第5話 意外な共通点があったようです
お昼時、ついに来た。落ち着け。あくまで自然に友人としての距離感を維持するんだ。頭で何十回と行ったシミュレーションを思い出しながら、教材を片付けていると辰也に声をかけられた。
「じゃ行くか」
「行くか」
鞄から弁当を取り出し、辰也と、約束していた二人に声をかける。
「夏原、天城行くか」
「お、おう」
「はい」
周りから訝しむような目を向けられながら移動する。辰也と天城、二人が一緒にいるとさすがに目立つ。実際、普段の生活でも辰也と一緒に歩くと周囲からの視線がすごいが、天城がいると倍以上に感じる。
「とりあえず、体育館の横のスペースに行くか?」
「そうしよっか」
辰也の提案に天城が賛同する。体育館の裏にはベンチと机がいくつか置いてある。席に限りがあるため、その分しか人は来ないためちょうどいいと思う。移動中、後ろを歩く天城に好奇心をはらんだ声色で話し掛けられた。
「さてさて~、日向くん」
「うん?」
「すーちゃんに告白したんでしょ?」
「うっ、ま、まあな」
夏原から事情は聞いたと言っていたが開口一番にその話をされるとは思わなかったので、やや面を食らう。すると続け様に天城に質問された。
「それでこの昼食会は友達として親交を深めるため〜?」
「そうだな。お恥ずかしながら女友達が少なくて、仲良くなる方法を思いつかず、辰也に泣きつきました」
「まったく、燎は意外と意気地なしだよな~。こいつ告白するまでもずっと俺に相談してたし、告白前なんて死にかけだったんだぞ」
「うう、ぐうの音も出ません」
「私は、チャラそうな男の子よりいいと思うよ~?」
「おい、俺の方見て言うな! それに俺は彼女に一途だ!」
天城は外見通り中身もフワフワしていると思ったが、想像以上に気さくで話しやすい。これは学校中から告白されるわ。思春期の少年は絶対勘違いしちゃうもん。そんなことを思っていると意外そうな様子の夏原が尋ねてきた。
「日向って、女友達いないのか?」
「はい、幸か不幸か周りには男しかいません」
「ふーん……」
「すーちゃん的にはポイント高かった~?」
「ち、ちがうし。ただ意外だっただけ……」
その後も会話をしながら進み、目的地に到着した。チャイムがなってすぐ出たため、まだ人はあまりいなかった。
辰也の横に腰を掛ける。前には夏原が座る。いただきますと言って各々食事を始め、また雑談を再開した。主に、辰也と天城が会話を回しながら、俺と夏原が答える。やはり、俺と夏原の間にはやや緊張感がある。夏原からすれば、気まずいったりゃありゃしないだろう。それから中学の頃の話や、テストの話、部活の話などをしたあと、趣味の話題になった。
「日向君はなんか趣味あるの~?」
「うーんそうだな…。サッカーはもちろん好きだけど。他のもので言うと…。あ、俺、洋画が好きなんだよね。特にアメコミ」
びくっ、夏原の肩が跳ねたのが視界の端に映った。どうしたのかと思い顔を向けると、箸を止め、口にあったものを飲み込んだ夏原が、ガバッと顔をあげて言った。
「日向、アメコミ好きなのか!?」
キラキラといた期待の眼差しをした夏原が尋ねてくる。さっきまでのしおらしい様子はなく、明らかにテンションが高かった。
「け、結構好きだな。ドラマが主流になった最近は見れてないけど」
「あれちょっと見づらいよな〜」
「そう、それで離れちゃって」
「わかる〜。しかも、映画の方もドラマありきなんだよな〜」
「あー、でも今ちょうどやってる新しいやつは観に行こうかと思ってるんだよ。評判もいいし」
「あれ、涼音も気になってた! ドラマ観てなくてもわかるってレビューもあったし」
あれ?なんかいい感じに喋れてね?今までの緊張感は霧散し、夏原と俺はアメコミ映画について語り合った。あの作品が好きだとか、あの展開は微妙だったとか。自分だったらこうしてたなど。
そんな俺たちを見て、天城が穏やかな笑顔で言った。
「すーちゃん、いつも周りにアメコミ映画紹介しても微妙な反応されてたもんね〜。なかなか語り合える人がいなくてちょっと可哀想だったし」
「そーなんだよ。あいつら全然関心ないの。面白いのにな〜。琴花はそもそもあんまり映画見ないし」
そんな様子をおとなしく見ていた辰也がハッとした顔をした後ニヤニヤしながら言ってきた。あ、こいつ完全に俺らでどう楽しむかしか考えてねえ。
「ちょうど新しいやつ出るんだろ?二人で行ってくれば?」
「え、俺はいいけど……」
「いいじゃん。行こ! 今週の日曜なら空いてる! ほら! 携帯出して!」
「お、おう」
「これ連絡先ね!」
「あ、じゃあ私ももついでに交換しよ〜」
突然始まった連絡先交換会をした後、予鈴が鳴り一旦お開きになった。なんというか、思ってたのと違ったが、夏原とも出かける予定ができ、連絡先もゲットしたとなると、最高の戦果と言えるだろう。
ふと、夏原を見る。何にでも一生懸命。ただ授業を受ける姿すらも魅力的に感じてしまうことに気がつき、敵わないなと感じた。
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