【先生と生徒】師匠に勝て、師匠を超えろ!

晋子(しんこ)@思想家・哲学者

先生に勝つことこそが最高の恩返し

私は声楽を学んでいます。声楽とはクラシックの歌のことです。


何人もの先生に師事し、発声から表現まで、数えきれないほどの指導を受けてきました。けれど、私が最も大切にしている考え方があります。


それは——

「あなたは、あなたの先生よりも上手くならなければならない」

ということです。


音楽の世界では、謙虚さが美徳とされがちです。

「先生には敵いません」

「まだまだ足元にも及びません」

そんな言葉をよく耳にしますし、実際、私もかつてはそうでした。

でもある日ふと気づいたのです。


この「遠慮」が、歌にそのまま出てしまうのです。


声は嘘をつけません。

「先生には勝てない」という心があれば、その分、声は弱くなり、萎縮し、伸びなくなります。

高音を出す勇気が出なかったり、感情を出すことが怖くなったり。

それは技術ではなく、心のブレーキです。


私たちは、先生を尊敬するあまり、自らの可能性にフタをしてしまっている場合があります。

でも、先生に教わる目的ってなんでしょう?

先生と同じレベルで満足するため?

違う。もっと上に行くためです。


どんなに優れた先生であっても、最終的には自分で飛び立つしかありません。

師を超えることを恐れてはいけない。

むしろ、それを目指さなければならないのです。



このことは、音楽だけに限りません。


美術の世界でも、弟子が師匠の技術を模倣して終わっていたら、その分野は進歩しません。

ピカソはアカデミックな写実画を若い頃に習得しましたが、やがてそれを壊し、キュビズムを生み出しました。彼は、先生たちに「勝って」しまったのです。


学問の世界でもそうです。

古代ギリシャの哲学者たちは皆、「師匠を超える問い」を立てることによって、新たな哲学を築いてきました。

ソクラテスを超えたプラトン、そしてプラトンを超えたアリストテレス。

「超える」ことが、最大の尊敬であり、学びの完成だったのです。


ビジネスもまた同じ。

創業者の背中を見て育った社員が、その企業を新たなフェーズに導いていく。

「自分なんかが創業者には及ばない」などと遠慮していては、会社も世の中も前進しません。

敬意とは、ただ礼儀正しくすることではない。

未来を切り開くことこそ、最大の敬意なのです。


私は日々、声楽の練習をしています。

そのとき心の中で言い聞かせるのです。


「先生を超えろ。遠慮するな。超えなければ、恩返しにならない」


先生の様々な教えは、宝物です。

でも、それは「踏み台」にしていいものです。

その宝物をもとに、もっと大きな山を登っていく。

それが弟子としての使命だと思っています。


あなたが何を学んでいようと、あなたに師がいるのなら、いつかはその人を超えなくてはならない。


それは、裏切りではありません。

それは、真の感謝のかたちです。


先生の教えを守るだけでは、教えは「保存」されるだけ。

でも、あなたがその先へ行けば、教えは「進化」します。

それは先生の思想や技術が、次の時代に通用するという証明にもなる。


だからこそ、あなたは胸を張っていいのです。


あなたは先生を超えていい。

そして、超えなければいけない。


それが、師弟の美しい約束なのです。


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