カードの出会い


 いったい何が起こったんだ。何でガキに押し倒されて、額に銃口を突きつけられているんだ?ガキが形勢逆転だなと言わんばかりの顔で見てくる。数分前まで俺がこのガキを追い詰めていたんだ。それがどうしてこうなった。


 心の中で力いっぱい叫んだ時、頭の中に声が響いた。意識が遠のいた時の幼女の声とは違い、機械音声のような声だった。

「スペードの2『シューター』をコピーしますか?」

とりあえず何が何だか分からないが、返事はもちろん決まってる。

「はい!」

返事をした瞬間、額が発光し、俺の手の中に銃が現れた。それと同時になぜか武器を失った男をタックルして押さえつけ、今の状況となったのだ。

「さあ、知っていることを教えてもらおうか」

「話す、話すから、銃を下ろしてくれ」

俺はとりあえず銃を下ろした。

「まず俺を襲った目的はなんだ?カードをよこせとか言っていたのと関係があるのか?」

「まず言いたいのはお前を襲うつもりはなかったってことだ」

「何言ってんだ!仕掛けてきたのはそっちだろ!」

男の物言いに腹が立った。

「一回聞いてくれ。襲うつもりはなかったんだ。ただカードを発動しっぱなしの初心者だったから、敵に襲われる前にカードを回収して守ろうと思っただけなんだ。信じてくれ」

守ろうとしてくれた態度には見えなかったが、嘘をついてるようにも見えない。

「敵ってのはいったい何を指してる?」

「カードを集めまわっている連中がいるんだ。俺たちは『コレクター』と呼んでる。もう遅いから、詳しいことは今度話す」

俺たちは連絡先を交換して解散した。


 男から連絡が来たのは数日後だった。今週の日曜日にある場所に来てくれという内容だった。僕は言われた通りに向かった。


 その場所に到着すると、男の他に三人いた。気の強そうな女、女子高生、真面目そうな男、の三人だ。

「お!来たな。こいつが例のプレイヤーだ」

男が言う。

真面目そうな男が近づいてくる。

「初めまして。私はこのグループのリーダーをしている、中原純正という者です。先日は哲が迷惑をかけたようで申し訳ない。単刀直入に言うが、君も私たちの仲間にならないかい?」

哲というのはあの男のことだろう。あまりに急な誘いに戸惑いを隠せなかった。

「お誘いはありがたいんですが、まだ分からないことばかりで……」

「ああ、そうだったね。では、まず、今の構図について説明しようか。今、我々の界隈では、『コレクター』と呼ばれるカードを卑劣なやり方で奪う組織が台頭している。そして、それに対抗する我々のような少人数で構成されるグループがいくつかあるという状況だ。君が哲に会う前に『コレクター』と会っていたら、カードを奪われ殺されていたかもしれないね。哲のやり方は強引だっただろうが君を守ろうとしていたことに変わりはないんだ。カードを失えば元の生活に戻れるからね。今、君には二つの選択肢がある。一つはカードの所有権を放棄して、元の生活に戻ること。もう一つは我々と一緒に戦うこと。もし『コレクター』に行くなら、無理矢理にでもカードを奪い取ることになる。さあ、どうする?」

元の生活に戻る?あのつまらない生活に戻るのか?いや、考えられない。それだったら……。

「みなさんと一緒に戦わせてください。つまらない生活から抜け出したい!」

「一緒に戦うことは危険と隣り合わせだよ。君の命の安全は保証できない」

「覚悟の上です」

僕の意思はすでに固まっている。

「そうか。改めてよろしくな、えっと……」

「玲央です。神崎玲央です!」

この瞬間から僕たちはチームになった。

「そうと決まれば、とりあえず自己紹介をしようか。私は中原純正だ。小さな会社を経営していることもあって、このチームではリーダーを任されている。みんなからは純さんと呼ばれている。よろしくね」

気の強そうな女が喋り出す。

「私は伊月奈々美。OLよ。奈々さんって呼びなさい」

哲と呼ばれていた男が喋り出す。

「次は俺だな。俺は吉川哲也。大学三年生だ。哲って呼びな、ガキ」

そんなに歳が変わらないのにガキはないだろう。

女子高生が喋り出す。

「私は佐倉音羽です。高校二年生です。好きに呼んでいただいて大丈夫です。よろしくお願いします」

「もう、音ちゃんは音ちゃんでしょ」

奈々美がそう言うと、周りも賛同した。

「じゃあ、音ちゃんって呼んでくださいね」

柔らかい笑顔でこう言う。不覚にも可愛いと思った。

「改めて神崎玲央です。同じく高校二年生です。まだ分からないことばかりなので迷惑をかけると思いますがよろしくお願いします」

拍手の音がパチパチと響く。どうやら歓迎してもらえているようだ。

「玲央はまだカードの効果分かってないんだっけ?」

純正が聞いてくる。

「いえ、ダイヤのA『イミテイター』と紙に書かれていたので、おそらく相手の能力をコピーするような能力だと思います。哲と戦った時もスペードの2『シューター』が使えましたから」

みんなからの反応がない。何か変なことを言ったのだろうか?

「あの、どうかしましたか?」

恐る恐る聞いてみた。

「今、もしかしてダイヤのAと言ったかい?」

「はい、でも、それがどうしたんですか?」

「すまない。取り乱してしまって。Aのカードは最強なんだ。2が最弱で、Aが最強と言われている。『コレクター』のリーダーもAのカード持ちで手がつけられなかったんだ。これからの未来が玲央のおかげで変わるかもしれないと思うと興奮せずにはいられない」

「あの、いくらなんでもこのカードの効果は強すぎると思うのですが。おそらく条件とかが厳しいのでは?」

「いや、おそらく無制限のカードコピーだ。Aならそれぐらいでもおかしくない。これから試していこう」

「はい」

とりあえず僕のカードは最強らしい。

「私たちのカードの効果も話しておくね。私のカードはハートの8『ドミネイター』。私が見た人間のことを操ることができる。瞬きをしたら効果が切れてしまったり、大人数には効きが悪いなどの弱点はあるが、タイマンならまず負けはないね」

強い。使い方次第では最強なんじゃ……。

「次は俺だな。知ってると思うが、俺のカードはスペードの2『シューター』だ。何もない空間から銃を取り出して発砲できる。弾は狙ったところに飛んでいくし、弾切れもない」

やっぱり弾切れはなかったのか。突っ込んでいたら危なかったな。

「哲のも強いんだけど、純さんと比べるとねぇ。私のカードはクラブの5『ディスガイザー』よ。どんな人にも完璧に変装できるわ。潜入なんかは私の独壇場ね」

面白い効果だな。

「最後は私ですね。私のカードはクラブのQ『ヒーラー』です。どんな怪我でも一瞬で治癒できます。亡くなってしまっても二十四時間以内なら蘇生可能です」

強すぎる。回復役がいるだけでもありがたいのに、その上蘇生まで出来るとは。

「音ちゃんのカード強いだろう」

純正が言う。

「正直強すぎますね」

「はは、そうだろう。私たちが無茶できるのも彼女のおかげなんだ。さすがはQと言ったところかな。そこで君に彼女の護衛をお願いしたい。戦いになると彼女が真っ先に狙われるから」

「護衛の件は分かりましたが、戦いというのは『コレクター』とですか?」

「そうだ」

「ふと疑問に思ったのですが、『コレクター』たちはカードを集めて何をしようとしているんでしょうか?」

「おそらくだが、この国の王にでもなろうとしているんじゃないかな?普通は自分のカードしか使えないんだが、『コレクター』の幹部に自分のカードと相手のカードを入れ替えられる奴がいて、いろいろなカードの効果を試すために、カードを奪っているんだ。相手を殺してでもね」

「そんな……。許せない」

耳を疑った。そんな極悪非道な組織だなんて……。

「ああ、私の仲間も奴らに殺された。悔しさから仲間を募って今の形になったんだ。私の最終目標は『コレクター』の悪行を止めることだ。協力してくれるか、玲央」

「もちろんです」

僕たちは熱い握手を交わした。


「ボス、ダイヤのAを持つプレイヤーがようやく現れたそうです」

「なんだと、それは確かか?」

「はい」

「それは近いうちに会いに行かないといけないな」

不穏な笑みを浮かべる男が一人……。


 純正から連絡が来たのは数日後のことだった。緊急で集まって欲しいとのことだった。すぐに前に集まった場所に向かった。

「みんな揃ったな。落ち着いて聞いてくれ。音ちゃんが『コレクター』の手に落ちてしまった」

こちらに向けられたスマホには椅子に縛られた音羽の写真が映っている。

「そんな……」

奈々美が信じられないといった様子でその場に崩れ落ちる。哲也も驚きのあまり微動だにしない。至って冷静なのは純正と僕の二人だけだ。

「『コレクター』は何か言ってきているんですか?」

「交換条件として、玲央のダイヤのAのカードを渡せと言ってきている。だが……」

「音ちゃんが無事に戻ってくる保証もないってことですよね」

「そういうことだ。玲央はどうするべきだと考える?」

少し考えてからこう答えた。

「とりあえず時間が必要です。純さんは僕が今海外にいるとでも言って、取引の時間を先延ばしにしてください。その間に僕はカードの効果調べを急ぎます」

「分かった」

「それと、今こんな状況で言いたくはないのですが、この場所も監視されている可能性があります」

みんなが驚きの表情で僕を見る。

「根拠は僕のカードの存在が知られたのがあまりにも早いことです。ですから、近いうちに場所を変えた方がいいでしょう。一人で行動するときには十分注意してください」

「そうだな。今日はもう遅いし、解散しよう。みんな夜道に気をつけて」

僕は帰路につきながら、言葉にできない違和感を感じていた。杞憂に終わればいいのだが……。


 

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