第27章:氷ならざる氷
エリナの興奮は明らかだった。彼女は身を乗り出し、魔法を学ぶ学生がまったく新しい研究分野を発見したときのような、純粋で混じり気のない好奇心に目を輝かせている。
「それで、どういう仕組みなの? 今も機能してる? あなたは本当にここにいるの?」
ハヤトは、彼女の果てしない熱意に、小さな、珍しい微笑みを浮かべずにはいられなかった。「いや、今は幻影は機能していない。今話している『俺』は本物だ」
彼は一瞬間を置き、自分の目にもかすかな輝きを宿して。「だが、見たいのなら、活性化させてもいい」
エリナの目は輝き、興奮が漲った。「はい! お願い!」彼女は熱心に身を乗り出して叫んだ。「見せて! 詠唱は必要なの? 触媒は?」
ハヤトはそんな学術的な質問に小さく面白そうな微笑みを浮かべた。「そんなに複雑じゃない。ただ見ていてくれ」
彼は動かず、喋らず。ただ石のテーブルの端に置かれた小さな植木鉢の花を見た。エリナもその視線を追う。ゆっくりと、硬く閉じた花の蕾が開き始め、その花弁が滑らかに、静かなタイムラプスのように広がっていった。満開になると、その色が変わり始めた。単純な白から、鮮やかな、ありえない青色へと染まり、次に柔らかなピンク色へ、そして再び白へ戻った。
エリナは見とれた。「どうやって!? マナの波動はなかった。術式も、ルーンもなかった。あなたはただ…見ただけ」
「ただ、起こって欲しいことを考えるんだ」ハヤトはそっけなく肩をすくめた。「そうすれば、起こる」
エリナはあり得べきはずのない、色を変える花を見つめ、今目撃した無造作な奇跡をどうにか理解しようと頭を働かせた。「つまり、それは幻影なのね、もし触ったらどうなるの?」
「やってみるといい。完全に普通に感じるだろう」
おそるおそる、エリナは手を伸ばし、その鮮やかな青色の花の花弁に指先をそっと触れた。彼女の目は見開かれた。本物のように感じた――柔らかく、ビロードのようで、繊細だった。
「だが、俺がそれを無効化する瞬間…」
彼は微かにうなずいた。あり得べきはずのない青色の花は一瞬で消えた。一秒前まで柔らかな花弁を撫でていたエリナの手は、今や何もない空気を掴んでいた。彼女の指の下には、元の、まだ閉じた蕾がそこにあった。
「…現実が自らを主張する。君が触れていようがいまいが、それは決して本当にそこにはなかったのだ」
ハヤトは、エリナが自分の空の手を見つめ、深い衝撃と畏敬の表情を浮かべているのを見た。彼は静かに安心させる言葉をかけた。
「君の姉さんはもう真実を知っている。そして約束する。俺はこの力を使って、二人を傷つけるようなことは決してしない」
エリナは手元から彼の顔を見上げ、心配そうな表情が消え、温かく、信頼に満ちた微笑みに取って代わられた。「ええ。あなたがそんなことするなんて一秒も思っていませんでした。心配しないで、ハヤトさん」
***
ケリナとリコの任務は、王都の貴族街にある、荘厳で静寂な建物へと二人を連れて行った。それは英雄パーティーの本部で、今は人影がなく物寂しかった。
リコは重いコートの内ポケットから、小さくも豪華な鍵を取り出すと、巨大な扉の鍵を開けた。
ギィィィ! 扉は重厚な静寂に包まれた広間へと開いた。
広大な部屋の中央、たった一つの椅子に、長い黒髪の若い女性が座っていた。彼女は魔女の豪華なローブを纏い、袖の下に隠した傷を癒やすために集中しながら、腕の周りで柔らかな緑色の光が脈打っていた。彼女は二人が入ってくるのを見上げ、疲れた表情を浮かべた。
「リコさん。ケリナさん」彼女の声は静かだった。英雄、《魔女》の赤嶺アヤカだ。
二人が中へ歩くと、重い扉が背後で閉まり、静寂の中に閉ざされた。リコの分析的な視線はすぐに、アヤカの腕の周りに渦巻く治癒魔法へと落ちた。
「状況は?」リコは低い声で尋ねた。
アヤカは腕の周りの緑の治癒の光を消し、疲れた表情を浮かべた。「傷は塞がりつつある。今は自由に動ける。昨夜遅くに戻ってきた。メッセージで伝えた通りだよ、リコ」
リコとケリナは二人共、厳かにうなずいた。
「どうやって逃げたの?」ケリナは声を低くして尋ねた。
「俺の固有スキル…『明晰なる精神(クリアリティ・オブ・マインド)』だ。強力な精神干渉への耐性を与えてくれる。彼らの支配が揺らいだ瞬間、俺の精神は…リフレッシュされた。俺は再び自分自身になり、逃げた。洗脳や精神支配を撥ね退けられる」
二人の冒険者は彼女を見つめ、その言葉の意味が理解されていく。「精神支配?」ケリナは囁くように言い、新たな種類の恐怖で目を見開いた。
アヤカは悲しげに、疲れてうなずいた。「もちろん、なぜ他にアーサーが突然変わったと思う? 彼は俺たちを裏切ったんじゃない」
彼女は二人を見つめ、厳かな確信に満ちた眼差しを向けた。「氷の王には、一人の将軍がいる、強力な精神操作能力者だ。その声は…聞いた者を誰でも洗脳できる。彼は一瞬で英雄パーティー全体を変えてしまった」
リコは叫んだ。その声は何もない広間に反響した。「どいつだ?! あの遠征に俺は参加していた! 氷河で彼の側近たちと戦った! そんな力を持つ奴など見たことがない!」
アヤカは首を振り、苦痛に歪んだ表情を浮かべた。「リコ、あなたは最後の攻撃にはいなかった。あなたは外で、本隊と共に前線を守っていた。だが俺たちは…英雄パーティーは王と対面するため内部へ入った」
彼女はまだ癒えつつある自分の腕を見下ろし、その記憶が明らかに苦痛であるように。「彼は氷の王の玉座のすぐ傍に立っていた。『終わりの静寂の道化(ジェスター・オブ・ジ・エンドレス・サイレンス)』と呼ばれる男だ。彼はただ…話した」
アヤカの声は囁くようにまで落ちた。「一瞬、俺も彼の支配下に置かれた。霧が俺の精神を満たし、俺の意思は俺のものではなかった。だがその時、俺の『明晰なる精神』が発動した。霧は消え、俺は再び自分自身になった」
彼女は顔を上げ、厳かな確信に満ちた眼差しを向けた。「だが彼らは…アーサーや他の連中は…まだ彼の人形だった」
ケリナの目は見開かれ、その状況の戦術的な悪夢に対処しようと頭を働かせていた。「どうやって逃げたの?」
「単純な話だ、ある意味。俺は彼らと戦えなかった。だから、演じたのさ。顔を無表情にし、動きを硬くしてみせた。彼らに、俺がまだ洗脳されていて、彼らと同じだと思い込ませたんだ」
彼女はゆっくり息を吸った。「そして機会を待ち、自分でチャンスを作り出した。俺は、外部から要塞に迫る差し迫った脅威を感知したので、自分自身で迎撃に向かうと告げた」
彼女は二人を見つめ、厳しい表情を浮かべた。「もちろん嘘だ。脅威などなかった。ただ離れるための口実が必要だった。そして彼らは俺を去らせた。要塞の外に出たら、俺は走った」
アヤカの語る恐ろしい真実を処理する間、重い沈黙が部屋に落ちた。最初に口を開いたのはリコで、この新情報を自身の最近のトラウマと結びつけていた。
「アヤカ、あの氷の王からの呪い…お前もそれにかかったのか?」彼女は無意識に自身の腕に触れた。「つい昨日、俺は彼の部下の一人から病気をもらった。体内から血を凍らせる氷が体に生えるんだ。レンナが治してくれた」
アヤカは彼女を見つめ、驚きと新たな層の懸念をたたえて目を見開いた。「いや…俺の負傷は戦いによるものだ。呪われてはいない」
彼女は眉をひそめ、リコの言葉を考察した。「氷を生やし、血を凍らせる病気? そんなものは聞いたこともない。ジェスターが使うのを見た力は、精神支配だけだ」
ケリナは空いた椅子まで歩くと、深いため息と共にその中へ沈み込んだ。すべての新情報の重みが彼女の上に押し寄せている。「裏切者の英雄、精神支配者…あまりにも多くのことが起きている。次の遠征の計画すら、どうやって立て始めればいい?」
アヤカは彼女を見つめ、落ち着きと集中した表情を浮かべた。「一つずつ問題を片付けよう。そして最初の問題は、俺が確信しているものだ」
彼女は身を乗り出した。「どんな新しい遠征の前にも、最初の優先事項は耳栓を作ることだ。たくさんだ。可能なら魔法で消音されたものを。ジェスターの声から耳を塞ぐ手段が必要なんだ」
リコの分析的な頭脳は即座に次の物流上の困難へと跳んだ。「魔法で消音された耳栓。それは複雑な付呪だ。王都でその種の仕事ができる職人は多くない。いったい誰が作れるというんだ?」
ケリナはしばらく沈黙し、連絡先のリストを頭の中でスキャンしながら深く考え込み、眉をひそめた。そのレベルの特定の、古代の知識を持つ者の数は、ごく僅かだった。
ついに、彼女の表情は不本意な確信と共に明るくなった。「お前の言う通り、多くはない。だが、この種の奇妙な魔法を専門とする者が一人いる」
彼女はリコとアヤカを見た。「もちろん…この方法を知っている唯一の人物は…レンナだ」
つづく
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