第3話 地獄の勉強

「お兄ちゃん?お兄ちゃんなの……?」


目の前にいる姉は前世では妹だった。

俺の1番大切な人。


「私の方が先に死んだから姉になっちゃったんだね……。」


俺が水を取りに行っていた時にはもう死んでいたのかもしれない。誰にやられてしまったのか。


「なぁ、聖來。お前は前世、誰に殺されたんだ?」


「わかんない、分かったとしても思い出したくないよ。」


そうだ。あんな無惨な死に方をしたのに、何思い出させてるんだよ。俺は兄失格だ。


「あのー、聖來様、紫鬼様。どうかされましたか?」


「あー、なんでもにゃい。」


「うんうん。」


「ふふ、そうでしたか。それではお風呂のお時間になりましたらお迎えしますね。」


この家にはかなりのメイドと執事がいる。無闇に前世の話をすれば怪しまれるだろう。

数年間はきちんと子供として過ごすしか。


「というか、大人になった事ないんだけどね。」


「……だな。」


その日は疲れたせいか、気づけば眠っていた。




「おに、ちゃ。」


声が聞こえる。


「おにーちゃ。」


前世のようにお兄ちゃん、と呼ぶ声が。


「お兄ちゃんおーきーてー!」


顔面をべしべしと殴られる。そのパンチ力は初めてだった。ものすごい破壊力で俺の顔面はすぐに真っ赤に腫れ上がってしまった。


「聖來、頼むから殴るのをやめてくれ。」


「はーい。」


俺たちは12で死んだ。だが今は5歳児。歳相応の言葉遣いや行動に気をつけなければならない。そして、独り立ちをした後、俺は前世の親を殺しに行く。

それまでに俺は強くならなければならない。


「紫鬼ー!聖來ー!こっちおいでー」


母が俺の計画を知ったらどんな反応するだろうな……。


「はい、こちら家庭教師のエルダリオン先生です。2人の勉強を見てくれる人よ。あいさつして。」


「……紫鬼です。」


「聖來でーす!」


長髪、白髪の男性はものすごく頭が良さそうで、いかにも魔族という感じがした。


「エルダリオン・ヴァージリーと申します。魔法から作法まで、しっかりと固めてまいりますので以後よろしくお願い致します。」


さっそく、準備された教科書を使っての授業が始まった。

何時間もエルダリオン先生の歴史についての話を聞いて、そろそろ眠たくなってきた頃だった。


「およそ500年前、……人間界で言う50年前、人間界の者がこちらへ戦争を仕掛けた。この戦争は今も続いているのですが、その戦争の名前を『人魔大戦争』と呼びます。」


「あの、人間界と魔界ではどうして年数がちがうの?」


「良い質問だね。人間界と魔界がある世界は違う。それに伴って時間の流れ方が違うんだよ。人間界で同じ年に生まれたとしても魔族の方が成長が早い。10倍って覚えてて。」


「じゅーばい!」


エルダリオン先生が分厚い本を閉じる。


「では、序章はここまでにして、勉強を始めよう。」


どうやら、勉強というものを甘く見すぎていたようだった。

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Mymemory 焔聖來(ほむらせいら) @seira1031

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