第3話 何とも言えない緊張

 ──こ、ここは……?


 外から日光が降りかかり、思わず目を瞑る。レースのカーテンの隙間からの日光で、木漏れ日のように床を照らしていた。私は今、自分がソファで横になっていることに気がつく。


 ──そうか、ここはあの子の。


 ソファとテレビの間のテーブルにメモが置いてあるのを見つけた。


《シュレクを倒してきます。

ゆっくりとお休みください。

ある程度倒したら戻ってきます!!

洋服濡れてますので、

良ければ横の服を着てください。

トイ》


 「トイ」、おそらくあの子の名前。このメモの横には、白米や味噌汁、サラダ、焼き魚、水などが丁寧にトレイの上に並べられていた。


《良ければこれ食べてください。》


 と書かれているのも発見した。不思議なことに、たった今さっき出て行ったかのように、白米や味噌汁からは湯気が立ち上っていた。


 私は壁に目をやり、掛け時計の針が午後二時を指しているのを確認する。そして、私は有り難く作ってくれた食事をいただくことにして、そっと手を合わせる。長い間、保存食中心だったのもあり、口に運んですぐに出汁の温かさと白米の甘さが体全体に染み渡り、思わず目に涙が浮かぶ。


 私は無我夢中で、それでも一口一口を味わいながら食べ進め、気付けば全ての料理を平らげていた。そして、食器をどうすれば良いのかと迷っていると、また、トレイの下に挟まれているメモを見つける。


《もし、動けたら食器達はキッチンの流し場に置いておいてください。》


 先ほどの食事でかなりの活力が回復した私はすぐさまメモに書いてあることに従い、食器をキッチンへと運び、流し場に重ねて置く。


 ──心配。


 私は、シュレク討伐に出かけた少女のことを考え、どうなっているだろうかと、不安と心配が私の精神を支配し始めた。


 ──行こう。


 私は数日間の移動でほつれてボロボロになった自分の服を脱いで、用意してくれた服に着替えた。湿り切った服から着替えたことで安心感を感じた。これほどまでに至れり尽くせりの状態に本当に申し訳なさを感じてしまう。見た目からすると、私より年下であるような雰囲気が感じられた。


 身支度を終えた私は玄関へ向かい、出掛けようとしてドアノブへと手をかけたところで、鍵が無いため、施錠が出来ないことに気が付く。


 しかし、その問題はすぐに解決する。靴箱の上におそらく予備だと思われる鍵を発見し、少し罪悪感を感じながらも素早く外に出て、扉の鍵を閉め、そのまま廊下の柵に躊躇なく身を乗り出して地面へと飛び降りる。身体は全然鈍っていない。すぐに足を動かし、街の外を目指す。空はまだ雲で敷き詰められていたけど、雨は止んでいた。


 街へ入って来た時とは逆を辿っていく。郵便局、公民館、コンビニ、交番──目に映るそれぞれの建物が私へと次々迫ってくる。


 何とも言えない不安や緊張の中、ようやく街の門が視界に入ってくる。門の前に立っている見張りの男性は、おそらくシュレクがいないか、不法に侵入してくる者がいないか、神経を張り巡らせているように真剣な顔つきで周りを見ていた。私は急いで見張りの人に街の外に出たいと言う旨を伝える。見張りの男性は無言のまま一回だけ頷く。門をくぐりぬけて、街の外へと足を踏み出す。


 どこへ行くべきかなど検討もないけど、、ひとまずは門から出てまっすぐに進んで、向こう側の開けた場所へと向かうことにした。


 神波市の一部、もしくは隣の街の建物の倒壊しており、絶望的な景色が広がっているけど閑散ともしており、急いでいるのが必然的に伝わってくる自分の規則的な足音だけが鮮明に耳に届いていた。


 どうやら、自分の直感は正しかったようで、まだかなり遠くの方だけど、微かにシュレクのような姿と、それに対峙している六人ほどの人の姿が視界の中で少しずつ形どられる。

 その六人の中に、先頭に立って弓をつがえているはっきりとした桜色の髪の少女を捉える。何か言葉を発しているように見えるけど、向かってくる風が声を必死に妨げているかのように一文字一文字がようやく聴こえる程度だった。


 どうやらシュレクは十体もいるようで、少女達がいる方の地面には血飛沫が飛び散った後が確認できる。少女が矢を放ち、見事にシュレクに命中したけど、何事も無かったかのように安易と引き抜く。


 一番先頭にいるシュレクは地面にどっしりと構えており、その目はもはや殺す殺さないではなく獲物とでしか見ていないような目つきで眺めている。シュレクは体から数本の触手型の手を生やし、少女目掛けて、勢いよく突き進んで少女の目の前へと迫る──。

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