勿忘草の鎮魂歌
憧宮 響
第一章 祈りと転機
ここはエルシー教会。
世界的に有名な、大宗教の教会だ。
大都会の中にありながら、中に入れば天国のような別世界の、静かな、神秘的な空間の中に、彼女はいた。
「・・・また、来させていただきます。ありがとうございました」
晴歌は大きなエルの神の
✳
その後、晴歌は教会内の図書室にいた。
エルシー教の経典はもちろん、古今東西の良書が数多く収められている。
しかし、彼女はそれ等を読まず、円形のテーブルでノートを広げていた。
「・・・よし」
小さく呟くと、ノートにシャーペンで文字を綴っていく。
サラサラと、迷いなく、晴歌はペンを動かす。
「・・・できた」
完成したのは、詩だった。
内容は、一見すると失恋のように見える。
しかし、実際はー
「・・・届くと、いいな」
✳
「ハルー!」
晴歌が教会内の食堂で読書をしていると、親友の
「お待たせ」
「そんなに待ってないよ。それで、話って?」
雪奈は晴歌に「話がある」と言って呼び出していた。
「ん・・・エルシーって、バンド活動もしてるでしょ?私、そのバンドの人達と親しくさせてもらってて。ハルの詩、歌にできないかと思って」
「え・・・」
「あ、もちろん、いやならいいんだよ?でも、なんていうか・・・私、ハルに前に進んでほしいんだ。見てて悲しくなるっていうか・・・エゴ、なんだけどね」
「ユキ・・・」
それは、晴歌自身、思うところではあった。
でも、見ないふりをしていた。
それを、親友は胸を痛めて、見ていたのだ。
「ねぇハル。辛いのは理解してるつもり。でもこのままじゃ、彼も心穏やかになれないと思う」
「私・・・」
「バンドの人達に、会うだけ、会ってみない?」
親友の優しい表情と声に、目が潤みそうになる。
断ることなど、できそうになかった。
「・・・わかった」
安堵したように、雪奈は晴歌を見、頷いた。
勿忘草の鎮魂歌 憧宮 響 @hibiki1003
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