第11話 詩「透明感のあるギターリスト」響歌
台所シリーズ第3部『台所はせかいをかえる』妙蓮寺
第11話 詩
「透明感のあるギターリスト」 響歌
飛行機を置き去りにして、すでに白い道路に滑り出していた。
空の遠くに、別の飛行機がちいさくなって飛んでいた。
冬の陽ざしの下をしばらく走って、見上げた標識の文字が、やけに可笑しかった。
……「長沼」とは、よくいったもの。
本当は長沼を越えて、栗山の丘に行きたいのに、
思考はまだ、千歳空港に置き去りのまま。
滑走路の先には、
ヘッドライトに照らされて、雪の白がきらきらと反射している。
闇の中でも、来るときに見た大地がまぶたに広がる
行きも帰りも、音楽は柴咲コウ。
哲郎が好きな歌手で、女優でもあり、マルチな才能を持つ――そして詩人でもある。
画面の向こうの福山雅治さんが好き。
でも今回の旅には、似合わない。
たとえ彼の曲が流れていたとしても、きっと別の曲に変えていたと思う。
そんなことを考えていた月曜日、
スマホから、選びもしないのに流れ出したのも、柴咲コウ。
「この道には、柴咲コウが似合うね」
すると、運転する哲郎が言う。
「福山とは違う。柴咲コウは、透明感があるから」
旭川にも拠点を持つ彼女。
菌ちゃん農法に感動したという、私の畑情熱の先輩でもある。
運転手の言葉どおり、たしかにこの道に柴咲コウはぴったり。
帰り道は、哲郎のスマホをつないだ。
もちろん流れるのは、ほとんどが柴咲コウ。
その中になぜか、二曲ほど、哲郎も聞いたことのない曲が混ざっていた。
それを書き留めたことで、新しいドラマが始まったのか――それは、まだわからない。
冬道を走りながら、ふと気づく。
「あれ?これ、さっきのバージョンと違うね」
カーナビの画面を切り替えると、
柴咲コウが福山さんのギターが奏でるバージョンだった。
曲と景色と歌手と詩とギタリストが、
すべて重なり合う――世紀の一瞬。
なんと透明感のある、ギタリストだろう。
静かに感動していた。
気がつけば、栗山の丘を抜け、
「ブルーローズ フィールド」と書かれた建物の横を過ぎていた。
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