030 気に入った歌手は大体その作品限りのコラボだったりする。
王都の奴隷商はピチタットの店よりも何倍も大きい。それだけ人数を収容しているのだろうから、これは期待ができるかもしれない。
両開きの扉の前に立つ兵士に用件を告げて、中へ通してもらうと。広い玄関ホールで待機していた店員?に連れられて、奥の部屋へと案内された。
「ようこそおいで下さいました。私、担当させていただきますヴェルトと申します」
使用人が出て行った後、部屋に入ってきたのは40は過ぎていそうな壮年の男だった。
「よろしくお願いします。実は好みの女性を探しているのですが、よければこちらの美女達を見せていただきたいのです」
「美女ですか。であればきっとご希望に添えるでしょう。うちには国内どころか、隣国からも集められた美女達が集まっておりますからな。
ですがそれだけに冷やかしが多いものでして⋯⋯失礼ですが耳にお付けになられているピアスはマテリアが装着されているものでしょうか?」
美女と言った途端、商人の目付きが
「ええ、ヒールのマテリアを装着した、快癒の精霊銀のピアスですね。試しに使ってみましょうか?ヒール!」
「おお!これはありがとうございます。王都に来た記念に美女が見たいなどと言うような方が多いものでしてな。疑ってしまって申し訳ありません」
「なに、こちらも格好は気を付けるべきでしたね。マテリアが装着されているとはいえ、革装備一式では疑いたくもなるでしょう」
高い買い物をするなら、それなりの服を着て来るべきだったか。良い対応をされたかったら、こちらもそれなりのハッタリ必要だな。次に服屋に行ったら街歩き用の服を作ってもらおう。
態度がコロリと変わった商人に案内されて。美女を一人一人見に行くことになった。
リレッタがいた地下牢ではなく。どうやら狭いながらも1人部屋をもらえるらしく、部屋に入るたびに1人ずつ自己紹介をしてくれた。
まぁ中にはあからさまに態度が悪い者もいたけど、それは商人と同じく金の無い主人だと思われたんだろう。
素の態度が見えるのはいいけど。猫を被った姿が見れるなら、それはそれで価値があるから一長一短だな。魅了でそれが維持できるならありがたいんだけど⋯⋯
最悪、リレッタのように自失状態にしたらいいから。性格がゴミでも構わないし、とにかく目が覚めるような美人が欲しい。
次々と部屋を渡り歩いたけど、確かに美人だが今一歩足りない。自分を棚に上げて評価すると70点前後といったところだろう。こちらはテレビやネットで世界中の美女を見ていたので、どうしても辛口になってしまう。
5人ほど見て、あまりこちらの反応が良くないと感じたのか。10部屋ほど飛ばして部屋に入ると、女性の雰囲気がガラリと変わった。
まず、服が
それ以外にも、分かりやすいのは髪や目の色だ。金や青や赤など混じり気のない色合いになり、その姿勢から礼儀作法が身に付いている事が見て取れる。
「この者は隣国で歌い手として劇団に所属していた者です。貴族とのいざこざがあり、こちらまで流れてきました。
オークションに出せば金貨100枚近い値がつくはずですが。本人の希望がオークションではなく、気に入った者以外は購入できないという契約になっております」
「メルテアと申します。歌以外に踊りと楽器を
ここまで技能が無い者や、せいぜい四則演算程度の算術ができるか、裁縫ができるという者ばかりだったけど。ここに来てようやく、技能らしい技能を持った者が現れた。それも劇団にいたというプロ歌手だ。
こちらではあまり見かけない、ストレートのロングヘアで。薄い紫色をした髪と目をしており、
お遊びでオペラの魔笛をワンフレーズ歌って貰ったけど。その時にはもう既に惚れていたのだろう。
オクターブの高さだのヘルツだのと細かい事は知らないけれど。その歌を聴いた時には購入する事を決めていた。
「ダンジョンに入った事はあるか?」
「入った事はありますが、武器で戦ったことはございません」
「ではダンジョンに一緒に入ることは問題無い?」
「はい、戦えるとは思えませんが、バードとして支援する事は出来ると思います」
バードは確か歌に支援効果を乗せられるジョブだったな。リレッタの一覧にもあったけどそれほど強力なジョブだっただろうか?
攻撃せずに歌や踊りに掛かりきりになるにしては、微妙な効果だと思った記憶がある。
「なら自分に買われたら、ダンジョンで歌ってもらうことになるな。ヒールで癒せるから、喉の痛みを気にせず歌い放題だぞ」
言ってから後悔した。これではブラックな環境で働かせると思われるかも知れない。
それにバードのジョブの効果なんて関係ない。いつも静か過ぎるダンジョン探索だ。BGMが欲しいと常々思ってたんだ。
彼女の歌を聴きながら戦闘するとかそれだけでテンションが上がる。あちらのアニメの戦闘曲とか覚えさせたいな。今はうろ覚えだけど、知力を上げたらきっと思い出せるだろう。
「歌い放題は良いですね。拠点は一軒家でしょうか?」
くすくすと笑いながら、笑顔でこちらにも質問を返してきた。
お、意外にも好印象?と思ったが、調子に乗ってはいけない。こういう時は大体、
その後も何度か話しかけてみて手応えはあった。こちらでは知られていない歌を何十曲も知っていると言うと、顔付きが変わったのだ。
残念ながら、そこで次の部屋に行かないといけなくなったので。後は彼女が買われても良いと思ってくれるのを祈るばかりだ。
その後回った部屋にいた女性達も美姫ばかりだったけど。メルテアほど心に響くことはなかった。
商談用の部屋へと戻り。メルテアを購入したい
「メルテアはオークションに出せば金貨100に届くほどの女性です。金貨90枚と言いたいところですが。購入に条件がありますし、処女ではありません。金貨70枚でいかがでしょうか?」
「隣国とはいえ貴族との揉めたのでしょう?そちらは後から難癖をつけられたりはしないのでしょうか?」
「誘いを断って劇団に嫌がらせをされた程度ですので、わざわざこちらまでやって来る事はないとは思いますが⋯そうですな。では65枚でいかがでしょうか?これが限界です。これ以上は下げられませんよ、隣国からの輸送費もかかっておりますから」
輸送と言っても面倒な国境越えも、風水師のポータルで連れて来るだけだろうに。パーティに入るのを拒む奴隷でもいるのか?
値切りは限界と言ってからが勝負だと聞いたこともあるけど。そこまでやる必要は無いだろう。なにせこちらには半額チートがあるのだ。
途中、使用人が部屋へと入って来てヴェルトに耳打ちをした。漏れ聞こえた話はメルテアが購入の意思を示したということだった。
部屋の外で耳を
「メルテアからも是非買われたいとの事ですから、金貨60枚でいかがでしょう?これ以上は本当に負けられません」
使用人の耳打ちを聞いていない振りをしていたら、なぜかさらに値段が下がった。
「その値段なら買いましょう」
「ありがとうございます。それではメルテアが来るまでに取引を致しましょう。高額取引の方法はご存知ですか?」
ヴェルトは机の上にある複数のベルのうち、1つを手にとって鳴らした後。書類を書き始める。
「ああ、この店ではないが、木の指輪を使った方法ならやった事がある」
「ではご説明は不要ですね。今回もこちらの木の指輪を出品致しますので、値段をよく確認した後。ご購入をお願い致します」
ヴェルトの名前で検索をかけ、60万Mで売られている木の指輪が1つだけである事を確認してから購入する。
「ありがとうございます売却を確認致しました。
こちらの書類は、当店で奴隷を販売した事を証明する書類となります。失くしましても問題はありませんが、売却時など面倒が増える可能性がございますのでご承知おき下さいませ」
書類を受け取ったところでドアがノックされ、メルテアが部屋へと入って来た。
「メルテア、こちらの方がお前を購入して下さった。良く仕えるようにな」
「ありがとうございます。
メルテアは頭を下げ、スカートを広げてカーテシーで挨拶をしてきた。
「こちらこそ、よろしく」
「それでは、所有権の
ヴェルトはメルテアの首輪に触れ、自分は肩に手を置いた。
「所有権破棄」
相変わらず光ったり、色が変わったりなどの変化は無い。鑑定が無ければ命じてみるしか無いんだろうな。
「メルテア、ステータスを見せてくれ」
「かしこまりました、ステータス」
――――――――――――――――――――
メルテア 19歳 ♀
奴隷(所有:デイジー) ジョブ:バード
――――――――――――――――――――
うん、ちゃんと所有権が移っているな。忘れないうちにメルテアをパーティに招待しておこう。
「確認した。これからよろしくな」
「はい、よろしくお願いいたします」
「木の指輪同様、身に付けている物の代金は頂きませんので、必要であればそのままお持ちください」
メルテアが身につけているのは無地とはいえドレスだ。汚れも無いし新品で買えば銀貨10枚は超えるんじゃないだろうか。
サンダルも皮製だし銀貨は超えるだろうな。彼女の値段を考えれば誤差みたいなものだけど、ボロい貫頭衣1枚だったリレッタとは大違いだ。
奴隷商会を出て、雑貨屋などを回って必要な物を揃えて行く。ピチタットに比べると値段は高いけど、まぁいいか。メルテアが使うのなら気にならない。むしろ良い物を買い揃えたくなるくらいだ。
「劇団ではどういう格好をしていたんだ?」
「舞台に上がる時は薄手の衣装を着ていました。胸当てと向こう側が透けるような布を組み合わせたものです。」
踊り子の服ってこっちにもあるんだな。そして透ける布か。この国でも手に入るならぜひ作って欲しいところだな。
「普段着はどうだった?街娘のようなものでいいのか?」
「箔をつけるために今着ているような簡易なドレスを着ていましたね。歌姫として扱われていて、雑用も免除されていましたので」
聞き取りをしながら今日2度目の服屋へと到着し、メルテアの服を買っていく。
家でも雑用をさせるつもりはないし、ドレスでもいいんだけど、もうちょっとセクシーさが欲しいな。
例によってダンジョンに行くなら着る機会は少なそうだけど、キャミソールのロングドレスとか肩の出る物と寒い日用のケープでも買って行こう。
下着も下は一杯あるから上だけ追加だな。簡易製作でパパっと作ってもらおうと思ったら。裁縫はジョブが存在しないからできないらしい。
一応、皮細工師なら布、皮、糸を使って簡易製作スキルを使えるそうだけど。装備品扱いになるので、鎧より先に着る下着や服に使うと鎧が装備品として認識されないのだそうだ。
素材本来の硬さがあるので、服にマテリアをつけて、その上に鎧を着ることも可能だけど。あの便利な自動サイズ調整が働かないのが難点なんだとか。
下着がピッタリサイズになるのは魅力だけどそのために鎧をオーダーメイドするのは大変だな。
あちらで車や家が買えるほどの金がかかると言われていたのに。防具が妙に安いのは量産品だからって理由もあるはずだ。
それなら服をオーダーメイドで作った方が安くつくだろうし、破れやすい服にマテリアをつける意味は無いかな。
ビキニトップは明日の午後には用意するという事なので、今日は服だけを受け取って帰ることにした。
今日は午後の探索は休みだな。メルテアの装備を探さないといけないし、次に売る装備も見繕う必要がある。
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