第14話 ドワーフ職人の挑戦と伝統の意地

リリアーナ王女の病が奇跡的に治ってから、数日後。

ミオの工房は、さらに賑やかになっとったわ。

王族からの感謝状が届いたり、貴族から「娘の病を診てほしい」とか「家宝を直してほしい」とか、新たな依頼が山積みや。

(うぅ、引きこもりたいのに、どんどん仕事が増えていく……!)

ミオは、ふかふかのソファに埋もれて、資材スライムたちをモフモフしながらため息をついた。

「ぷるる~?」

スライムたちが、心配そうにミオの顔を覗き込む。


そんなある日の午後。

工房の自動検知システムが、新たな来訪者を知らせた。

「えぇ~?今度は誰やろ?」

ミオが首を傾げると、工房の扉が勢いよく開いた。

そこに立っていたんは、ずんぐりした体格で、立派な髭をたくわえた男やった。

その男は、全身に革製の作業服をまとっとる。腰には、見たこともないほど巨大なハンマーがぶら下がっていた。

ドワーフや。


「ほう、ここが『眠りの魔女の工房』か!」

男の低い声が、工房に響き渡る。

彼の目は、ミオではなく、工房の壁に飾られた、ミオが趣味で作った装飾用の魔導具に釘付けや。

「我は、王都生産ギルドに所属するゴルム!ドワーフの鍛冶師じゃ!」

ドワーフの熟練職人、ゴルムが工房を訪れたんや。

彼の顔には、ミオの生産技術に対する、強い疑念と、それ以上の好奇心が混じり合っとった。


「あんたが、魔法でなんでも作れるというミオ殿か?フン、我らが代々受け継いできた鍛冶の技を、魔法ごときで簡単に再現できるとでも思っておるのか?」

ゴルムは、腕を組み、鼻で笑う。彼の体からは、溶鉱炉の熱と鉄の匂いが微かにする。

(あー、はいはい。また来たよ、頑固な職人タイプ……)

ミオは、内心でため息をついた。ウェブ小説でよく見る、テンプレやな。


「別に、魔法で何でも作るわけやないですけど。素材と、それを加工するうちの技術があれば、なんでも作れますよ」

ミオは、冷静に答えた。

「なんじゃと!?技術だと!?魔法を技術などと申すか!?」

ゴルムは、驚きと怒りが入り混じった表情でミオを睨んだ。

「ならば、その『技術』とやらで、ワシが作ったこのハンマーを超えるものを作ってみよ!」

ゴルムは、腰にぶら下げていた巨大なハンマーを、ドン、と床に置いた。

ハンマーは、床を揺らし、金属音が工房に響き渡る。

そのハンマーは、ドワーフの伝統的な鍛冶の技が凝縮されとる、まさに芸術品やった。


ミオは、ゴルムのハンマーを手に取った。

ずっしりと重い。

(なるほどなぁ……確かにすごい技術や。でも、うちならこれを超えるもん、作れるで?)

ミオの脳内で、ハンマーの構造が瞬時に解析されていく。

そして、その構造をさらに最適化し、魔力を効率的に流し込むための設計図が、次々と浮かび上がってきた。

(よっしゃ、これや!『万能魔導ハンマー』!ただ硬いだけやのうて、色んな素材を叩き分けられる、超便利ツールや!)


「承知いたしました。では、今ここで、お見せしましょうか?」

ミオは、ニヤリと笑った。

彼女の瞳には、ほんの少しの挑戦の色が宿っていた。

御者のガンゼルさんが、静かに工房の隅で見守っている。

(また、始まったか……)

ガンゼルさんは、ミオの能力が巻き起こす騒動に、もう慣れてきたみたいやな。


ミオは、アイテムボックスから、光り輝く『蒼鉄晶』を取り出した。

「スライムはん、この蒼鉄晶、細こう精錬しといてな。最高の純度で頼むで」

銀色の資材スライムが「ぷるるるーっ!」と嬉しそうに飛び出し、蒼鉄晶をモグモグと食べ始めた。

蒼鉄晶は、スライムの体内で、みるみるうちに輝きを増しながら、精錬されていく。

そして、ミオの前に、まばゆい光を放つ、完璧な純度の蒼鉄晶の塊を吐き出した。

「なんじゃと!?素材を喰うだと!?しかも、一瞬でこれほどの純度を!?」

ゴルムは、目を丸くして絶句した。彼の顔は、驚きと困惑で引き攣っとる。


ミオは、精錬された蒼鉄晶を手に取り、集中する。

魔力を込める。

金槌も使わへん。ただ、ミオの手の中で、蒼鉄晶が形を変えていく。

ガツン!ガツン!

まるで、見えない金槌が叩いているかのように、金属が変形し、形を成していく。

わずか数分。

ミオの手には、ゴルムが持っていたハンマーよりも、一回り小さく、しかし洗練されたデザインのハンマーが完成していた。

ハンマーの表面には、複雑な魔法陣が刻まれており、そこから微かな魔力が漏れ出ている。


「これが、うちの『万能魔導ハンマー』ですわ」

ミオが、ゴルムにハンマーを差し出した。

ゴルムは、震える手でハンマーを受け取った。

その瞬間、ハンマーから放たれる魔力に、ゴルムの全身が震えた。

「こ、これは……なんという魔力……なんという精巧さ……」

ゴルムは、自らのハンマーと、ミオが作ったハンマーを見比べる。

彼の目に、悔しさとともに、純粋な感動が宿っていた。

「まさか、魔法で、ここまで……」

ゴルムは、信じられないといった表情でミオを見つめる。

そして、彼は自分の持っていたハンマーを、ドン、と床に置いた。

「我らの伝統は、確かに素晴らしい。だが、そなたの『技術』は、それを超えるかもしれぬ……。ワシに、その技術を教えてくれんか?」

ゴルムは、頭を下げた。彼の声には、頑固な職人としてのプライドと、真の技術への探求心が混じり合っている。

(えぇ~!?弟子入り志願!?これはまた、面倒事が増えそうやなぁ……)

ミオは、またしても引きこもりライフが遠のく予感に、小さくため息をつくのやった。

やけど、ゴルムの真剣な目に、ちょっとだけ心を動かされたんやな。


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次回予告


王都の工房に、魔族の姫君ルナリアと、王女リリアーナが遊びに来る!?

可愛い姫様たちと、うちの資材スライムはんたちが、まさかの共同作業!?

ドワーフの熟練職人ゴルムはんも加わって、工房はさらに賑やかになるんやろか!?

次回、チート生産? まさかの農奴スタート! でも私、寝落ちする系魔女なんですけど!?


第15話 『生産型移動要塞』計画、始動!


お楽しみに!

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