第3話:どっちが可愛いか?

静まり返ったリビングで、突如、ロンちゃんが口を開いた。


「この論争に決着をつけるには、第三者による客観的な評価指標が必要のようだ」


「……ねえ、もうやめない?なんでこんな日に、

 競争みたいなことしてるの……」

声が震える。


私だって、今日を心から楽しみにしてた。

ユキの赤ちゃんに会える日を。

なのに。


「ユキに会いに来たんでしょ?

 フグとか赤ちゃんとか、どっちが可愛いとか、

 もうどうでもいいじゃない……」


私は、ただみんなで笑って、

この日を終えたかっただけなのに。


「え、じゃあさ、AIに聞こうよ。AIって、絶対正しいんでしょ?」

パー子の突拍子もない提案に、私は耳を疑った。


「え!?ちょっと待って。なんでそうなるの!?」


「いいじゃん、やってみようよ。面白そう」


「って言っても、赤ちゃんの写真がないでしょ」


「写真はっけーん。赤ちゃんが生まれた家には、

 写真立てが飾ってあるのがお約束じゃん!」


パー子がリビングの棚から、にこやかに笑う

赤ちゃんの写真を見つけ出した。


「フグの稚魚の写真も確保した。では、これより公平なるAIジャッジを開始する」


ロンちゃんが水槽の稚魚をスマホで撮影し、

リビングに置かれたタブレットを操作し始める。


やがて画面に、それぞれのAIによる回答が表示された。


■ChatGPT

「どちらの存在も、生命の輝きに満ちており、非常に魅力的です。

人間の赤ちゃんは成長と未来の可能性を、

フグの稚魚は水中の生命の神秘を象徴しています。

どちらが『かわいい』と感じるかは、

個人の価値観や感性に深く依存する問題です」


パー子「なにこの優等生コメント。つまんない」


ロンちゃん「社会的バイアスを考慮し、中立性を保った無難な回答だ」


普子「うんうん、AIだって、そう言うよね!」


■Gemini

「フグの稚魚は、その鮮やかな色彩によって高い視覚的刺激を与えます。

一方、人間の赤ちゃんは、顔の黄金比(ベビーシェマ)により、

本能的な保護欲や『かわいさ』の感情を誘発します。

どちらが優れているかは、その『使用目的』によって判断が異なります」


普子「『使用目的』って何よ!」


パー子「え、赤ちゃんって、何かに使えるの?」


ロンちゃん「合理性を突き詰めれば、その結論に至るのは必然だ」


■GROK

「フグのストライプは確かに派手で映えるけど、

赤ちゃんのほっぺの破壊力は最強の癒しだろ!

……ってか、赤ちゃんにフグメイクしたら、バズるんじゃね?(笑)」


パー子「GROK、超ウケる!」


普子「SNS映えで物事を判断するな!」


ロンちゃん「このAIは、論理的思考能力が著しく欠如しているようだ」


その時だった。


――ギィ……


奥のふすまが、きしむように、ゆっくりと開いた。

部屋の空気が、張り詰めた糸のように緊張する。

凍てつくような冷気が、じんわりと肌にまとわりついた。

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