第17話 封鎖術師と進化した力
データの解析を終えた後、陽たちはこの情報を秘密にすることに同意した。評議会に漏れれば危険だと判断したからだ。まずは確かな証拠を集め、それから動く。
森下教授の研究室を出て、陽たちが校庭に出ると、空が赤く染まり始めていた。
「もし父さんが『影帝』なら……」陽は呟いた。
「俺たちは敵同士ということになる」零が続けた。
「まだわからないよ」葵は陽の肩に手を置いた。
「確かなことは、あなたのお父さんには失踪する理由があったということよ」
「そうだな」零も同意した。
「彼が何者であれ、目的は評議会の不正に対抗することだったようだ」
突然、校舎の方から爆発音が聞こえた。三人が振り返ると、北館の窓から煙が上がっているのが見えた。
「侵食点?」零が警戒した。
「違う」陽の「真実顕現」が捉えた。
「あれは……」
彼の言葉が終わる前に、白い人影が煙の中から飛び出してきた。白と水色を基調とした装飾の少ない衣装に身を包み、銀白色のショートヘアを持つ若い女性。両手には白い手袋をはめている。
「封鎖術師・白河ミユキ!」零が声を上げた。
「そのバッジの色と模様……境界委員会ね」ミユキは冷たい声で言った。彼女の水色の瞳が三人を捉えた。
「そして……高城陽」
「僕を知っているの?」陽は驚いた。
「もちろん」ミユキは表情を変えず答えた。
「あなたに会いに来たのよ」
零が陽の前に立ちはだかった。
「何の用だ」
「『影帝』様の命令」ミユキは言った。
「高城陽の能力を確認し、封じるように言われたわ」
「封じる?」
「私の『封鎖術』は、他者の境界力を一時的に封じる能力」彼女は白い手袋を見せた。「接触するだけでいい」
零の周りの空気が震え始めた。
「やらせはしない」
「邪魔をするなら……」ミユキの手が光り始めた。
「排除する」
彼女の手から白い光線が放たれ、零に向かって飛んできた。零は「空間分断」を発動させ、光線を遮断した。
「葵、陽を守れ!」零が叫んだ。
葵は陽の手を取り、校舎の影に隠れた。
校庭では、零とミユキの戦いが続いていた。しかし、ミユキの動きは速く、零を徐々に追い詰めていた。
二人は動き出した。葵が右から、陽が左から迂回し、ミユキを挟み撃ちにする作戦だ。
「何をしているの?」ミユキの声が突然、葵の耳元で聞こえた。彼女は葵の背後に回り込んでいた。
白い手袋が葵の肩に触れる。葵の周りの青い光が急速に薄れていき、彼女の表情が驚愕に変わった。
「葵!」陽が叫んだ。
「境界力を封じたわ」ミユキは静かに言った。
「24時間は使えない」
零が葵を助けようと動いた瞬間、ミユキは彼の隙を突いた。白い光線が零の作った空間を貫き、彼の腕を掠めた。
「くっ……」零がひざをつく。
「次はあなたね」ミユキは陽に向き直った。
陽は恐怖を感じながらも、「真実顕現」を最大限に発動させた。ミユキの周りの色を見る。すると、彼女の周囲には強い青と、わずかな紫が見えた。
「あなたは本当に僕たちに敵対する立場なの?」陽は言った。
ミユキの動きが一瞬止まった。
「迷っているんでしょう?」陽は続けた。
「なぜ『影帝』は僕の力を封じようとするの? 父さんと関係があるなら、一緒に評議会に対抗するべきじゃないの?」
「黙りなさい」ミユキの声がわずかに震えた。
「私は命令に従うだけ」
陽は集中した。ミユキの言葉の周りの色が変わっていく。青と紫、そして少しの赤。彼女自身も確信が持てていないのだ。
そして、陽の視界に変化が起きた。これまでは色だけだったが、今、ミユキの周りに形が見え始めた。光の糸のような線が彼女から伸び、遠くへと続いている。
「これは……」陽は驚いた。
父のメッセージにあった「形として真実を視る」段階――陽の能力が進化した瞬間だった。
光の糸をたどると、それは校門の外へと伸びていた。そこには――別の人影が見えた。黒いマントに金と銀の装飾が施された仮面を着けた人物。
「影帝……」陽は呟いた。
ミユキが陽に迫る。その手が光を放ち、陽に触れようとした瞬間、突然、光の糸が震え、切れた。ミユキの動きが止まる。
「何?」彼女は混乱した様子を見せた。
「作戦……中止?」
彼女は周囲を見回し、そして決断したかのように後退した。
「今日はここまでね」ミユキは冷たく言った。
「だが、次は必ず任務を完遂する」
そう言って、彼女は白い霧となって消えた。
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