第6話 黙殺課

黙殺課|語り断絶を担う都市防衛部署


概要

黙殺課は、2009年に都市管理下に設置された非公開特殊機関。

鬼ノ遊戯によって生じる語り感染を“無音化”することを任務とする。

語り鬼の言葉・波形・意味・記憶構造の破壊と遮断を担い、都市の“語り圏”を再定義する者たち。


主な任務


- 語り構文の解析と断絶トリガーの生成

- 感染者(語られ者)の沈静化およびリセット処理

- 語り鬼との非言語交戦/残響処理

- Onigame通知網の傍受と干渉

- 市民に対する語り遮断フィールドの散布


所属者例:雨宮 澪(記録級黙殺官)

語り波形の視覚解析に長け、言葉の感染力と構造破壊式の断絶を専門とする。

“狩り”ではなく“否定”を座標とした戦闘様式を構築。

蓮華への感情的執着と論理的敵意を併せ持つ。


作戦時口語句例


> 「語りはすでに拡がっている。構文断ち、実行」

> 「感染者は沈黙域へ──黙殺課、展開」

> 「語る者に語る言葉は不要。断絶対象と認定」


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了解です。それでは、黙殺課の誕生にまつわる澪・蓮華・氷室の交錯する語りを、ライトノベルの文体で長文に再構成してお届けします。


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『黙殺課〈モクサツか〉――語り断絶者たちの都市譚』


春の終わり、空がうっすら黄味がかった色に染まっていたあの日。

都内某所、臨時に設けられた対語り構文解析班の会議室には、三つの異なる“語り”が、密かに衝突の火花を孕みながら揃っていた。


雨宮澪(あまみや みお)。その瞳はよく澄んでいた。語り鬼と化した兄を持ち、構文解析員として日々“意味の残滓”を追っている少女。

氷室鷹芽(ひむろ たかめ)。元逃亡者にして、かつて語り鬼の影に触れながら語らなかった唯一の男。

そして、鬼塚蓮華(おにつか れんげ)。都市に感染を撒き散らす“語りの鬼”にして、澪の解析構文に最初に反応した男。


それは、語り断絶という思想が都市機能を揺るがすほどの意味を持ち始めた最初の夜。

誰もが“語り”に触れていた。触れた瞬間から、沈黙の意味は変容し始めていた。


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「……語りは感情ではないんです。構造です。反構造で分解できます」


澪の口調は静かだった。しかし、その背後には確かに炎があった。

彼女が提示したのは、兄の語り鬼化、蓮華の語り動画解析、そして市民記憶改竄に残された微細な“語り波形”の相関性。


「構文を断てば、語り鬼は意味を失います。

つまり……殺せます。“語り”を」


その瞬間、会議室の空気が変わった。

誰もが、都市で広がる感染が“言葉”であり、“意味”であり、“構文”であることを受け入れるしかなかった。

澪は語り断絶班初の正規隊員となり、都市の「語り防衛網」──黙殺課の発足に向けた鍵となった。


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だが、“語りを語らぬ”者がいた。氷室鷹芽。


彼は語り鬼と接触しながらも、自ら語ることをしなかった。

逃亡記録には、語りから身を守るための“回避語彙”や“構文遮断式”が断片的に記されていた。


「語られただけで、俺は壊れかけた。

でも……語ったことは一度もない。

それでも、あいつの声だけが耳の奥に残ってるんだ。ずっと」


その証言が、黙殺課に新たなモデルを与えた。

“語られる=発症”、“語る=拡散”。

都市の感染モデルは、彼の声によって、より深く「語り構文」の本質へと近づいた。


氷室は黙殺課に所属することなく、非公式協力者として構文遮断ノートの提供を続けた。

それは沈黙を語るノートだった。誰にも語れぬ記憶の断面だった。


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そして、語りの発端にいた鬼塚蓮華。


彼は、澪の構文解析に最初に触れる語りを、まるで楽しむかのように紡いでいた。

声は鮮烈。意味は錯乱。だが、構造はあまりに正確だった。


「黙らせたいなら、語ってみせろよ。

俺の語りに触れずに、どう断てる?」


その言葉は予言だった。

“黙殺”そのものが、新たな語りを生む。

澪たちが構文を断つたび、都市には新たな“黙殺された語り”が残響として生まれていく。


蓮華は語られ続けた。語り鬼としてではない。

都市の黙殺課が黙るほど、その語りは逆説的に響くようになった。


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―設立記録 第零号:黙殺課設立文(機密)


> 「語りの存在が都市構造を歪めるとき、

> 我々は語らないことの自由を守る防衛を起動する。

> 語りを断つことは、語りに触れることであり、

> この行為が感染の種となることを許容した上で──

> 都市の“黙”を守ることを最優先とする」


それは誓いか、呪いか。

語り断絶者とは、“語りに触れながら語らぬ者”である。

澪は兄の語りに揺らされ、氷室は逃げ続けた語りに耳を塞ぎ、蓮華は語られることで語りを更新していた。


語りを殺すために語りを知り、

語りに触れながら沈黙を守る者たちの物語。


彼らが歩み始めた“黙”の物語は、未だ終章を持たない──。

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