気取らず焦らず

 テストが返却された。自慢じゃないとは言わないが、自信があったので当然といえば当然の結果を出した。


 文系とか理系とかってよくジャンル分けされるけど、これってイマイチピンと来なくて。俺が得意なのって大雑把に大別して言うと国語と算数で、理科と社会は好きじゃない。好きじゃないだけで別に出来ていないとかでは全くないのだけれども、この場合って俺はどっちに分類されるのだろうか。同じような実力であれば、後は本人の好き嫌いに帰属するのであれば、俺は文系なんだと思う。


 ところで英語、ひいては外国語ってどっちなんだろうと疑問を持っていた時があったが一重に言語学の一部という事でどちらにも属さないというのが正解であるらしく、ただ現実的に科学の分野での方が英語力が必要のようである。


 話が逸れたが、好き嫌いで言う所の文系を選ぶのにはそれなりの理由がある訳で、必ずしも本当の意味での好きとはまた違う。あくまでそれを選ぶのは、説明するとややこしくなるのだが、微笑ましいと思ってしまうと言うか落ち着くと言うかイマイチなんて表現するべきか迷ってしまうけれども、それに似たような感情が生まれるからだ。


 もう少し簡潔に説明するとその問題の原文自体の言いたい事や問題の制作者の意図が、手に取るように分かってしまうからである。上手く文章作ってるなぁとか、ここから何が言えるのか答えよとか、作者はテスト用にその話を作っていないのでまだ良いのだが、問題制作者に関してはもうご苦労様って感じ。大変だったんだなぁ、苦労してこれ作ったんだろうなぁ、とか考えて問題を解いているとそんな感情が生まれる。だから好きだ。


 捉え方によっては物凄く性格悪いんだと思うけど、思うだけなんだからそれだけなら別にいいよな。誰にも迷惑かけてる訳じゃないんだし。


 誰かさんみたいにさ。


 誰かさんが出てきたタイミングで告白するならば、この件に関してはその誰かさんのおかげなんだろうな。あんな読めない人間を十数年も相手にし続けていれば、まともな人の考えなんて大概が手に取るように分かる。分かり易いようで分かり難い、分かり難いようで分かり易い。俺も初めは大分苦労したからな、そう思えば見ず知らずの赤の他人でも分かってしまうって言うのはかなりの応用力も身に付いている証拠だよ。ひなには、あ、間違えた。誰かさんにはこればかりは消しゴムのカスほどの感謝がないほどでもない。


 うっかり名前を出してしまったけれど、出してしまうとあの女を召喚してしまいそうだから敢えて出さなかったんだけども。まぁいい、知ったことか。俺は今機嫌が良いから呼び出してしまってもいつもよりは少しだけ冷たくしないで遇らう自信がある。


「ア、キ、ラ、さぁーん。」


 随分前の方から歩幅の狭いスキップでひながご機嫌そうにこちらに向かってくる。


 召喚成功。いや、違う、呼び出してない。


 すみませんでした、謝ります。呼び出したくないです、なかったです。帰って下さい素通りして下さい。でももう名前呼ばれてる、もう呪われた。どなたか神父の方いませんか、呪われました、祓って下さい早急に。だから名前を思うだけでも口にしたくなかったんだよ、どんな召喚術だよ。今度は何!?


「現代文、どうだった?」


 嬉しそうに話しかけるがある意味一番怖いのを知っている。悲しいか怒っているいるのならやっぱりややこしくて、楽しいのならまぁ似たようなもんだからな、それもいいでしょう。仮に一致なら弾けて飛んで消えるくらいのテンションにまで到達するハズなのでこれだけは多分違うと思う。いやむしろ弾けて飛んで消えてもらいたいんだけど。そうなると三分の二、60パー強で面倒な可能性が強い。もう頭痛い。


「普段通り。問題なく問題解いて、しっかり点数取ってる。」


「やっぱりねー。私も今回は自信あったんだけどちょっと出来てなくてさ。放課後、解説をお願いしたいんだよ。」


「珍しいな、勉強の事とか。いいよ、そのやる気買ってやるよ。」


「うん、じゃあ放課後図書室でね。」


 単純に勉強教えて欲しいというひなの向上心を、こいつも成長したなとつい納得して依頼を承ってしまったのがそもそもの間違い。


 いや、まだ何も起こってないし起きるかどうかも分からないんだけどね。だけどいつだってキッカケは些細な事だし、そんな些細な事からいつだって俺は苦労しているのさ。自分でも学習しろって思わなくはないのだけれども、人の頼みを無下にできない性格の俺としてはいくら3,178回ほど振り回されているアホで面倒な幼馴染と言えどもその対象にカウントされてしまう。数字は適当に出してみた。それでもやっぱり、もしかしたら、遂に、とうとう真面になったのかと期待してしまう自分もいるのでやっぱりひなに付き合ってしまう。砂遊びも普通の遊び方で楽しめるようになったのかと思ってしまう。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 そして放課後。図書室。


 疎らでもそれなりに人は居て、読書やら勉強やらを皆している。当たり前か。


 それにしても図書室に来る頻度は高くないんだけど、やっぱりここに居る人ってみんな色白が多いよな。色黒で本読んでるとか中々レアだよ、つーか見た事ない。やっぱりどっちかなのかね、インドア派かアウトドア派か。そりゃそうか、日焼けする程外に居る人が今の時間に室内に居るって事自体ないもんな。そんな暇あれば雨でもない限り屋外で、スポーツなりするわな。それでも一人ぐらいは週末は外、平日は中みたいなタイプがいてもいい気がするけども。あれか、外に出るタイプは学校の外が良いから勉強とかも校内じゃなくて自分の家が良いって事なのか、だから目にしないのか。見かけたからってどーのって話じゃないし、ひながまだ到着してないからつまんない事考えてたけどさ。


 それにしても何してんのあいつ。屋外派じゃないけど、早く帰りたいんだけど。時間過ぎてるよ、もう7分も過ぎてる。


 ガラガラッ!ガラーッ、パァン!


 遠くの方から勢いよく扉が開閉される音が聞こえた。ここ図書室なんですけど、ひな。


 いやまだ誰が入って来たとか見えてないんだけど、多分そうだろコレ。間違いであれ、ひなじゃないといいけど…もし違うならそれはそれでとんでも無い奴だけどさ。色黒で髪とかヤベー色の奴なんだろうな。


 スタッタッ、スタッタッとリズミカルな足音がこちらへ近づいてくる。何このリズム、分かんないけど分かるのは間違いなくひなっぽい。そうだと思った瞬間、その音がスキップのそれであると分かった。図書室でスキップて、いくら本好きでも絶対しないよな。


「お待たせ、アキラ。待った? 」


「待った。遅い。うるさい。」


「そっかー、じゃあ始めよっか!」


「流すな、少しは詫びれ。申し訳なくしろ。」


「細かいなぁ、小さいよ器が。」


「小さいのはお前の身長だ。」


「じゃあ小さいのはお互い様って事で!ちゃっちゃと始めましょ!」


 のっけから疲れるわ、コイツ。やっぱり気紛れで勉強教えるとか言わなければ良かったよ。さっさと済ませよう。


「それで、どこを聞きたいんだよ。」


「えーっとまずねぇ…」


 教えて貰いたかったのはどうやら主に登場人物の心情を読み取るところや、この話から作者が言いたい事は何かなどであった。正に俺の得意分野。簡単過ぎて逆にどう教えていいものか悩むくらいだ。得手不得手は誰にでもあるけれど、俺はそう言ったのはよく分からないし?偶には調子に乗った態度を取っても良いような気もするが相手が相手だ。気取らない毅然とした態度で教え進めて行くとしようじゃないか。何がきっかけでスイッチ入るか未だに訳分かんねーからな、ひなは。


 などと言う俺の覚悟とは裏腹に、とっくのとうにしっかり電源にコンセントを差し込み主電源を付け完璧なまでにスタンバイモードからオンに入っていたひなは、最初から全力で面倒くさかった。


「親の心情とか、出産どころか結婚してすらいないあたし達にどう理解しろって言うの?

「作者の意図?え、何?出題者って作者じゃないよね?うちの先生とかよね?なに知ったかぶってんの?これ、本当に合ってるの?作者に確認とかとってるの?

「そもそもこうゆう話って問題にされるのありきで作られてるの?答えとか用意されてる訳?」


 ごもっともです、ひなさん。言い分は分かるっちゃあ分かる。でもね、それを言ったら元も子もないんですわ。でもね、テストっそんなもんなんですわ。着眼点は良い、意外と良い線は行ってるんだよ。


 この前、深夜のバラエティー番組で似たような今の僕らの様な企画を観てね。タレントとか芸人とか作家が高校どころか大学入試に出るような現代文を解く内容。当たる人は当たるし間違えたりもするんだけど、勿論批判も出てきていて。ましてやその出演している作家の作品まで問題にしたものまで出てきて、それを本人と教師とで論争がする始末。


 いやいや、もうどうなのって。どう考えても作者が正解なのに、教師は食い下がっててさ。誰得なんだって話。だけどここから言えるのは、やっぱり問題の出題者がその問題の解答を決められる訳で、出題される問題の作者がテストの答えを決めていないのが問題なんだよな。


 何故なら作者の意図とは別に読者がそれぞれ独自の読み解き方があるのだし、それもまた一つの正解なのだから。だから教師が模範解答を決める事が出来る。ひなが幾ら喚こうが仕方ないんだよ。だからひな、喜々として文句を怒りのまま俺にぶつけないでくれ。顔を綻ばせながら、怒りの言葉を俺に向けないでくれ、気味が悪い。笑顔で怒るとかそんなネタはテレビの中の人だけで充分だ。


 答えを読み解く上でのアドバイスは多分出来たものの、終始満足気な表情でブツブツ言われ続けたが一切無視してこの不毛な勉強会を終わらせにかかる。


「つまりは先生の気持ち良くなるような答えを書かなきゃ点数にならないの?」


「んー近からずも遠からずだな。」


「あっそう!分かったわ!」


「何がよ?」


「あたし、先生になる!それも現代文の!そしてあたしの様に迷える子羊達を全員しっかり納得せしめる問題と解答を作ってあげる!そうしたら問題無いでしょ!」


 今回の勉強会、終着点はひなの進路が先生を目指す事になった。


 俺は一体何を教えるつもりでここに来てしまったのか、その問題の答えはきっと誰にも分からない。


 一つだけ言えるのは図書館では静かにしましょうと、ありふれたものを教えるだけに終わってしまう。


 何しに図書館来たんだろ。

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