第11話
夢を見た。
「結月は個人で
全国大会団体戦当日。私は顧問にそんな事を言われた。
団体戦なのに、私は個人で戦うのか。しかも全中を強いられている。
それが私の仕事だし、別にプレッシャーをかけられることにも慣れている。
「やっぱり天才は、レベルが違うから。」
「個人戦すごかったね。今日もよろしく!」
友達にもいろいろ声を掛けられて納得する。
要するに私が今ここにいる理由は四発全てを中てるためらしい。
「中てた本数が、お前の存在証明だ。」
そうだよお父さん。私はそのためにここにいる。
いつも通りのはずだった。
全国大会団体戦 第一試合 一射目。
その瞬間放った弓は的を大きく外れた。
会場がざわめくのが分かった。公式戦で外したの、そういえば一年ぶりくらいだったな。
まあそんなこともあるよな。続けて二射目の構えに入った。
次を中てれば、汚名返上くらいできる。そう思って放った矢も、わずかに的から外れた。
二射連続で外したのは何年ぶりだろう。六年くらい?
徐々に焦り始めた私はもう一度父の言葉をよみがえらせた。
「中てた本数が、お前の存在証明だ。」
この言葉は嫌いじゃなかった。今までも自分を鼓舞しようとする度にこの言葉に救われてきた。でも、もしも全部外したら…?
はじめて、父の言葉が呪いのように感じられた。
私がここにいる意味は…?
必死に引いた三本目の弓はなんとか図星に中った。
その後の四本目は気が抜けたせいか大きく外れた。
結果、優勝大本命とされた私たちの団体は負けてベスト16。
四分の一しか中てられなかったし。25%か。
この日以来、私は弓が引けなくなった。自分の残り75%が失われた気がして、なによりチームメイトに合わせる顔がない。
まるで生きる意味を失ったような気がするのと同時に命中率が上がればまだ平常心を保てる気がした。
だから必死になって弓を引いた。しかし、中てようとすればするほど矢は的に中らなくなった。徐々に勝手に矢が離れていく感覚に駆られ、これが早気だと気が付いた。
「みなさん、今までありがとうございました。」
転校する直前にチームメイトに別れの挨拶をしたタイミングで目覚ましが鳴った。
最悪な朝だ…。
昨晩ずっと泣いていたせいで目元はかなり腫れていた。どうにかして誤魔化そうと考えたが、心配してくれそうな友達も
重い腰を上げて頑張って学校に向かったが教室に春馬くんがいるのが苛立たしかった。
彼も昨日のことはそれなりに気には留めているのか、普段教室では挨拶くらいしてくれるのに今日は目も合わなかった。
幸い今日は部活がないのが救いだったが、明日からの練習はどうしよう。
なんか悔しいから、流鏑馬にはいかないで弓道場で一人で練習すればいいか。
遠くの席に座る春馬くんの背中をじっと睨みつけみた。
流鏑馬が専門の人には早気の苦しみなんてわからないよね…!
昼休みにはしっかり陽茉莉が声をかけてくれた。
「なんか今日元気ない?」と尋ねられたのでとりあえずホームシックだと答えておいた。
ポーっと考えた彼女は、鞄をガサゴソとあさってお気に入りだというグミをプレゼントして慰めてくれた。かわいいんだよ陽茉莉。
その後も一日中、彼の背中を睨み続けたが終業のころには眼圧が疲れてきたので睨むのはやめておいた。
特に何もしていないのにクタクタになりながら駐輪場に向かい、自転車に乗ろうとするとそこには海馬がいた。
「あ、ゆづきさーん!お疲れ様です!」
さすが陽キャ。こんな私にもお構いなしか。
シヨシヨになりながら黙って会釈だけすると彼は私の方に近づいてきた。
「今から何か予定あります?」
「…。ないけど。」
私がボソッと答えると彼は「ナイス!」と親指を立てた。
「じゃ、今から一緒に甘い物食べに行きましょ!」
甘い物…?
「この辺にカフェとかあったっけ?」
「先輩知らなかったんですか?あるんですよ!そろそろ新作が出る季節なんで一緒に行きましょう!」
うかつにも甘い物に飛びついてしまった。さすがチャラ男。女をよく理解している。
「こっから自転車で20分くらいです。後ろ追いかけてきてください!」
私はコクっと頷いて自転車を走らせた。
こんなド田舎にもカフェあるんだ…!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます