第10話 始まりの神波高校。

 自己紹介が済み、朝のホームルームが終わると、先生は先に動いた。漫画やアニメなどでよく見られる"転校生への質問タイム"と言うミニイベントが発生する前に、学級委員の「月城つきしろれん」と言う人に学校内を案内するように頼んだ。



「夕星さん、よろしく。」



 そう、優しい笑顔と声で迎えてくれた彼は、1限目が始まる前に教室を出て、第4棟から案内してくれる。


 月城君は深い藍色のセリオンを着けており、三日月型の装飾が施されていた。



「月城君、セリオン綺麗だね。」



「ありがとう。僕の家族は全員この色だよ。気になったんだけど、夕星さんのセリオンは金色だね。正直、金色と言うより、白色のイメージがあった。」



 月城君は私のセリオンを指差して、不思議そうな表情を浮かべていた。

 私の両親はどちらも白やグレーの色だけど、何故か私だけ金色だった。基本的に途中で色が変わるなんてことはないし、与えられた時からずっとこの色だった。



「周りによく言われる。なんでなんだろうね。」



 月城君は肩をすくめ、歩みを続ける。

 音楽室や体育館など、この学校ならではのミニ雑学を挟みながら紹介してくれた。



「ここは音楽室。よく、軽音楽部が練習場として使っていて、一番最近の全国コンテストで優勝してたよ。」


「ここは"運動館"。主に授業での運動の際に利用する場所だよ。この高校は天井の部分にバスケットボールとバレーボールが計17個も挟まってるんだよ……別に自慢できることじゃないけどね。」


「ここは理科室。よく角夢(かどゆめ)先生が実験してて、かなりの頻度で爆発するから入る時は気を付けてね……。」



 などなど、非常にクセの強い要素盛り沢山の学校であることがわかった。トイさんのクラスは第3棟の2階にあるようで、私が横を通ると目をキラキラさせながらしきりに手を振っていた。



「月城君、トイレに行きたいんだけど、どこにあるの?」



「あぁ、ここから近くだと、そこの角を曲がったところだよ。僕はここで待ってるね。」



 かなりユニークな高校のようだけど、賑やかで親しみやすいので少し安心した。



 少し遠くの方が騒がしかった。悲鳴も聞こえてくるような──背後から微かに冷たい風を感じた。時間がとても遅く感じ、体全体、特に首辺りに嫌な感覚が伝わる。


 意識が遠ざかる。

 音も遠ざかる。

 視界も歪み、暗闇に沈む。

 

 何が起こったか分からなかった。ただ、私の体は鈍い音を立て、床に崩れ落ちた。

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