第5話 大司教

この世のものとは思えないほど美しい男から、信じられないくらいひどい言葉を浴びせられて——あたしは、一瞬、思考が止まった。


(は?……何なのこの男!)


ただの嫌な奴じゃん!顔に騙されるところだったわ。……まさかの、男にいびられるパターンは生まれて初めてだなあ。でもあたし、こんなことで負けないんだからね。


「……確かに、フルリ村は田舎ですけど、あたし、聖女になって……みんなの役に立ちたくってここに来たんです!言葉遣いとかは、これから、気をつけますね!ふつつかものですが、よろしくお願いします」


あたしは精一杯、聖女っぽく振る舞ってみたけど、大司教は不機嫌そうに腕を組み直しただけだった。


少しだけ、間を置いてから、大司教は言った。

「あなたが“豊穣の聖女”だと言うのなら、それこそ王都では不釣り合いです。……ここには、畑は一つもありませんから。村でそのまま麦を育ててもらったほうが、国に益があります」


(せっかく村を出られたのに、またあそこに戻れって?──冗談じゃない!)


「そりゃあ、村では麦を育ててましたけど……でも、他のことだって、やってみなきゃわかりません!」


大司教は腕を組んだまま、睨むでもなく、目を逸らした。


「あなたは、司祭たちにいいように使われるだけですよ。……まあ、私の言葉が届かないほど愚かならば、言ってもしょうがありませんね。せいぜい、我が教会のために尽くしてください」

それだけ言うと、去っていった。


(なによ、悔しい……悔しい!)


* * *


部屋に戻るとすぐ、トマ神父が尋ねてきた。彼はあたしの相談役を兼ねて、王都に残ることになったようだ。


「大司教様は、あたしが利用されてるだけだって、いうんです」

神父のやわらかな表情に、つい弱音がこぼれ落ちた。


神父は、微笑んで言った。

「そんなことはない。大司教様は、つらく当たったように見えるが、その実は君の意志を試そうとされているのだろう」


「君が豊作を呼び込んだのも、私とともにここにきたのも、すべては神のご意志だ。君は、選ばれてしまったんだよ。気づいていたのではないかね?」


あの村には不似合いだったあたし。不思議なほど実った麦。人々の崇拝のまなざし。いろんなことが、ひとつにつながっていく。


(あたしが……選ばれた?)


「信仰とは、使命と向き合うことだ。君が運命に従えば、多くの人が救われるだろう。……もちろん、君自身も」


その言葉は、ゆっくりとあたしを包み、ささくれだった心が癒されていくみたいだ。


「君がもし村に帰ったら、村人たちは喜ぶだろう。——でも、“それだけ”さ。ここにいれば、もっと多くの人が、君の存在を尊ぶ」


(そう、そうよね……あそこに帰ったって意味なんかない)


(やっぱり、トマ神父はあたしのことを利用なんかしてない)


大司教の言葉が本気だったのか、私を試していたのかはわからないけど。でも、いずれにしても、あたしは立派な聖女になって、あの男を驚かせてやると決めたのだった。


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