第18話 父の足跡
5月の陽光が桜ヶ丘学園の廊下を明るく照らしていた。
放課後の委員会活動を終えた陽は、森下教授に呼び止められた。
「君のお父さんの研究室を見つけたよ」
陽の心臓が高鳴った。
「父さんの……研究室?」
「ああ、旧研究棟の地下だ。評議会が封鎖していたが、古い鍵の複製を作った。興味があるなら、案内しよう」
「もちろんです」陽は即答した。
その夜、陽、葵、零の3人は、森下教授に連れられて旧研究棟の地下にある父の研究室に足を踏み入れた。
部屋は埃をかぶっていたが、意外にも整然としていた。壁一面の本棚、大きな作業台、複雑な実験装置。7年間、時が止まったままの空間だった。
「理人くんはこの事実を知り、評議会に抗議した。だが聞き入れられなかった」
教授は、父が残した「境界結晶抽出の倫理的問題」というレポートを指さしながら説明した。そこには、評議会による強制的な結晶抽出の非道な実態が記録されていた。
「だから父さんは……別の方法で対抗することを決めたんだ」
葵は別の本棚を調べていた。彼女の手が1冊の本に触れた瞬間、「記憶閲覧」の能力が発動した。
「どうしたの?」陽が駆け寄る。
数秒後、彼女は息を切らせながら陽の腕をつかんだ。
「あなたのお父さんと……私の家系の繋がりを」葵は驚いた表情で言った。
「この本は私の曽祖父が書いたもの。彼も境界の研究者だったの」
「君の家系は境界の守護者なんだよね?」
「そう」葵は頷いた。
「私たちの家系には『境界の予言』と呼ばれる古文書が伝えられていて……それによると、『真実顕現』の力を持つ者が、いつか境界の真実を暴くと予言されているの」
「それが……僕ってこと?」
「私にはそう感じたわ」葵の青い瞳が決意に満ちていた。
零が床の一部に違和感を覚え、隠し場所を発見した。中には金属製の筒があり、さらにその中からは巻物のような紙――「境界の地図」が出てきた。
「これは……『位相転移点』」陽が図面の端に書かれた文字を読んだ。
「非常に重要な場所だ」教授は真剣な面持ちで言った。「2つの世界の境界が最も薄くなる場所。そして、境界力を失いつつある者は本能的にこれらの場所に引き寄せられると言われている」
突然、部屋の温度が下がった。
「誰か来る!」葵が声を上げた。
扉が開き、青いメッシュの入った茶色の髪の男が入ってきた。
「やっぱりここか。理人さんと同じ気配がする」
「碧水カイト《あおみ カイト》」男は名乗った。「『位相転移』の力を持つ者さ」
「侵食者の幹部……」葵が緊張した声で言った。
「で、君が高城理人の息子かい?」カイトは陽を見た。
「あなたは父さんを知っているの?」
「ああ、よく知ってる。彼は私を救った恩人だよ」
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