青春なんか書いてるヒマはない 〜なのに金木ハイジは青春をかけて書いてやがる〜

お小遣い月3万

第0話 プロローグ「ラノベ作家になったら付き合ってもいいよ」

「ラノベ作家になったら付き合ってもいいよ」

 私が中学生の時にハイジに言ったのだ。

 金木ハイジは私が大大大大キライの作家の息子だった。

 せっかく楽しみにしていたのにシリーズの途中で死んだから大大大大キライ。


 ハイジが人生をかけて私を楽しませてくれるなら付き合ってもいいよ、という意味で言った。

 

 でもハイジはバカでウンコ野郎だから、作家の息子のくせに、中学生2年生まで小説を一冊も読んだことがなかった。ラノベのことも知らなかった。



 そんなことを思い出しながら私はハイジの机を軽く蹴った。

「おーい、ハイジ先生、死んでませんかぁ? ちゃんと書いてるの?」

 彼の机の上にはノートパソコンが置かれていた。ワードが開かれていて、書き殴った文章が書かれている。

 もう少しでハイジはバイトの時間である。高校生になってから彼はバイトをするようになった。

 昨日も寝てないらしく爆睡モード。

 Zzzzzzが金木ハイジの口から溢れている。




 中学2年生の頃。

 私は付き合っていた野球部の先輩から借りたラノベを教室で読んでいた。

 その時にハイジに喋りかけられて、先輩ごめ〜んと思いながら知能の低いバカに小説を又貸しした。


 そう言えば先輩と出会ったのも本屋で、野球部のくせに小説とか読むの? 坊主頭のくせにラノベを読むの? 練習で走っている時に「123、123」みたいなアホみたいな掛け声をしているくせに活字なんて読むの? その時の私は小説を読む、ってだけで、だいぶポイントが高くて、先輩のことが好きになってしまった。

 なんか坊主頭のくせに一生懸命オシャレしようと頑張っているのも可愛く見えて、本屋で先輩に喋りかけて、それからすぐに付き合うようになった。


 先輩はラノベをこよなく愛していた。

 おかげさまで私もラノベが好きになった。

 それまでの私はホラーが主食だったけど、ラノベを主食にしてもいいかもな、ぐらいにラノベのことが好きになった。


 私の主食が変わり始めていたのでハイジにはラノベ作家になってほしかった。


 本を又貸ししていた件は先輩にバレちゃって、彼はボコられたらしい。


 ハイジは私のことを好きじゃなくなったらしいけど、異常なまでの本への執念を見せた。笑。


 たぶん本を読むことすら興味がなかった? あるいは興味を向けないようにしていた? それが解放されて夢中で本を読み、私の思惑通りに小説を書き始めた。笑。


 ちゃんと監視しないといけないから高校にも同じところに行った。

 でも小説を書くのって家だよね? めっちゃ監視しにくい。つーか私も金木ハイジの小説を楽しみにしすぎ。だって金木ハイジってめっちゃ頑張るアホだもん。マジで人生をかけて私のことを楽しませてくれるんじゃないかって期待しちゃうよ。



 そろそろマジでハイジが起きないとヤバい時間なので、私は机で伏して眠っている彼の首を締めた。

「Zzzzzzzzzzz」が「うっ、うっ、うぅ」と苦しそうなうめき声に変わった。

「ハイジ先生起きろ」と私が言う。「起きないと殺しちゃいそう。早く起きて。早く起きて。もう殺しちゃうよ? いいの? いいよね? 妹のためにバイト行かないの? 死んだらバイトも行けないし、小説も書けないよ? 私を殺人犯にするつもり?! 逆暴力だわ」


 

 彼の家庭環境は、あんまりよくない。

 彼は大学までの進学を諦めていた。国からの支援があっても生活費もあるし、塾代も必要だし、その他諸々の経費がかかるから大学には行かないらしい。


 でもハイジは妹のことが好きだから、自分は大学には行けないけど、妹を大学に行かそうとバイトまで始めて、いつ小説書くんだよ? ちゃんと私が監視しとかなくちゃ、みたいな謎の責任感で、私はある提案をした。


 バイトまでの時間をどこかの教室を借りて書けばいいんじゃない? 貸してくれないって? バカなの? 当たり前じゃん。部活動にして教室を借りればいいじゃん。あのヤ◯マン先生いるでしょ? あの人に顧問やってもらえばいいじゃん。

 バイトまでの時間、教室を借りて小説が書けるって最高じゃん。

 夢中になるアホを私が監視できるって最高じゃん。

 それが、この教室である。


 

 ハイジは必死に私の手を引き剥がして、慌てて息を吸った。

「マジで死ぬわ」とハイジは叫びながら起き上がった。

「逆暴力ってなんだよ。普通にぼくがお前に暴力を振るわれてるだけなんだよ」

 と彼が私に唾をかけながら絶叫する。


「逆にDVだわ」と私は言ってみた。

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