第二十話「逃げない。守ると決めたから」

夜、アパート前。

 帰宅する植村さんの前に、立ちはだかる影。


「……久しぶりだな」

 低い声。煙草の火が赤く瞬く。

 ——元旦那。


 植村さんの表情が凍りつく。

「もう、やめて……」

「やめられるかよ。お前は俺の女だろ」


 腕を掴まれそうになった瞬間。

「やめろ!!」

 俺は飛び出していた。



「……北山さん?」

「触るな! 彼女は嫌がってる!」

「はぁ? 誰だテメェ」

「隣人です」

 声が震える。でも視線は逸らさなかった。


「ふざけんなガキが!」

 元旦那の腕が振り上がる。

 反射的に俺は立ちはだかり、胸ぐらを掴まれながらも叫んだ。


「俺が守るって決めたんだ!!」


 一瞬の静寂。

 元旦那の目が細く光り、植村さんが息を呑む。



「——ほぅ。面白ぇじゃねぇか」

 男は不気味に笑うと、力を抜いて手を放した。

「また来る。次は覚悟しとけよ」

 吐き捨てて闇に消えていく。


 その場にへたり込んだ俺。

 震えていた。でも——逃げなかった。


「……大丈夫ですか」

 植村さんの声が震えていた。

 俺はなんとか笑って答えた。


「俺が隣にいる限り……あなたは一人じゃないです」


 その瞬間、植村さんの目に光が揺れた。



 遠くで猫丸がべすを連れて見ていた。

「おう、兄ちゃん……ちょっとは男になったな」

「ワン!」


 夜空に夏の風が吹き抜けた。

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