第二話
GW後の日
それは普通の学生にとっては、ひさびさの登校日。
初とつかない登校日だ。
景のクラス、一年蟹組の生徒たちは
「っよ、昨日ぶり。」
「おっす、てかお前昨日のカラオケはしゃぎすぎだろ。ポテト10皿は食いすぎw」
「昨日のGATONESE見た?ナガ君かっこよかったよね~」
「っえ、見た見た。街灯なしの時に見る月くらい明るかったわ~」
「え、、ごめんわからない。」
クラスメイト達はGWで遊んだメンバー、グループ同士で和気あいあいと談笑しながら固まっていた。
話を変えて、学生おなじみの出席番号というものがございます。
大体苗字を、被れば名前を五十音順にして一人ひとり番号を振り分けるものです。
出席番号が早いと山田などのヤ行より20分ほど早く健康診断から戻れるやつです。
そんな出席番号ですが、古田景は40人クラスで26番目に位置します。
入学式から一か月といえど、席替えなんてハードなイベントは起こりません。
端から蛇のように番号を埋めていくと、景は窓横列の前から3番目。
前後に横も人がいて、会話ビームがクロスする、そんな地点が景の席だった。
初登校日、GWに遊んだメンツもグループもない景はそんな座席で固まっていた。
「うわぁ~。これ挽回不可能なところまでいっちゃてませんか?みなさんGWの繋がり保とうとアセアセ会話して僕のこと目に入ってなくない?」
景は固まりつつも、クラス情勢を把握しようと首を振って教室を見回していた。
『いや、ほら。電車で眼球だけぎょろぎょろ動かしてくる人怖いよね。そうならないように首で見るのが大切なんですよね。』
と心で呟いていた。
普通に首ぶん回す輩にしか見えないが、それは景なりの気遣いだった。
そんな景の意図が伝わって
「おい、あいつ俺らのことを怖がらせないように首を振って物を見ているぞ。あんなことができるなんて、あいつ常人じゃないぞっ、、!」
「私たちを気遣ってっ、、、なんて優しい人なの。」
とギャグ漫画のようなリアクションが起きるはずもなく
「なぁ、あいつなんで首ぶんぶんしてるの?俺シンプル怖いわ。」
「俺も怖えよw話しかけに行こうと思ってた気持ちが一気に引いたわ。」
100%裏目に出て、クラスメイトの関わろうとする気持ちを消滅させた。
景は無自覚に人を遠ざけながら
「なあ古田、、であってるよな?でさ景は一ヵ月も何してたんだ?」
そんな「親友になるかも」的セリフを話しかける人物を待っていた、、、が来るはずもなかった。
おしゃべりも減り各々が席に着いた頃、黒板の中央上、ネズミ色のスピーカーからチャイムが鳴る。それと同時に教室の扉が開く。
「おざすっ。」
美術の授業で見たことのあるトマト缶Tシャツを着た女性が一人。軽快な挨拶と共に入り、教卓の前に立った。
語録場高校の生徒はみな制服なので、この女性は教師であると考えられる。
それか、ぶっ飛んだ転校生か実習生だ。
「「「おはようごあーす」」」
気の抜けた挨拶を返す蟹組生徒たち。
「っよ!ラダちゃん相変わらずファッション独特ぅ」
元気ある声でヤジを飛ばす男子が一人。
ラダちゃん?えなに、もうあだ名で呼び合うフェーズ突入してるの?
「おいおい原~ミニ〇ンの映画にチラッと映った絵画の服を寝ずにフリマで探した努力を分かってくれるのか?先生嬉しいぞ^@^」
「やっぱ先生は目の付け所が違うっす。俺たち金曜ロードショーなんて小学生以来みてないですもん。俺もネトフリから地上波に戻ります。先生の背中追っかけます!」
「はははは、原~。連休明けにさらっと週一の楽しみとファッションセンスをディスってくるとはいい度胸だ。原のリスクを考えないバカな度胸に応えて、ゲリラ小テスト三連発をテスト直前に入れてやろう。っあ。もちろんテスト範囲だからな。成績入らないとか勘違いしないでよねっ。原、お前あと一回赤点とれば補習確定だかな?」
「、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、っす。」
原くん、、僕ね一ヵ月授業受けてないんだ。たった一ヵ月で補習決まるレベルの小テストを君が増やしたんだ。そんな君を僕は許さない。
それにしても、ラダちゃんって由来何だろう。舵の事だろうか。
原の心を座礁させんばかりの反撃だったけど。
「原はほっといて、出席とるぞー。名前呼ぶのめんどいから右隣のやつが居ないやつ挙手して報告ー。」
変な出席確認だな。
横目で確認するもクラスの誰も手を挙げていない。
できれば僕も手を挙げたくない。一ヵ月休んではじめにすることが欠席報告なのは嫌だから。僕は少しでも欠席のイメージを薄くしたいんだ。
そう思っていたが、僕の右隣さんは悲しいことに学校に来ていなかった。
すると僕は手を挙げなければいけない。
なんで挙手なんだろうか。国会の採決ボタンのようなものを取り入れてくれないのだろうか。なんで隣のヤツは休んだのだろうか。GWはっちゃけすぎたのだろうか。許さん。右隣の野郎。
僕は右手をノロノロ挙げた。
ゆっくり作戦むなしく、ラダちゃんの目に留まった。
「ん、欠席は古田と椿の二人だな。藤田よ毎日ご苦労さん。」
そう言って僕(古田)の席へ歩いてきたラダちゃん。
「だが、欠席者の席に座ってホームルームを受けるのは良くないな~ふじっ、、、、た?」
ラダちゃんとバチこん目があった。とりあえずお辞儀しといた。礼って大事。
すかさず僕の左を見るラダちゃん。横にいた藤田と思われる人が「ラダちゃんおっはー」とか言っている。
再び僕を見るラダちゃん。出席簿を確認するラダちゃん。
驚いた声で話すラダちゃん。
「えと、、君は入学式も、遠足も来ず一ヵ月学校を休んだ古田景なのか?もしそうなら、私は君の名前の横に赤でバツをかかずに済むんだ。この赤バツの為に月一本の替え芯を二月に一本に減らせるんだ。よく使う青の替え芯代にあてられるんだ。」
僕の欠席を記すには、相当量の赤インクを消費するらしい。
欠席扱いになるのは、僕的にも先生の替え芯問的にも良くないので
「はい。僕が古田景です。」
と答えた。
「ん、君が古田景ね。いやぁGW明けに初登校とは大変そうだな。私はこのクラスの担任、斧鱈・ステラだ。1年間よろしく頼む。」
「お前らも色々とサポートしてやれよ。」
「「「うーっす。」」」
「特に連絡事項はないが一限目は芸術だから遅れないようにな。ほな解散っ」
そう言い残し、ラダちゃんはパッパと教室を出ていった。
「今日もDVD鑑賞の続きなんだろ。いいよなー音楽」
「いや、あれはあれで飽きてくるんだよ」
「俺らそんな余裕ないわ。もうずっと正座。制服に墨飛ばないよう必死だわ」
HRが終わり雑談と共に各々が芸術の用意をして、授業が行われる部屋へと移動し始める。授業が行われる部屋も、必要な物も何もわからない景は焦っていた。
サポートは!!?みんなラダちゃんに返事してたよね?
おわったーと固まる景の背中に声がかかる。
「えっと、古田だっけ。お前選択どれにした?音楽なら一緒にいこーぜ。」
声の主は、ゲリライベントの主催者、原だった。
「一ヵ月も休んで、授業の遅れとかヤバいだろ。俺がアシストしてやるよ。」
原は机の前に移動し、景を見ながらそう言った。
初登校、初対面のクラスメイト。勝手がわからない授業。
不安要素が多すぎる。半ば絶望していた景は、そんな原の声を聴いて少し安心した。
「僕一ヵ月休んで色々ヤバいからアシスト頼むわ。ゲリ原」
が、小テストの件とは別だぞ、この野郎。今日からお前はゲリ原だ。
「おうよ。体育のペアからバスの座席ペアまで俺に任せな、古田!」
初登校日、少々嫌味なあだ名を付けられても気にしない(気づかない。)
そんな頼もしい(お気楽)野郎、ゲリ原と知り合った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます