夢現

みりさ

第1話 

世界をしっとりと包み込む深い紺色に、煌めく星と輝く月。

そんなある冬の夜だった。


 寝る前に何か温かい飲み物をと思い、キッチンへ向かっていた時のこと。途中、廊下の窓から外を見上げると、寒空に星が瞬き、大きな月がほわりと浮かんでいた。星と月の柔らかい光は、冬特有の透き通る空気に寝静まった街を包んでいた。山の上に建つこの洋館からは、大好きなこの街を一望できる。

 ふと、少し違和感を感じ、そのまま目線を横にずらすと、中庭に見慣れない影があった。


知らない小屋が建っている。


 この洋館の主人は私。だから私の許可なく小屋が建つことなどありえないはず。庭師さんが作業のために簡易的に建設したのだろうか。いや、でもそうだとしても私に一言くらいあるはずだ。それに、この小屋、やけに年季が入っているように見える。

 私はもっと近くで見たくて、羽織をしっかりと肩に掛け直して、庭へと踏み出した。


 澄みきった真冬の空気の中にぼうっとたたずむその小屋は、アンティーク調の装飾が施されており、近づいてみると、ところどころの塗装や木材に重ねてきた年月が感じられた。正面の扉には窓があり、中の明かりがこぼれていた。

 誰かいるようなので、その扉をノックすると、中から返事があった。


「どうぞ、お入りなさいな」


 声に許可をもらったので扉を手で押した。

 きしみの全くない蝶番が動いて扉が開くと、小屋の中は「外」だった。

「外」が最も適切な表現だと思う。天井と壁と床があるはずの場所は星空で、足元から奥に向かって光る道が伸びていた。

 そしてその道を十歩分くらい行った先には、少し面積の広い板張りの床があり、その床に置かれた椅子には、誰かが座っていた。

 あの人が声の主だろうか?


「お邪魔します。」


私は足元から始まる道を進んでいくことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夢現 みりさ @milisa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ