2 落とされもの

 魚にも好みがある。だから釣り餌にも、ルアーにも種類がある。どこで何が釣れるとか、どう動かせば食いつきやすいとか、考えてみれば当たり前のことだが、始める前は何を言っているんだと思っていた。

 俺は釣りが好きになった。


「お、誰かの落とし物か?」


 いつもの堤防で釣りをしているとかなり風化したルアーを見つけた。以前釣りに来た時には見なかった。誰かが落としていったのだろうか。

 ただ、捨てられてもおかしくないほど傷んでいる。

 事前活動というわけではなかったが、拾って帰ることにした。

 自分の釣り場にゴミを放置されているのはあまりいい気分じゃなかったからだ。

 もしかしたら使えるかもと、じっくり見てみたがやっぱり使い物にならなかった。

 それにしても、なんだか印象に残る形をしたルアーだった。どこで売ってるんだか。


 そして一週間後、また堤防に釣りに行くと、今度は真新しいルアーが落ちていた。

 前回と同じ場所だ。

 俺と違う時間帯に釣りをしている人の存在を感じて少し親近感を覚えた。

 流石に今回はいつか取りに来るだろうと、そのまま置いておくことにした。


 そして、また一週間後、今度は少し汚れたルアーが落ちていた。

 ある程度使われたみたいだが、捨てるほどではなくまだ使えそうだ。

 よく忘れ物をする人だと思いながら、俺はそれをそれを放置することにした。真新しいルアーは無くなっているわけだし、また取りに来るだろうと。


 そして、また一週間後、ルアーはもう落ちていなかった。俺は今日も釣りをする。


 そういえば最近、この辺りで行方不明事件が多発しているそうだ。俺ももういい年したおっさんになったが、用心のために早めに帰宅するよう心がけている。


 帰り道、破れていない魚取り網が道に落ちていた。


「ラッキー、ちょうど今日破れて買い替えようと思ってたんだよなぁ」


 日頃の行いが良いとこういうこともあるもんだと、俺は持って帰ることにした。



 最近、交番に届けられる落とし物が多くなってるそうです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る