第20話 グラディアス=インフェリオ戦Ⅳ

「キシ」


再び姿を消す。駄目だ…再展開出来ないっ!!!


どこに現れる!?奴の攻撃を受けてはならない。


「クソがっ!!!!」


死に対する恐怖か、あるいは獣の勘か...。上空に向かい跳躍する。

先程まで俺が立っていた所。そこは奴の鎌により引き裂かれていた。

そして、俺の位置を再確認し、再び奴の鎌が迫りくる。それは不可避の斬撃。避ける事はもう出来ない。防御する事も無理だ。絶望…その一言。


”冷静になれ。帳…お前はこの程度で諦めるのか?”


エルドラドは言ったぞ…”我が見届けてやる”と…。

ならば…敗北は許されない…そうだろう?エルドラドの最初にして最後の臣下。それが俺だ!!!


「全部持ってけ!!!!!!【光輝断理・終光刃オウリス・ラグナヴェール】!!!!!!」


俺の中に流れる【光輝】の魔力…その全てを使った今使う最大威力の大技。

俺の魔力、その全てを一点に集める斬撃の最終奥義。


””””””その斬撃が今…グラディアス=インフェリオの【絶望の断鎌】と衝突する”””””””


「キシャァァァァ!!!!!!」


「いい加減にくたばりやがれっ!!!!このクソカマキリが!!!!!」


バシュゥゥッ!!!!


光と闇の波動が正面衝突し、地面が、空が、空間が、ギチギチギチィィィ……ッ!!!と悲鳴を上げる。

鎌と刃が擦れ合い、火花とともに”火炎”が空間を焦がす。

”火炎”ではない、“因果”が爆ぜている。”干渉”による因果の衝突。

どっちの”因果”が勝つか。最後に立っているのは”因果”が勝った方。


「──ギィッ……!!」


「……こっちは、背負ってんだよ──”希望”をな!!!!」


ギャリィィンッ!!

断鎌が軋む。

軋んで、歪んで、砕かれて、”否定”された。


「……終わりだぁああああ!!!お前の“絶望”は──ここで、終わらせる!!」


最後の閃光。

やつの鎌により破損した【光輪】が最大加速で旋回し、帳の”光刃”が完全に《ヴェル=シン=サイズ》の胸を断ち割った。


ズブゥゥゥゥッ……!!!


巨躯が崩れ、双鎌が砕け散り、光の中に溶けて消えた。

その瞬間、空間に張り詰めていた緊張すらも崩れ去るように、静寂が戻る。


「はぁっ...はぁっ…!!!」


最後に立っていたのは俺。あいつの”絶望”と俺の”希望”。打ち勝ったのは俺の”希望”だ。


「…もう限界…………だ………」


立っている事すらままならない。背中の傷、左目の傷。そして…限界を数回超えたことによる代償。

その全てが今俺を襲う。


(護りきる事は出来た…な)


俺の意識はそこで途切れた。





(なんだこの空間…俺は死んだのか?)


目の前に広がる空間。えも言われぬ気持ち悪さが胸中を支配する。


(あれは…女の子…?)


誰かの記憶か?それにしても知らない少女だ。


その見すぼらしい恰好。多分…位の高い身分では無いだろう。


だが…その美しい銀髪に整った顔立ち。それに…エルドラドと”対を為す”ような【灼銀の瞳】。


(クソっ!!ここは何処だ?)


自身の体が無い事もそうだ。死後の世界にしては気持ち悪いぞ!


(うん?あれは…)


少女が駆け寄った先に居た人物。


…似ている。その金色の紋様広がる肌。全てを見通す【エルドラドの瞳】。その存在を象徴するかのような【光翼】。


「エル君っ!!おかえりなさい!」


えぇっ!!!アレまさかエルドラド!?めっちゃイケメンやん!!


「セリア…いい加減その服を変えなさい」


「えぇ~だってエル君が拾ってくれた時のやつだしぃ…」


「拾った訳じゃ…ほれ、今から仕立てに行くぞ」


「エル君が選んでくれるの!?ならいくっ!!」


なんか…幸せそうだな…。互いに信頼し合っている関係だ。


「セリアッ!隠れろ!!」


だが…そんな平穏も長くは続かなかった。


「失礼する。私は王直属の近衛騎士シャレバと言う。銀髪の髪と瞳の少女を見なかっただろうか」


「いや、見てないな。生憎最近は魔術の研究に明け暮れていてな」


「虚偽は極刑であるぞ」


「私が嘘をついているとでも?」


「いえ、本当ならば謝罪しよう」


「なら早く帰ってくれたまえ。私は研究で忙しいんだから」


「失礼した。では見かけたら連絡をするように」


そう言って部屋に入って来た男が出ていった。どこかの王国か。王直属の近衛騎士とか言ってたもんな。


「もう出てきていいよセリア」


「うぅ…なんで私のこと…」


「キミも僕も龍種だからね。…いやキミは純粋な龍種では無いけど」


龍種って…完全に人の見た目だが…擬人化って奴か?


「もういやっ!こんな力も…こんな世界もっ!!全部きらい!」


「落ち着いて。セリアは僕が”護る”から」


ひゅ~。それはもうプロポーズみたいなものだろう。


「エル君……でもエル君が”護って”くれるなら安心だね」


「僕はこれでも”龍種の王”だったからね」


だった?まあ良いか。


「エル君の嘘つき~王様だったらこんなぼろぼろの家にすんでないよ!」


「ボロボロって言うな!これでも頑張って作ったんだ」


へぇ...エルドラドにもこんな時があったんだなぁ。


セリアと言う少女がこれからどうなっていくのか…少し気になってしまった。


「さぁ...今日は休むよ」


そう言ってランプの灯を消す。


(待ってくれ!まだ、まだ見させてくれよ!!!)


ランプの灯が消えたと同時にこの世界が崩壊していく。ここから先はまだ見せないとでも言うかのように。

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