には、日本のコンビニ、韓国のカフェ、台湾の小籠包レストランが並ぶ。住人の3分の1は外国人。「東アジアのマンハッタン」と呼ばれる新しい都市の姿がそこにあった。


## 7


名古屋郊外、「アジア・モビリティ・センター」。


自動運転の電気自動車が、テストコースを滑らかに走っている。車体には「JKT Motors」のロゴ。日本の自動車メーカー、韓国のバッテリー企業、台湾のAI企業が共同開発した次世代モビリティだ。


「近い将来の量産開始を目指します。年間生産台数は100万台」


CEOが発表すると、株価は瞬時に跳ね上がった。「東アジアのテスラ」の誕生に、世界中の投資家が注目していた。


## 8


横浜・みなとみらいのライブ会場。


2万人の観客が熱狂している。ステージ上では、日本のロックバンド、韓国のアイドルグループ、台湾のシンガーソングライターが次々とパフォーマンスを繰り広げる。「East Asia Music Festival」。


観客の手には、3カ国の国旗を組み合わせたペンライト。言葉は違っても、音楽に国境はない。アンコールでは全員で「We Are One」を合唱。10年前には考えられなかった光景だった。


## 9


京都大学の研究室。


「リアルタイム翻訳の精度、99.7%を達成しました」


日韓台の共同研究チームが開発した翻訳AI。文法の違いを瞬時に変換し、方言やスラングまで理解する。この技術により、言語の壁は限りなく低くなった。


研究室には3カ国の大学院生が集まり、次世代の技術開発に取り組んでいる。「言語の違いは、もはや創造性の障害ではない」。指導教授の言葉が、新しい時代を象徴していた。


## 10


東京駅の新幹線ホーム。


「本日より、東京-ソウル-釜山を結ぶ『東アジア新幹線』が開業します!」


日韓海底トンネルの完成により、陸路での移動が可能になった。東京からソウルまで3時間半。飛行機より時間はかかるが、市街地から市街地へ直接移動できる利便性が評価された。


開業初日、満員の新幹線が東京駅を出発する。車内では、ビジネスマン、観光客、留学生が思い思いの時間を過ごしている。2億人経済圏は、物理的にも一つにつながった。


## 11


しかし、その頃。


東京・品川のマンションで、タナカは複雑な表情でニュースを見ていた。


「東アジア共通通貨、導入は困難との見方強まる」


画面には、各国の中央銀行総裁が難しい顔で会議をしている様子が映っている。経済統合は進んでも、通貨統合への道は遠い。円、ウォン、ニュー台湾ドル。それぞれの国のプライドと歴史が、最後の壁として立ちはだかっていた。


タナカは窓の外を見る。きらびやかな東京の夜景。10年でこれだけ変わった。だが、本当の統合への道のりは、まだ始まったばかりかもしれない。


机の引き出しから、古いUSBメモリを取り出す。「XEN」のロゴが薄く見える。


いつか、この構想が日の目を見る時が来るのだろうか。

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