ご想像にお任せします。

気まぐれな人

1 帰郷 

 田舎の実家から都会に出て郷愁に駆らているのだと思う。

 目を瞑れば今でも鮮やかに思い出せる。

 夏、家から自転車を漕いで近くの川で、幼馴染の女の子と遊んだことを。

 浅黒く焼けた肌に、大きな黒い瞳、白い歯。

 ショートカットの似合う溌剌としたあの子の、肌に透けて張り付くシャツ。

 裾を絞る姿も、水飛沫の中楽しそうに笑う彼女の笑顔も、今でも鮮明に思い出せる。


 でも、いないんだ。

 俺には幼馴染なんていないんだ。

 小さな集落で同じくらいの友人は周囲にいなかった。


 来週、実家に帰ることにした。

 俺は家が嫌いだ。両親が嫌いだ。

 半ば仲違いして家を飛び出したみたいなもんなんだ。

 今更帰ろうなんて思ってなかった。


 けど、一週間くらい前からずっと知らない記憶が俺に寂しさを訴えかけてくる。


 実家に帰れば、あの子に会える気がする。

 それに、なんだか家に帰ることが楽しくなってきている自分がいる。


 だから、俺は怖い。


 あれは誰で、俺はどうして実家に帰ろうとしているのか。


 今でも俺自身分からないのだから。

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