猫になったぼくの異世界冒険譚

天猫 -あまねこ-

第1話 白くて、暖かいもの

雨の匂いがした。

冷えた身体が、ダンボールの中で丸くなる。

他の兄弟達はみんな、知らない人たちに連れて行かれた。

鳴いた。でも誰も返事をしなかった。


「……にゃぁ……」


か細い声は誰にも届かない。

世界は静かだった。

そう思ってたけど──足音がした。


ちゃぷん。ちゃぷん。水たまりを踏む、小さな足音。


「……ねこ?」


その声は、暖かった。


「こんな所にいたの……?びしょぬれ……かわいそう……」


その子はしゃがんで、躊躇わず、手を差し伸ばした。

濡れた毛に触れる指は、小さくて、でもしっかりしていた。


「……びちゃびちゃだ……」

「ねぇ、名前……あるかな……?」


──名前?


「……雪みたいに白くて……柔らかそうで……」

「……しらたま。うん、しらたまちゃんにしよ」


その瞬間、灰色の世界に光が差した。


ぼくは、猫だった。

でもその日、誰かに名前を呼ばたことで、「誰か」になった。


「しらたまちゃん……ずっと、わたしの友達だよ」


それは、はじめての約束だった。

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