「職人の経験と勘」ほど、とても精密かつ抽象的で、伝授が難しいものはありません。
まして、それを伝えることができる方が既に亡くなっている状態ともなると、その技術の伝達は絶望的となり、まさに「幻のロストテクノロジー」となってしまうわけです。
本作にて語られる奇跡のワイン「Terre」も、その運命を辿るかのように思われました。
しかし、本作に魅入られた主人公は、決して諦めませんでした。
抽象的で曖昧な表現の手掛かりに絶望しながらも、その精神性を読み解き、哲学を落とし込み昇華していく一方で、原料となるブドウとそれを育む大地と自然環境の声を聴き、醸造という化学反応のプロセスを再度理解し、微生物たちの声と対話を重ね、科学的データの解析を惜しまず続ける……。
ここまでくると、求められる努力が一分野に留まらない、総合科学とも言えるでしょう。
その異なる複数の分野の科学を結び付けて理解し、奇跡的なタイミングとバランスとを見出した先に生まれるのが、完全なる芸術作品たる「Terre」というワインなのです。
これは、一人の日本酒の杜氏が一本の失われつつある芸術的ワインを再び世に蘇らせるまでの、熱き魂の記録です。
どうかその感動の一滴を、本作で味わってください。