カードの絶望

全員が息を呑む。そして奈々美が震える声で何か言った。が、よく聞こえなかった。

「すみません、よく聞こえなかったんですが……」

「だめ、あいつが来る……」

「あいつって?まさか……」

「俺のことだろう?奈々美」

後ろから声がして振り返ると、男が大勢の側近を従えて立っていた。

「使えねえったらありゃしねぇ。奈々美、ちゃんとやらねぇとお前の妹がどうなっても知らねぇぞ?」

「やめて、お願い……。美波には手を出さないで!」

なるほど。そうゆうことか。

「奈々美さんの妹を人質にとるなんて、やり方が汚いね。そうでもしないと組織を大きく出来ないとか?今、あなたの周りにいる人たちも同じようなやり方で集めたの?」

「ふはははは、安っぽい挑発だなぁ。まあ、無理もないか。いくらお前がAのカードを持っていたとしても、そっちはQのカード持ちが不在で四人。あ、奈々美はこっち側の人間だから、三人になっちゃうかぁ!三人でこの人数とまともに戦えるわけないよねぇ?」

僕のカードの効果が知られていない?奈々さんが隠してくれたのか?これならまだ戦える!

「おい、奈々美さっさとこっちに来い!」

「はい……」

「奈々さん、奈々さんは本当にこれでいいんですか?この戦闘が終わっても、あなたがあいつにいいように使われるのは目に見えています。あいつに僕のカードのことを黙っててくれたんですね。そんなことをしたのは何故ですか?バレたらあなたの命も妹さんの命も危ういというのに……。それはあなたが我々なら『コレクター』に勝てるかもしれないと思っているからではないんですか?今ここで僕らと一緒に戦って勝って、妹さんを助け出しさえすれば、あいつのことを忘れられるんですよ!あなたが一人増えれば、確実に勝てるとは言い切れません。ですが、可能性が少しでも上がるなら、僕たちと一緒に戦ってください!」

奈々美は黙ったままだ。ほんの一瞬だったが、この場にいた人間にはとても長く感じられた。奈々美がゆっくりと話し始めた。

「私のカードの効果はどんな人にも完璧に変装できるだけじゃないのよ……。私のカードの本当の効果は、どんな人にも完璧に変装できて、変装した後は分身も可能なの。この人数差においては結構便利な効果かもね!」

すっかり吹っ切れたようで、いつもの彼女に戻っていた。

「奈々さん……!」

あいつの方に向きを変えてそのまま続ける。

「これで四人です。奈々さんが分身も可能となると、人数的にちょうどいい感じなんじゃないですか?『コレクター』のボスさん?」

みるみる『コレクター』のボスの顔が赤らんでいく。怒りがこちら側まで伝わってくる。

「どうやら俺と本気で戦いたいらしいなぁ!いいだろう、受けてたとうじゃないか!『Check』!」

すると、どんどん男の体が大きくなり、最終的に五十メートル程のサイズになった。

「何だよこれ!?」

「ぐははは、全員豆粒にしか見えないなぁ!俺のカードはスペードのA『ジャイアント』だ。その名の通り体が巨大化して巨人となる。驚くほどシンプルな効果だろう。しかし、お前らは何もできない。俺が動くだけで死ぬ。だから、これがAのカードなんだ!ははははは!」

あいつが喋るだけで鼓膜が破れそうだ。この場にいる全員が呆然と立ち尽くすことしかできなかった。『コレクター』の仲間までもが死を覚悟していた。いや、たった一人、この絶望的な状況で笑みを浮かべる男がいた。

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