2回目 ミーティング

 ———まってまって。


 一体どういうこと?もしかしてループしてる?


 いや、そんなわけないじゃん。私は冷静さを取り戻すため、一度深呼吸をする。


 「いや、スマホのバグかもしれないし…!」


 とりあえず、今日が本当に金曜日なら準備をしないと会社に遅刻してしまう。


 電車に乗り、オフィスに向かう。


 駅に着くとピコンとスマホが鳴り


『プロポーズ決行日!!』


 と言う通知が届く。

 背中に嫌な汗が流れる。


「会社、普通にみんな出勤してるな…」


 オフィスに入ると昨日と同じように後ろから優香に声をかけられる。

「彩おはよー!なんか今日、キラキラしてるねえ。まーた七倉さんに何かやらかすんでしょー?」


 ———昨日も、同じ言葉を聞いた。


「ゆ、優香おはよう。やらかさないって〜…」

「またまた〜、恋リア市川、今日も主演女優だねっ!」


 私は「あはは〜…」少し苦笑いをしながら席に着く。


 この調子だと、この後部長にミーティングがあるって声をかけられるはず…。


「今日、午後からミーティングを行うので第二会議室に13時に集まってください」

「……わかりました。あ、ありがとうございます…」


 もう頭の中は混乱しまくりで、私は一度落ち着くためトイレに向かった。


 ♢


「いやもう一度やり直せたらなって思ったけどさあ…。本当にやり直せるのは違うじゃん…」


 はぁぁぁと大きなため息をつき、手洗い場に手をつく。


 昨日と同じスマホの通知、土曜日のはずなのみんな出勤している会社。

 そして、昨日と全く同じ優香と部長の言葉で、疑いは確信になった。



 私は、昨日をやり直している。



 きっと、私が美咲さんに完璧なプロポーズをするまでループが続くんだ。


 普通の人なら余裕だと思うけど、極度のあがり症とドジな私にはとても難しい。

 現に一度失敗している。


 2人きりだときっと私は緊張してしまう。

 どうしよう…どんなプロポーズをしよう…。


 ——そうだ!


 私は絶対にうまくいくであろうプロポーズを思いつく。


 恋リア市川、やってやるんだから!


 小さくガッツポーズをしながらトイレを後にした。


 ♢


「それではミーティングを始めます。今日の議題は予算案の改正です。お手元の資料を———」


 13時、第二会議室。

 予算案のミーティングが始まる。


「では、意見がある方は挙手してください」


 部長の声が聞こえ、私はいち早く手を上げる。


「市川さん、どうぞ」


 そう言われて私は立ち上がり、部長の方ではなく美咲さんの方を向く。


 今日、私は、


「美咲さん!!!私と結婚してくださいっっっ!!!!!!」


 ここでプロポーズをする。


 よしっ!今度は噛まずに言えた!なにもこぼしてない!完璧だ!!声は震えなかった。唇も乾いてない。まるで“演じる私”が台詞を読んでるみたいに、冷静に言えた。


 …さすが恋リア市川。我ながら主演女優級だ。


 なに現象って言うんだっけ…?人は人に見られながら告白されると断りにくくなるって、ネットで見た気がする。

 断れない状況を作って、このループからいち早く抜け出す。


 美咲さんは一瞬目を見開いたあと、——ほんの一瞬、困ったように笑った。

 これで断られないはず。ループから抜け出せるはず!

 私は目を輝かせながら美咲さんを見ていると、後ろから


「市川さん!!!!!恋愛は休憩時間にしてください!」


 と部長に言われる。


 やばい、他の人のことなにも考えてなかった…!!


 周りからクスクスと笑い声が聞こえる。


 私が冷や汗をダラダラ流しながら棒立ちしていると、隣に座っていた優香が大笑いし始める。


「あははははははっ!!まって、まじでウケるんだけど!!動画にしてあげたら絶対バズる!あははっ!お腹痛いっ」


 それを皮切りに他の人たちも大声をあげて笑い始める。


 穴があったら入りたいとはまさにこのこと。私はそっと美咲さんの方を見ると


「会議に集中しようね」


 と、少し耳を赤くしてペンをふるふる震わせながらにこやかに返されてしまった。

 …それが1番、辛かった。


 ♢


 やらかした。1回目と同じことをしてなにをしているんだ…。


「はあぁぁぁ…」


 家に帰ってすぐに、私はベッドに倒れ込む。

 涙なんかこぼれない。どうせ今日はもう一度やってくる。


「なにやってんだよ馬鹿〜!!!」


 私は次こそプロポーズを成功させるべく、眠りについた。


 ♢


「いや〜。今日の市川ちゃん、めっちゃ面白かったね〜!」


 、七倉美咲は同僚の松浦梨沙まつうらりさとバーで飲んでいた。


「あんなところでプロポーズしなくたっていいのに…。恥ずかしいな〜」


 私は机に突っ伏してプロポーズされた時のことを思い出し、また恥ずかしさに溺れる。


「市川ちゃんって、仕事もできるしみんなに優しいところはいいのに、そう言うところが抜けててもったいないわよね〜」


 私は勢いよく起き上がり抗議の声を上げる。


「なにいってるの!そういうところが可愛いんじゃない!」

「あんた…、市川ちゃんのことになると相当甘くなるわよ」

「なってない。事実」

「はいはい。惚気は結構です」


 彩ちゃんは、たまに噛んだり、コーヒーをこぼしたり、そういうところで一気に可愛くなる。ずるいくらい。そういう、私にはない少し抜けているところが、私は何よりも大好き。


「あんなに気合い入れて“完璧”を目指さなくたって、手紙とかでプロポーズされても受け入れるのに…」

「なら、美咲からプロポーズしてみたら?絶対うまくいくわよ」


 そう梨沙に言われるが、それをすることはできない。


「私は彩ちゃんのドジも、ミスも、真剣なところも、全部見守りたいの。何度でもね。私のためにこんなに一生懸命になってくれるんだなって」


 よくわかんないなあという梨沙の言葉は聞きながし、カクテルを飲む。


 世界で1番可愛い、私の恋人。


「次はどうやって、プロポーズしてくれるのかな…」

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