第28話 ロンド・ストローク

 ルドミラとクラウスは、ロンドの部隊に助けられて、リゴン地域の方の川岸に移動した。

 彼の部隊がなぜこちらに来たのかというと、ファラの話を聞いた瞬間から、こちらに駆けつけていたからだ。

 ジュルマを使っての高速移動だったために、数を用意できず、大軍では来れなかった。

 1000だけの兵士を連れてこちらにまで来ていた。

 たったの1000。

 されど1000。

 ロンド・ストロークが率いれば、その強さは万の部隊と変わりないのである。


 ◇


 川岸で、ロンドがクラウスと会話になる。


 「クラウス。よくやった。で、お嬢は・・・これか」

 「はい」


 返事をした後にクラウスは、ルドミラを見て、こちらの大男を紹介した。

 

 「お嬢様。こちらがロンド・ストローク様です。エクセルス王のはとこで、親族です」

  

 クラウスから紹介されたので、ルドミラは慌てて挨拶をする。


 「はい。私が、ルドミラ・ディアーブです。ロンド様。助けて下さり、ありがとうございます」

 「お・・・おお・・・」


 (あれ? 目が合わない?)


 ルドミラはさっきまで威勢のいい人だったのに、急によそよそしい態度になったことに疑問を持った。


 「お嬢様」

 

 クラウスが耳打ちをする。


 「はい」

 「オヤジは、女性が苦手で。会話が上手く出来ないんですよ」

 「え?」

 「でもオヤジ。女性は好きなんですよ。でも面と向かうと話せない人で。たぶん、お嬢様が綺麗だから、余計に話せないんです」

 「そ。そうなんですか」

 「はい。エルヴィラ様の時も同じ反応ですから」

 「そうでしたか。なるほど」


 さっきから目が合わない。 

 豪快な人なのに、急に挙動不審な人に見える。


 「おい。クラウス。何を話してんだ」

 「オヤジの説明ですよ」

 「なんて言ったんだ。お嬢に失礼に言ったんじゃないだろうな」

 「オヤジは、スケベなのに、女性と会話できないって言ったんですよ」

 「なんだと。このクラウス!」

 「ハハハハ。オヤジ。ほら!」


 クラウスがルドミラの後ろに隠れると、ちょうど目線が合う。


 「ぐっ・・・」


 美しい真っ赤な瞳に吸い込まれたロンドは話せなくなった。


 「あの。ロンドさん?」

 「ぐあっ・・・」


 声まで綺麗で、ロンドは血を吐いた・・・。みたいにして緊張で倒れた。


 「ええ!?」


 ということで、ロンドが気を失ったので、とりあえず主を連れていく事にした一行は、準備をする。その間、クラウスがアローたちと話す。


 「アロー。皆さん。助かりました。ありがとう」

 「いえいえ。兄貴。また会いましょう」

 「ああ。でも、困ったらリゴンに来い。皆ももしよかったら、リゴンに来れば仕事を任せられるかもしれないからさ」

 「わかりました。皆で少しずつ頑張って、リゴンに行ってみます」

 「ああ。アロー。感謝するよ。助けてくれてありがとう」

 「いいえ。兄貴。それはこっちのセリフです。なあ皆」

 「「「金貨を恵んでくれた事。一生忘れません」」」


 皆で感謝をしてくると、クラウスは照れて笑う。

 

 「たいしたことじゃないんだ。あれ。まだ余ってるだろ」 

 「はい。兄貴。金貨ですぜ。俺たちじゃ一気には使えない」

 「だからそれを使ってこっちに来ても良いのさ」

 「そうですね。色々試して、向かってみます」

 「ああ。じゃあな。また会えたら会おう」

 「はい。お達者で」


 こうして、アローたちと別れた。


 ◇


 そして、クラウスとルドミラは、ロンドが操っていた特別機動車に乗って、気絶したロンドと共に移動したのである。


 最初に目指すのはロジャスタ。

 一旦補給をするためである。


 道中。


 「は、速いですね。クラウス。これは馬車じゃないんですね」

 「ええ。特別機動車です。馬よりも速いジュルマという動物で高速移動する乗り物です」

 「へぇ・・・面白いですね」

 「ええ。色々知らないでしょう。お嬢様はね」

 「はい。何も知りません・・・ですが、それではいけませんよね。これから色んなことを知っていくべきです」


 赤き眼に決意が宿っている。

 悲しみを乗り越えているとは言えないけど、悲しみを受け入れてはいる気がする。

 クラウスは、エルヴィラと同様に、ルドミラにも決心という力があるのだと思った。


 「ええ。そうしましょう。お手伝いします」


 しばらく走ると、気を失っていたロンドが目を覚ます。


 「くっ・・・何が起こった。なぜ俺が眠っていたんだ。まさか敵襲か」

 「そんなわけありますか。オヤジを襲うような奴は、馬鹿でしょ」

 「クラウスか」


 車内の席の正面にクラウスがいた。

 だから平然と会話をしていたが、ふと横にも人の気配がした。


 「ん? うひゃ!?」

 「え!?」


 隣にいたのは、ルドミラだった。

 女性が隣にいた事で、また気絶しそうなロンドであった。


 「ば、馬鹿野郎。クラウス。なぜお前がここにいない」

 「無理ですよ。オヤジ。いいですか。俺の位置にお嬢様がいてみてください」

 「ん?」

 「隣にいるよりも大丈夫ですか」

 「・・・・たしかに・・・無理かもしれん」


 横にいるのなら、顔を見なくて済む。

 正面にいたら否が応でも顔を見てしまう。


 「でしょ。オヤジ。我慢してください」

 「ごめんなさい。ロンドさん。私のせいですね」

 「い。いえ。お嬢のせいではございません!」

 「は、はぁ。でも」


 ロンドはカチコチになった動きで頭を下げた。


 「オヤジ。それじゃあ説明してあげられないでしょ」

 「う。うむ・・・頼む。クラウス。隣にいるだけで精いっぱいだ」

 「情けない。破壊王とまで言われた人なのに・・」



 ロンド・ストローク。


 シクロン王国の王家の一員で、昔からディアーブ家を支える名家である。

 一度、一般の貴族の方に格下げがされるはずだった家で、リゴン地域の一部の領主に落ちるはずだったのだが、エクセルスの強い要望で、王家の一員のままでいてもらう事となった経緯がある。

 エクセルスとロンドは、親族であるが、大親友でもあって、子供の頃から仲が良い。

 それは対照的な性格をしているからではないかと言われている。 

 同じ性格をしていたら、ぶつかりあっていたかもしれないが、全く違う性質を持っている。


 戦争全体を把握する力があるエクセルスと、その局面で天才的な力を発揮するロンド。

 二人は能力すらも対照的で、この他にも決定的な性格の違いもある。

 例えば、エクセルスは女性を一人しか愛していなくて、ロンドはたくさんを愛している。

 ただし、エクセルスは側室を含めて三人の女性を持っていて、ロンドは妻が一人しかいない。

 本当に対照的であるが、共通点が一つある。

 それは、エルヴィラを尊敬している所だ。

 

 エクセルスもロンドも、彼女のあの崇高な精神と美を心底気に入っている。

 それは恋愛とかの愛情などの恋慕の感情を抜きにしてだ。

 だから二人はエルヴィラを救おうと動いていたわけだ。


 ◇


 「お嬢様。オヤジは、もしもの時に頼まれていたんです」

 「もしもですか」


 クラウスがロンドの代わりに説明をしてくれる。


 「はい。エルヴィラ様とお嬢様。どちらかに何かがあった場合に助けると、これを約束していました」

 「約束・・・お母様と?」

 「はい。エルヴィラ様と、エクセルス王です」 

 「え? お父様も・・・」


 驚いて思わず隣を見た。

 顔を真っ赤にする大柄な男が、両手で顔を隠していた。


 「はい。王は、以前から自分に何かあった場合に、ロンドのオヤジに預けるとしていたのです。だから、オヤジもリゴン地域を治めているんです。地域が一つあれば、そう易々とシクロン王国もあなたを攻撃できないだろうという判断です」

 「・・・・まさか。お父様は今の状況になる事を考えていたんですか?」

 「おそらくはそうです」

 「お母様も一緒に?」

 「いいえ。エルヴィラ様は独自にオヤジと交流していたんです。エルヴィラ様の考えは、お一人でのものです」

 「え? お父様が関係ない・・・」


 再びルドミラが隣を見ると。

 まだ顔を真っ赤にしている大柄な男が、両手で顔を隠していた。

 しかし、今回はちょっと体勢が違っていて、指の隙間からルドミラを見ていた。

 大きな手のせいで見えにくいが、恥ずかしそうな表情にも見える。


 「その辺の事はですね。多分エルヴィラ様からお聞きした方が良いでしょう」

 「え・・・母上から? でももういませんよ」 

 「ええ。そうですけど、エルヴィラ様が、残したものがありますから。俺たちも中身までは知りませんけど、大体は分かります。ぜひ見て欲しいです」


 特別機動車の窓から外を見たクラウスは、主の思いを深く理解していた。

 一人娘に残す言葉があるのだと。

 

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