第3話 王都への誘いと旅の始まり

アルティ村に到着した「暁の剣」パーティは、すぐに「奇跡の野菜」の護衛依頼の主、つまりミオと対面した。


あれから、およそ四ヶ月が経っていた。

ミオが畑で倒れ、奇跡の黄金麦と虹色野菜が収穫されたんは、まだ土に冷たさの残る季節やったな。

やけど、今は日差しが降り注いで、風が心地ええ、収穫の時期や。

馬車いっぱいに積まれた黄金麦は、陽光を受けてキラキラと輝いている。

ミオはその間、村の畑の一部を任され、素材の保存法や、馬車への積載術なんかも学んどったわ。

日々の生産活動で、うちの能力も少しずつ安定してきてたみたいや。


「あの、あなたが、噂の『奇跡の農奴』さんですか?」


ライオスが尋ねた。

彼の目に、戸惑いが浮かんどる。

無理もないわな。

目の前には、まだあどけなさの残る15歳くらいの少女が、眠そうに目を擦っとったんやから。

どう見ても、畑仕事で体を鍛え上げた屈強な農民には見えへん。


「あ~、はい、ミオです。あの、護衛さんですよね?王都まで、お願いできますか?」


ミオが自分で作り出した、通常の数倍もの大きさの虹色野菜を指差した。

その野菜は、馬車いっぱいに積まれとって、見た目からして異様な存在感を放っとる。


「お、大きい。ま、まさか、これがあなた作った野菜なんですか!?」


ライオスの驚きに、ミオは眠そうに頷いた。

「はい。まあ、魔法でサクッと…」

「ただし、本気で集中すると、頭がぼーっとしてくるのが難点ですけどね。」

ミオの目は、もうすでに少し潤んどる。


「サクッと!?」


シエラがギョッとした顔でミオを見る。

フィオナは、ミオの顔色を見て、何かを感じ取っとったみたいやな。

ミオの頬は、うっすらと赤い。

寝不足やろか。


ミオは説明した。

「私、この村の農奴だったんですけど、長老さんが『もう村は豊かになったから、あなたは自由だ』って言うてくれて……それで、王都の商業ギルドへの紹介状をくれたんです」

王都に行きたい理由。

それは、前世で得た知識と、この「究極の生産」能力を存分に活かせる最高の工房を、王都に作りたいからや。

そして、能力の代償である「極度の眠気」のことも正直に話した。


「だから、道中、私が寝落ちしちゃっても、ちゃんと起こしてくださいね。それと、護衛の報酬は、これ…」


そう言って、ミオは手ぶらの状態から、まるで魔法みたいに、次々とアイテムを生産し始めた。


「これは『栄養満点の携帯食パン』。食べれば一日中動けますし、どんな疲労もすぐに回復します。どんな冒険にも耐えられるように、栄養バランスもバッチリです」

そう言って差し出したパンを一口食べたライオスは、その場で跳ね上がったわ。

「な、なんやこれ!?食べた瞬間、全身に力がみなぎる!ステータスが上がったみたいやぞ!?」

普通のパンとは比べ物にならへん。

きめ細やかで香ばしいパンが、次々と現れる。

ライオスが一口食べたら、信じられへんほど体が軽うなった。

疲労が消え去る。

「こ、これはすごい……!?」

ライオスは、そのパンを凝視する。

まるで、今まで食べてきたパンが偽物やったみたいにな。


「これは『壊れない万能ロープ』。どんなに引っ張っても切れませんし、自動で結んだり解いたりできます。あとは、はい、これ。『暗闇でも見える魔力灯』です。ただの灯りやないですよ、空間に漂う魔力をほんの少しだけ浄化する効果もあるんです」


次々と生み出される規格外のアイテムに、冒険者パーティは目を丸くするばかりやった。

特に、シエラはミオの「手から物が湧き出る」ような生産方法に、盗賊としての本能が刺激されとったみたいや。

「この能力……どうやれば手に入るんや?いや、盗むか?いや、どうやって盗むんや?」

シエラの目が、獲物を見つけたかのようにギラつく。


「これだけのものを作れるなら、あんた、王都でもすぐに大金持ちになれますよ……」


フィオナが呟いたら、ミオはニヘラって笑った。

「あはは。そうなるのが目標なんです。それで、自分だけの工房を作って、のんびり引きこもりたいんです」

ミオの目が、夢見るように遠くを見つめる。

(夢の中の豪華なお風呂に、美味しいお菓子……。最高の引きこもりライフが待っとるで!)

フィオナは、ミオの夢を見つめる瞳が、どこか自分と重なるような気がしたんやて。

(この子、どこか昔の私に似とるかもしれへんなぁ……。純粋で、でも少し世間知らずで……私が守ってあげんとあかんわ)

フィオナの心に、小さな決意が芽生える。


まさかの引きこもり宣言に、ライオスたちは拍子抜けしたわ。

「は、引きこもり?」

ライオスが、間抜けな声を出した。

やけど、ミオの「究極の生産」能力が、彼らの冒険にどれほどの恩恵をもたらすかを考えると、高額な報酬を払うても王都へ護衛する価値は充分にあったんや。

それに、王都の生産ギルドに正式に登録することで、より多くの希少素材や最新の技術情報を得られるっていうミオの目論見も、彼らにとっては大きなメリットやった。

(王都の生産ギルドは、登録だけでも年に数件、狭き門やと聞く。この子が登録でけたら、うちのパーティも一気に有名になれるで!)

ライオスの胸には、野望が膨らんだんや。


「分かりました!私たちが王都まで、責任を持って護衛します!」


ライオスは力強く宣言した。

彼はまだ知らない。

ミオがただの「農奴」ではなかったこと。

そして、この護衛依頼が、彼の冒険者人生を大きく変えることになる、壮大な物語の幕開けやなんてことを。

二人の仲間を見る。

シエラはため息をつきながら。

フィオナは心配そうな顔で。

それぞれ頷いた。

その日、冒険者たちの間で、「アルティの食パン」の噂が急速に広まり始めた。

「あ、聞いた?アルティの食パン、もう食べた?あれ、ヤバいらしいで!」


こうして、15歳のチート生産者ミオと、駆け出しの冒険者パーティ「暁の剣」の、波乱に満ちた王都への旅が始まったんや。

ミオはまだ知らない。

この旅が、彼女の「引きこもりたい」という願望とは裏腹に、世界を揺るがす大きな物語の始まりになるやなんてことを。


---


次回予告


いよいよ王都への旅が始まったうちと、金欠冒険者パーティ!

せやけど、道中は危険がいっぱい……魔物の森、山賊の襲撃、眠気の代償!

うちの究極の生産能力は、このピンチを救えるんやろか!?

そして、冒険者たちとの絆は深まるんやろか!?

次回、チート生産? まさかの農奴スタート! でも私、寝落ちする系魔女なんですけど!?


第4話 危険な森と生産者の機転


お楽しみに!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る