第6話 聖女たち
翌日からあたしは、他の聖女たちに混じって日々を過ごすことになった。
朝起きたら、礼拝に参加。朝食を摂ってからは清掃をして、それから教養を学ぶ。教養っていうのは、聖典に言葉遣い、礼儀作法、祈りの唄に刺繍……とにかく盛りだくさん。もう、ちんぷんかんぷんよ!
ドナとかいう茶色い髪にそばかすの少女は、優等生らしくやたらと褒められていたけど。こんなのが何の役に立つのかな?
たくさん詰め込まれた後は、夕方に孤児院訪問をしてから、ようやく自由時間になった。
(あー、もうぐったりだわ!)
村に比べて綺麗な服は着られるし、食事も美味しいけど、全然楽しくないじゃないの!言葉遣いはすぐ矯正されるし。聖女見習いたちとばっかり一緒だから、素敵な出会いもないし!
トマ神父から昨日聞かされた話によると、聖女たちは十五歳以上の下級貴族ばかりが三十人ほどいるらしい。思ったより多くはないけど、この建物にしてはちょうどいい人数かも。
みんな綺麗に手入れされて、肌や髪や爪はツヤツヤだけど。華やかな美貌のご令嬢ばかりなのかと思っていたのに……なんていうか、ぱっとしない娘たちばっかりなんだよね。
(やっぱり、あたし……いや、私って王都でも目立つ美女なんだわ!)
聖女たちは、遠巻きにしていて私に話しかけてくることはない。様子を伺っているのかもしれない。だけど、私が部屋を出ようとした時、かすかなささやき声が聞こえた。
「農村のご出身なのですって。所作が荒っぽいのは仕方ないわ。わたくしたちがお手本を見せてあげないといけないわね」
意地悪そうな、黒髪をぐりんぐりんに巻いたご令嬢だった。まあ、他の娘たちに比べたら華やかな顔だけど、私ほどじゃないわ。確か……コラリーヌとかいう気取った名前だった気がする。
(……ふん!嫉妬深い女って、農民でも貴族でも一緒ね!)
こんな対応には慣れている私は、そのまま何事もなかったかのように部屋を出た。
* * *
「……ジネットさま!」
廊下を歩いていると、不意に声をかけられた。
振り向くと、小柄な少女が立っていた。薄茶の髪に、黒い瞳。団子っ鼻で美人とは言えないが、笑った顔には愛嬌がある。
「突然申し訳ありません。私は、聖女のノラと申します」
「あっ、はい。何の……用ですか?」
他の聖女が話しかけてくる理由がわからなかった。コラリーヌみたいな敵意がなくたって、みんな私のことを“異物”みたいに思ってるのは、なんとなく気づいてたから。
でも、彼女のまなざしには、敵意も打算もない。ただまっすぐに“私”を見ている。
「あの、私……ジネットさまみたいな“本物の聖女様”は初めて見ました!豊穣の奇跡を起こされたと聞いて……私の領でも小作農の方が多くて……なので豊穣の奇跡に心から感動しました。それに、こんなに美しい方だなんて……」
ノラはうっとりとした顔で私を見つめた。
(あら、話のわかる娘もいるのね!)
* * *
それから、私たちはあっという間に仲良くなった。
ノラの話によると、聖女って言っても、実際は“下級貴族向けの、花嫁学校の生徒”みたいなものらしい。王立学園に行くほど優秀でも、舞踏会で選ばれるほど華やかでもない——そんな娘たちが多いんだとか。なるほど、それでちょっと地味な子たちばかりだったのね。
(ま、比べる相手が私じゃ、誰でもそう見えちゃうかもしれないけど!)
「ジネットさまは、本当に素敵なお方です」
いつも、そう言って憧れのまなざしで私を見つめるノラ。彼女と話すのはとても楽しかった。貴族だからと偉そうにせず、言葉遣いなどを教えてくれるのもありがたかった。思えば、フルリ村でも浮いていた私にできた、初めての女友達かもしれない。
ノラとの会話は、つまらない日々の中でも大きななぐさめになった。
……にしても、花嫁学校ってことは、出会いのチャンスもたくさんあるはずよね?この地味な聖女たちのなかに、“本物で美しい私”が加わったら……ふふ、ぜったいモテまくるに決まってるじゃない!楽しみ〜!
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