勿忘草の鎮魂歌

憧宮 響

第一章 祈りと転機

晴歌はるかは、祈りを捧げていた。

ここはエルシー教会。

世界的に有名な、大宗教の教会だ。

大都会の中にありながら、中に入れば天国のような別世界の、静かな、神秘的な空間の中に、彼女はいた。


「・・・また、来させていただきます。ありがとうございました」


晴歌は大きなエルの神の金色像こんじきぞうに、深々とお辞儀をし、礼拝堂を後にした。



その後、晴歌は教会内の図書室にいた。

エルシー教の経典はもちろん、古今東西の良書が数多く収められている。

しかし、彼女はそれ等を読まず、円形のテーブルでノートを広げていた。


「・・・よし」


小さく呟くと、ノートにシャーペンで文字を綴っていく。

サラサラと、迷いなく、晴歌はペンを動かす。


「・・・できた」


完成したのは、詩だった。

内容は、一見すると失恋のように見える。

しかし、実際はー


「・・・届くと、いいな」



「ハルー!」


晴歌が教会内の食堂で読書をしていると、親友の雪奈ゆきなが階段から姿を現した。


「お待たせ」

「そんなに待ってないよ。それで、話って?」


雪奈は晴歌に「話がある」と言って呼び出していた。


「ん・・・エルシーって、バンド活動もしてるでしょ?私、そのバンドの人達と親しくさせてもらってて。ハルの詩、歌にできないかと思って」

「え・・・」

「あ、もちろん、いやならいいんだよ?でも、なんていうか・・・私、ハルに前に進んでほしいんだ。見てて悲しくなるっていうか・・・エゴ、なんだけどね」

「ユキ・・・」


それは、晴歌自身、思うところではあった。

でも、見ないふりをしていた。

それを、親友は胸を痛めて、見ていたのだ。


「ねぇハル。辛いのは理解してるつもり。でもこのままじゃ、彼も心穏やかになれないと思う」

「私・・・」

「バンドの人達に、会うだけ、会ってみない?」


親友の優しい表情と声に、目が潤みそうになる。

断ることなど、できそうになかった。


「・・・わかった」


安堵したように、雪奈は晴歌を見、頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

勿忘草の鎮魂歌 憧宮 響 @hibiki1003

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る