同じ車両の子が可愛すぎたから話しかけようと思うんだ

鈴木。

第1話 毎日の癒し

 俺の高校は朝8時30分までに自分の席に着席しなくてはいけないというルールがある。朝のHRを速やかに行うためらしい。

 家から高校まではかなり距離があるため、電車を使って通学する必要がある。家の最寄から高校の最寄まで約20分。電車通学は何気に辛いものだ。朝早く起きなければいけないし、俺が使っているような地方の電車は、一本電車に乗れないと次の電車が来るまでしばらく時間がかかる。


 7時51分、ホームにいつも乗車する電車が到着した。ゆっくりドアが開き、降りる人を待ってから俺も乗り込む。

 俺が住んでいる場所が田舎なのもあって、電車は基本毎朝空いている。車両に入ってすぐ右にある席に座った。ここが俺のいつもの特等席。

 なぜここの席が好きなのか、理由は二つある。

 一つ目はただ単に端っこが好きということ。眠かったら横の壁に寄りかかれば誰の邪魔にもならないし、最高だ。

 もう一つの理由は...


 約8分ほど電車に揺られていると、次の駅に着いた。反対側のドアが開くするとそこには、黒髪ロングのかわいらしい女子高生が立っている。顔は小さくて少し丸め、黒目が大きくてたぬき顔っていうやつだろうか。

 その女子高生は、車両に入るとすぐ左にある席に座る。つまり俺と線対称の位置にある席だ。この子はいつもそこの席に座る。


 ここで、俺がいつもこの席に座る二つ目の理由が分かるだろう。それは、この子を眺めるためだ。


 キモいのは自分でもわかっている。だけど俺は純粋に、この子が好きなんだ。と言ってもまだ名前も何もわからない。たった一つわかるのはこの子は俺の高校から徒歩10分くらい離れた私立の進学校に通っているということ。制服が緑色のブレザーで特徴的だ。


 今日も俺はスマホを眺めているフリをして、あの子をチラ見する。あの子は通学中、いつもスマホを見て何やらニコニコしている。

 電車通学は確かに大変だ。だけどこの大変な20分間が、俺にとっては毎日の癒しなんだ。

 そんな癒しの時間はすぐに終わり、学校の最寄り駅に着いた。俺とその子は電車から降りて駅の改札を通る。ここからはこの子とは反対方向な為、心の中で別れを告げる。我ながらキモい。


 学校に着くと、同じクラスのタクマが話しかけてきた。

「ユウキ聞いてくれよぉ...」

 タクマは中学からの友達、身長はやや低めで陽気な男子、クラスでも男女両方から好かれている愛されキャラだ。

 タクマが半泣きで窓のほうを指す。

「リョウが彼女できたらしいんだよ、抜け駆けだ...」

「抜け駆けって、悪い言い方だなぁ」

 そうすると苦笑いでリョウがこちらに近づいてくる。

 リョウはこの学校一のイケメン男子。高校にも剣道の推薦で入学しており全国大会にも出場した経験がある。

「剣道の大会で会った子といい感じになってそのまま付き合ったんだ」

「おぉ、それはおめでとう」

 俺は素直に祝福した。しかしタクマはまだ不満そうだ。

「まぁそんな急いで作る必要ないんじゃないのか?」

 リョウが優しく声をかける。

「もう六月だよ?あと高校生活半分しかないじゃん早くほしいよ」

「まぁ確かにな、ユウキはいないの?好きな人とか」

 そう言われ、電車の子のことを思い出してドキッとした。それを感づかれたのか

「お、その反応はいる感じだな」

 とリョウにはあっさり気づかれた。

「え!だれだれ!」

 タクマも身を乗り出して聞いてきた。別に隠す必要もないので二人に電車の子の話をすることにした。


「電車の子に片思いねぇ、厳しいね」

 リョウは現実を突き付けてくる。

「や、やっぱりそうだよね...」

「でも俺はいいと思うよ、なんかエモいじゃん!」

 ショックを受ける俺をタクマは肯定してくれた。

「話しかけてみなよ!その子に!」

 タクマはポンポンと俺の背中をたたく。

「まぁ、絶対無理なことなんてこの世にないもんな、俺も応援するよ」

 リョウも笑顔でそう言ってくれた。優しい二人の言葉がほんとにうれしかった。


 「よし決めた、俺話しかける!あの子に!」

 これが、電車での恋が始まった瞬間だった。

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