外国人がSUSHI握っちゃダメですか?

昼下がり、ドブ川沿いを歩いて暫く。

住宅街から雷門に近づくにつれて、人通りもどんどん多くなっていくのを感じる。


アーケード商店街、『仲見世大道』。

アメスクギャルふたりを引き連れているだけあって視線を度々感じていた。


「ねぇ……なんかすごい見られてない……?」


「そりゃあウチとエリカっち、ふたりのアメスクマブギャルが歩いてるからじゃん? そりゃみんなの視線集めても仕方ないっしょ~~~♪ ウチとかいつもここ歩くときはこんな感じだから大丈夫大丈夫w」


「まぁ、海外の人は本当……この街では珍しいらしいから。ほら、恰好も目立つ格好ではあるわけだしね、ふたりとも」


周りの視線を集めてしまい、どこか居づらそうにするエリカちゃん。

不本意ながら着ることになった衣装に、注目を集めている現状だ……無理もない。

対して、ぱるるさんは気にも留めていない様子で肩にかけた長い筒状のバッグを揺らしながらも、お気楽に答える。

まぁ、ぱるるさんの言っていることも間違いじゃないが……エリカちゃんが言っているのは異物感のことだろう。


男連中はそりゃ見惚れてる人もちょくちょく見受けられるが、年配の方や八百屋の店舗からこちらを覗く者、ひそひそとこちらを見ながら話す若奥様方など決して彼女の言うようなニュアンスではない人たちもちらほら見受けられる。

どちらかと言えば、豊島で向けられた視線に近い。


ぱるるさんいつもこんな感じって……それで気にしてないの凄いな。

そんなぱるるさんの肝の太さに驚きながらも、商店街の奥へとどんどん足を進めていく。


僕らはただぱるるさんの横で彼女の歩幅に合わせて、ついて行ってるだけ。


なんかどんどん奥に行ってない?

段々と表路地近くの漬物店や人形焼き屋が並んでいたところから、画廊やエステ、アンティークショップに小さな乾物屋などマニアックな店が並んでいる。

照明もなんだか表路地近くと比べればくすんでいて、どこか薄暗さを感じさせるような場所だ。

人の通りも全く見受けられない。


「ここだよ、漢字難しくてわかりにくいだろうけど、『オホーツク』ってお店! めちゃコスパ良くておいし~んだよね~」


そんなアーケード商店街の中でもかなり奥まった僻地で、彼女は足を止める。

指を差した先にあるのは、なんだか古ぼけたような木目の外装をしたこじんまりとしたお寿司屋さん。

くすんだ木の看板には『鄂霍次克』と彫られている……これでオホーツクって読むんだろう。


外装は時代に取り残されたというか……入るのに度胸が居る佇まいだ。


「えぇ……本当に、大丈夫なの? スシって生鮮食品でしょ? 管理が不十分なところだとお腹壊しちゃうんじゃないの……?」


「大丈夫大丈夫! えいせいかんり? については分かんないけど、味はちゃ~んと保証すっから!」


「ねぇ、アンゴ。今大丈夫な要素あった??」


「ま……まぁ、とりあえず入ろう」


心配そうにぱるるさんにエリカちゃんが質問するも、ぱるるさんはあっけらかんとした様子で答えになっていない返答をする。

エリカちゃんは衛生管理について質問しているのに、味についてだけ返されても困るでしょ……。


とはいえ、ここで立ち往生するわけにもいかないのは事実。

まぁ、寿司屋に入れば必ず何かを食べなければいけないわけではない。

寿司屋を楽しむと決めていたエリカちゃんにとっては不服かもしれないが、ここは入ってみて色々決めよう。


そもそもちゃんとしたお店かもしれないしね。


ぱるるさんが引き戸を開けて、ずかずかと店の中へと入っていく。

僕たちもその後へ続く。


店内は外とは異なり、よく掃除の行き届いていそうな古き良きお寿司屋さんと言った様相。

既に店の奥の方で、先客であろう男女一組が座っているのが見えた。

そして入って来た僕らへと、板場から板前さんらしき男性が視線を向けてくる。


「イラッシャイマセ、オキャクサマ!」


筋張った筋肉をした腕に、大柄な身体。

筋骨隆々の黒人男性が僕たちに人好きのする笑みを見せる。

板前法被に可愛らしい玉子寿司柄の手ぬぐいをねじり鉢巻きにした様相は寿司職人としてどうにもサマになっていて、柔和な印象を受ける。


「ハロハロ~、調子どぉ? マイク~??」


「oh……メチャクチャヨロシイデェス」


手を振り振りしながら気さくに話しかけるぱるるさんに、満面の笑みで答えるマイクさん。

どうやら友人らしい。


こう、連れの1人が贔屓にしてるお店の人に挨拶してるとき特有の気まずさを感じてると、ぱるるさんが振り返って僕らを見る。


「あ、そーだ! 紹介しなきゃじゃん! そこの2人はアンゴっちにエリカっち! ウチの今の同僚……的なカンジかな? で、こっちのお寿司職人さんはマイク! めちゃ腕良いんだよ〜超腕利きなんだから!」


「HAHAHA、テレマスネ。ワタシ、マイケル・ジェイコヴスとイイマス。今日……イタバ、シキッテマス。ゼヒ、ユッタリスゴシテッテクダサイ」


「よ、よろしくお願いします」


「……よろしく」


片言の日本語で微笑むマイケルさん。

そんなマイケルさんに慌てて頭を下げると、僕の後ろに隠れるように立っていたエリカちゃんがペコリと頭を下げた。

人見知りしているのだろう。


多分マイケルさんにもそれが伝わったのか、小さな子供を見るように微笑むと、包丁を布巾で拭う。


「ソレジャア、本日……はドウシマショ?」


「ウチら3人に適当においしいの、見繕って!」


「アイヨ! オジョウチャンはワサビ、ヌイトクカイ?」


「た、食べれるわよ! 失礼しちゃうわ!!」


「oh……sorry、ソレジャスグにニギルカラマッテテクダサァイ」


さび抜きを聞かれて、子供扱いされたと思ったのかプンプンと怒るエリカちゃん。

見た感じ外国の血を感じるので配慮したのだろう。


にしても、まだご両親がご健在の時にお寿司を複数回食べていたのだろうか?


「大人だね、エリカちゃん。僕がエリカちゃんくらいの時はわさび抜いてもらってたよ」


「ま、まぁ教育の賜物って奴かしら? にしても随分と可愛らしいエピソードね。その頃のアンタに会ってみたいわ」


「……はは、そうだね」


エリカちゃんの年頃……小学生の頃の自分。

……いいや、辞めておこう。

ただの与太話、いちいち考えるのもおかしな話だ。

楽しい場には楽しいことを考えていたい。


席に着くと、逃避するかのように板場のマイケルさんへと視線を向ける。

板場ではマイケルさんが3人分の下駄を用意し、酢飯を木べらで掻き混ぜて、マグロの赤身の柵をまな板の上に置いていた。


思えばこういう回らないお寿司は一度連れて行ってもらったときくらいか。

こういうお店って高いイメージがあるんだけど、大丈夫だろうか?

コスパが良いとは言っていたけど……。


「ねぇ、本当に大丈夫なの? もしお金足りなくて皿洗いする羽目になるんだったら、巻き込まないでほしんだけど……っ!」


「だいじょぶだいじょぶ! ホントマジでコスパ良いから! ねっ、マイク♪」


「ハイ、こちらマグロアカミデス。110円デスネ。ウチはイチバンヤスイで110円、タカクてもダイタイ400円ダイでヤッテマス」


「え、回転寿司と大体同じじゃん……! このクオリティで?」


回転ずしと同じ値段帯のお店なんて少なくとも僕が知る限り、このトウキョウで聞いたことがない。

目の前にあるマグロの赤身も決して品質が悪い物じゃなくて、食欲をそそる赤身の照りと艶々としたシャリの輝きが調和しているように見える。

回転寿司で出された物とは思えない……回らない寿司の出で立ちだ。


「アリガトウゴザイマス! オコシになったオキャクサマにはよく言われマス! ココ、アサクサではワタシたちみたいなガイジンはスシニギラセテモラエマセン! シュギョウもタイテイはシオ掛けられて、モンゼンハラエデェス……」


包丁を拭きながらも、しみじみとした表情で語りだすマイクさん。

かと思えば、イカの柵を取り出してまな板に置いてぺちりと叩くと笑顔を僕らに見せる。

歯並びの良い白い歯が、先ほどとは打って変わった喜色を感じさせた。


「ソンナワタシたち心よくイレテクレタのがオーナーデス! ワタシたちがシュギョウするプレイスをヨ―イシテクレマシタ。たくさんのクニのオキャクサマがオトズレヤスク、まわりの二ホンのヒトもウケイレヤスイネダンになってマス! シイレもクフウだそうデス!」


「あぁ……この街ならそんなこともありますよね。大変でしたね」


「いやよっぽどでしょ……ちょっと怖くなってきたんだけど」


浅草は多くの日本人が居る。

その中にはこうして分割統治されたことで多くの外国人が流れ込み、定着した現状をよく思ってない人物・団体だって珍しくない。


「……? とりま赤身食べちゃうけど良い? はーむっ、ん〜〜! 美味しい!!」


若干引いてる様子のエリカちゃんをよそに首を傾げるぱるるさん。

そしてよくわかってない様子でお寿司へと意識を移し、笑顔を見せる。

いや、ぱるるさんだって他人事じゃ……ないんだけどな。

お気楽なのか……いや今までの振る舞い的に、もしやおつむが弱い系なのか……?


まぁ、とにかく目の前の赤身はとても美味しそうだ。

苦労してまで修行をして握った寿司。

味合わせてもらおう。


「いただきます……ほんとだ、うまい」


「よかったデス」


見立て通りの完成度。

しっかりとお魚に臭みがなく、シャリもダマになってたりしない。

ちゃんとしたお寿司だ。


「エリカちゃん、これめっちゃうまっ……」


「~~~~~~っっ!!!!!」


美味しいよ、食べなよと促そうと彼女の方へと視線を向ける。

すると彼女は口に何かを含んだ状態でふーふーと鼻息荒くしながら、顔色を青くしていた。

……悶絶してる?


お皿には寿司はない。

であれば寿司を今食べていることは間違いないだろう。


『アイヨ! オジョウチャンはワサビ、ヌイトクカイ?』


『た、食べれるわよ! 失礼しちゃうわ!!』


……あ。

もしかして、わさび……本当は食べられなかったんじゃ。


「だ、大丈夫? 一度、吐き出す? チリ紙でももらって……ていうか、なんでワサビ抜いてもらわなかったの……?」


「だ、だいじょ……ごほっごほっ! あ、アタシだけワサビを抜くとか……こ、子供みたいで恥ずかしいじゃないっ! そ、それに最後にお寿司を食べてから時間経って食べれるようになっているかもしれないし……」


キッとこちらを睨みながらも、恥ずかしそうに頬を紅潮させるエリカちゃん。

心なしか声も小さくなっている気がする。


「とりあえず、お茶飲もうか……あっ、今後この子のお寿司はワサビ抜いてもらっても、お願いします」


「アイヨッ!」


僕が言うと、カウンター越しにマイケルさんが快活に返事する。

江戸っ子って感じだ。

それはさておき……。


「よげいなおせっ……かはっ、こほっ!」


「ああ、もう。ほら意地張らないで……お水だよ」


「んぐっんぐっ……ぷはぁ……せ、背中トントンするなっ……! あ、赤ちゃんじゃ、ないんだから……!」


「ああ、うん……そうだね。でもあの剣幕で一気に飲んだら詰まっちゃうかもだからね」


「うううぅぅぅ~~~~」


恥ずかしいのか頬を赤らめながら、僕を恨めし気に見てくるエリカちゃん。

これに関しては自爆としか言いようないし、正直ちょっと理不尽かも。

まぁ、失敗した時は他責になるのも分かるけどね。



「え~~~!? 子供扱いヤーヤーでワサビちゃん食べちゃったん~~?? カ~ワイ~イ~!! うりうり~~、お姉ちゃんもナデナデしちゃうぞ~~~~!」


「やめっ、アンタまで気安く撫でてこないでよっ!! それに他のお客さんの迷惑にもなるでしょ!!! へばりついて来ないでっ!!!」


ぱるるさんはニヤニヤと笑いながら、隣の席のエリカちゃんに抱き着く。

当然彼女と馬の合わないエリカちゃんは大層嫌そうな顔で払いのけようとしていた。

まぁ、当然と言えば当然というかなんというか……。


「まっ、こうしてエリカっち愛でたところだし、そろそろ本題の話しよっか?」


「本題……あっ、情報交換ですよね」


「ちょいちょい!w 食事をしに来たとはいえ、元々はゆったり腰据えて情報について交換したいから話したんでしょ?? しっかりしてよね~~w」


「……」


「ねっ、こういうところなのよ……この女」


なんというかエリカちゃんと同じく、ぱるるさんも僕からすれば先輩我楽多だ。

ただ、そうだとしても『しっかりしろ』と彼女に言われるのはなんとも腑に落ちない。

気ままにマイペースな振る舞いしか見てないしなぁ……。


エリカちゃんも僕の隣で溜息を吐いている。


「仲間の一人であるジンさんの伝手でナイトクラブで情報収集をした結果、米倉スズには一人の厄介客がついていたことが判明しました。名前はトマス・レクター……年齢は20代前半。父親が貿易会社を経営していて、金があるらしいです。オールバッグの金髪と、金色の品のない時計にサスペンダーが特徴だとか」


「米倉スズが姿を眩ましてからは一度もナイトクラブに来店していないことから怪しいかもって話になってるわ」


呆れた気持ちを取り払うように、本分を口にする僕ら。

すると先ほどまでお気楽だったぱるるさんが難しい顔をして、顎に手を添える。


「父親が貿易会社の社長なら少なくともレクターって苗字の可能性が高いわけでしょ~? それに、わざわざ何度も来店していたってことはここトウキョウに根を下ろしている人間であるカモってこと……」


「それで、そんな風に真面目っぽい素振りで考えてるけど、アンタは何か情報掴んだわけ?」


思案しているぱるるさんにジト目を向けるエリカちゃん。

そんなエリカちゃんに自慢げに胸を張るぱるるさん。


「とーぜん! あったりまえっしょ?? ほら!」


そう言うと、ぱるるさんは懐から数枚の写真を広げる。

それは国籍、髪の色、服装もバラバラな少女の写真。

カメラ目線だったり、逆に通りすがりを写したかのような盗撮写真っぽいものまである。

しかし、どれも共通して10代の可愛らしい少女であった。


「なによこれ」


「ここ最近、立て続けに行方不明になっている女の子たちだよ。まぁ、ユメシマのほうで人身売買やってる組織があるくらいだしぃ? 行方不明自体はそんなに珍しいことでもないんだけどさー」


「知らなかった、そんなの……」


行方不明者が多いことは知っていたが、組織ぐるみで人身売買やってるような連中が夢洲に居るのか。

怖……。

救いは夢島なんて普通行くことのないスラムってことくらいか。


いや、つれてかれるかも知れないと考えるとそれは関係ないかもだけど。


「ただ、にしても短期間に可愛い子ばかりが立て続けに居なくなってる。それにどれも現場では監視カメラが何者かによって壊されて持ち去られてる……みたいな? 手口が似てるんよね〜こりゃ、どーいつはんで決定〜的な? これ関連が怪しいんじゃないかって睨んでたんよ」


「ふーん、アンタにしては割と真面目に調べてたのね。でもお生憎様! アタシとアンゴの持ってきた情報の方が知人を介してる分、信憑性が高いわね!!」


ふふんと胸を張るエリカちゃん。

ここに来るまで、うまいことしてやられてた分、得意げな表情だ。

とはいえ、そんなエリカちゃん相手でもぱるるさんはどうも気にする様子もなく、首を縦に振ってるが。


「それな〜、レクターって苗字のシャチョさんなんよね? そんならウチが知人片っ端から当たってみようか?」


「え、なんか伝手あるんですか?」


「ちょいちょい、ウチこれでも色んなおじ相手にそういう仕事してるんよ? そりゃ、社長のおじだったりも例外じゃないっしょ! トウキョウ内なら寝た相手辿ってけばそういう人が居るのかわかるってワケ!」


なるほど……人脈ってことか。

寝た相手とかいちいち生々しいが、正直心強い。


「……アタシも、フリーハグとかやってたんだけど。それなのに伝手もなければ、居るのはセクハラしてくる貧乏人のおっさんだけって理不尽じゃないかしら……?」


「ほ、ほら! エリカちゃんは子供だし……それに場所のせいでもあるだろうし……!」


さっきまでの意気揚々とした様子はどこへやら。

エリカさんの言葉を聞いて、露骨に凹むエリカちゃん。


い、いやでもやっぱ直接寝るかどうかの違いはデカいよ……。

それにぱるるさんが言ってるのは愛人的な意味合いもあるだろうし……それはそれで大変だと思う。




「オキャクサマ、オマタセシマシタ。サーモン一丁!」


「……はぁぁぁ~~~~」



「わぁ!? び、びっくりした……」


話し合う僕ら、するとガチャンと思いっきりテーブルを叩く音が店内を突然響く。

隣でビクンと肩を揺らして驚くエリカちゃん。


音の方向を見やれば、奥の席で食事をしていた二人組の一人である男が立ち上がっている。

日本風の軍服に身を包んだ、切れ長の瞳の偉丈夫。

腰元には帯刀をしている。


彼は呆れかえった様子で、長くため息を吐いている。


「ドーサレマシタ? オキャクサマ??」


「……鮭身、手の熱で油が溶けてやがる」


「エ? いや……ソンナハズワ……」


「あ? 手の皮の厚いガイジンのお前にゃわかんなかったんだろ? クソみてぇ寿司モドキ食わせやがって……さっきから我慢の限界だったんだ。ガイジンが俺たちの誇るべき文化『寿司』を握る職人の猿真似をしやがって。文化の盗用でも企んでやがったか? まったくこれだから油断も隙もないな、ガイジン」


男はマイケルさんに向けて薄ら笑いを浮かべ、詰るように言葉を吐き出していく。

軍服……帯刀、嫌な予感が頭を過る。


おいおい、まさか……。


「それに、こんな商店街の僻地に店を構えてやがるのもやましいことがあるからだろ? なんてたって、これまた隣の席では我楽多やってる不良ガイジンどもが悪事の算段を立ててやがる……俺はいつからゴミ溜めで飯を食う羽目になったんだ?」


「……っ」


「……」


男は嘲りながらも、今度はこちらに目線を送る。

瞳には剣呑な色が灯っている。

エリカちゃんは不安げに身をこちらに寄せた。

ぱるるさんはただ黙っている。



「まったくガイジン様には舌を巻く。さすがは『害』『人』でガイジンと読むだけあるぜ……テメェの所のオーナーは日本人の癖にお前らガイジンを招き入れてんだろ? 非国民のクズが……日本の誇りも忘れた銭ゲバが……っ! そいつが居る場所を教えろ、叩き斬ってやる」


「……! ワタシがワルグチイワレルのはカマイマセン! デモ、オーナーへのワルグチはミスゴセナイデス! ナオシテクダサァイ!!」


「おー、人間らしいこと言うじゃねぇか。でも日本語がうまく使えてねぇな? あまりにも笑止千万だ……滑稽だからいい加減口を開くのを辞めたらどうだ? 人モドキ」


「そんなに気に喰わないならさ~、自分が店を出れば良い系じゃねぇ~? なに立ち上がってグチャグチャ言ってんの? キモいんだけど~」


知り合いが差別を受けている現状に、ぱるるさんも苦言を呈する。

流石に見過ごせなかったのか、声もどこか冷たい。

先ほどまで話していた彼女の声色とは大違いだ。


しかし、そんなぱるるさんの言葉を受けても目の前の男はたじろぎすらしない。

それどころかやれやれと肩を竦める。


「性病持ってそうな頭の軽い南蛮女にゃ分かんねぇんだろうが、そうは問屋が卸さねぇ。なにせ俺は『攘夷師団』が副長、土方歳三郎。誇り高き護国の志を掲げた大和烈士なんだからな」


『攘夷師団』、名前の通り尊王攘夷を掲げた組織。

この時代に大日本帝国の軍服を着た、時代錯誤の出で立ちをした組織。

嫌な予感が的中した。

こと、エリカちゃんやぱるるちゃんにとっては遭遇すること自体が最悪の集団だ。


なにせ、この街において外国人に理不尽な凶刃を振るっている一大勢力なのだから。


「……っ!!」


「アンゴ……!?」


僕は立ち上がると、咄嗟に身をぱるるさんと土方と名乗った男の間に踊り出す。

こうすれば、ひとまずは安心だ。

なにせ、僕は生まれも育ちも日本……海外の血も入っていない、と思うから。


僕が矢面に立てば、少なくとも後ろの二人は斬られることはないだろう。


「あん? おい、お前……なに自分は関係ないみたいな顔してるんだ? 聞いてなかったのか、聞く知能がないのか我楽多の小僧? お前が引き連れてんだろ……その南蛮のスケども。ガイジンに与する非国民……天誅すべき下郎が!!!」




男の右手が瞬時に腰元の刀の柄を掴む。

きらりと輝く光、鞘から引き抜かれた刀身の輝き。


認識が甘かった。

そうだ……しっかりとこの寿司屋のまだ顔も見ていないオーナーへ殺意を見せていたんだ、目の前の男は。

今も、目の前の男は眼窩に殺意の色を滲ませて、押しつぶされそうな剣呑さと共に


斬られる。

日本刀でざっくりと。

テレビで見た時代劇の斬られ役のように、それでいて実際はもっと無様に倒れ伏すだろう。


懐に感じる感触。

ある……対抗策。

Ice Boxで買った拳銃。

それで、右手を撃ってしまえば刀を握れなくなるんじゃないか?


引き撃ち、それも素早く動く右手を狙えるか?

……否、無理だろう。

そんな技術は僕にはない。


それこそ、西部劇の芸当だ。


なにが出来る、このまま斬られないためには何が出来る。

後ろにはふたりが居る。

退くのは無理だ。


思い出せ……思い出せ。



目の前の相手の剣呑さ、気迫。

居酒屋で絡まれた時とは比べ物にならない、色濃い死の予感。


嗅いだことのある感覚。

それこそ、幼い時はオーバードーズと言ってもいい程に注がれた感覚。

久方ぶりに感じるその感覚に、思考が溶けていく。


乾燥わかめを水に浸したみたいに、遠く彼方に投げ捨てたはずの過去へと意識が手を伸ばす。

感覚が蘇る。

身体に染み付いたソレが、また顔を出そうとして――




『……化け物』




「っっっ――!!!」


『キミ』の声が聞こえた。

ずっと足に縛り付けられた軛のように、失望がじゃらりとその存在を主張する。

ぽつりと立つ少女の軽蔑が、今……ありありと僕の鼓膜を揺らす。


過去のあの子の落胆が、僕を今詰った。



筋肉が強張る、思考が固まる。

息が詰まって、心臓がどくんと一段と跳ねる。

汗は噴き出して、思い起こした声がガンガンと反射でもしたのか頭は途端に痛む。


けれども、眼球は目の前の光景……刻々と迫る刀の閃きを捉えているわけで。



――ああ、間に合わない。



我楽多の初っ端の怪我が、刀傷なんて笑えない。

どのくらい痛いのだろうか。

痛いというより、熱いのかもしれない。


耐えられるのか、『今』。


他人事のように、その刀が自分に行きつく様を眺めている。



すると、それがどんどん遠くなっていく。

急に首が閉まって苦しい。

分泌されたアドレナリンが現実逃避させているのか?


いや、違う……僕は今、物理的に彼から離れている!

首を、誰かに引かれている!

すさまじい力で、それも乱暴に!!



「あっぐっ、がっ……!?」


椅子を巻き込みながら床に倒れ込む。

ガンと頭と背中、脇腹をぶつける。

いったぁ~~……。


「勘違いすんなよ、ウチのツレだから」


顔を上げれば、ぱるるさんの背中。

床に倒れているので、彼女のスカートが短いこともあってパンツと尻が見えていた。

『紐』だ……往来に出歩くのに正気か?


「アンゴっっっ!!! 大丈夫……!? な、なんであんなことするのっっっ!!!!?」


「あ……え、ご、ごめん。アイツら相手なら、日本人の僕ならって……」


「……っっっ!!! ばっかじゃないの……!!」


横からエリカちゃんが僕の顔を覗き込む。

一瞬僕の身を案じたかと思えば、咎めるように目を吊り上げる。

僕の答えを聞くと、うるうると涙目になったかと思えば僕の肩に顔を埋める。


……心配、させてしまったか。

まぁ、知り合いが斬られるかもしれないってのに身を乗り出して、それでポカンとしてたんだから。

この年頃の子ならそりゃこうなるのが普通だ。


そんなこと、もう分かってたのに軽率が過ぎた。

悪いこと、しちゃったな。


「……テメェ、その袋にゃ金属バットでも仕込んでやがんのか?」


「せいかーいっ♪ アンタの頭もパッカーンとホームランしてあげる、どぉ? アンタみたいなのにはお似合いのゴールだと思っけどっっっ!!」


「お断りだ、野球は嫌いなんでな。塁をぐるりと回って走れば1点なんて、国土の広さしか誇るところのないメリケンらしい競技じゃねぇかぁ!!」


ぱるるさんが筒状のバッグを両手で持って、土方の刀とつばぜり合いをしている。

どこかドスの効いた喜色の滲み出たぱるるさんの問いかけ。

その声に不敵に笑みで返すと、これまた気迫のこもった声で楽しそうに土方は返す。


声の力の籠り方と同じく、ぱるるさんのバッグを弾くと一歩退く。

距離を離した……いや間合いを開けたのか?


刀を納刀する音が聞こえる。


「やっと、お店から出る気になったぁ?」


「いいや、寧ろ逆だ。ガイジン如きに一太刀受け止められたんだ。殺る気になったんだよ……俺も、『コイツ』も……!」




土方は……男は、嗤う。

頬が吊り上がり、歯茎は剥き出しに。

目は見開き、血走った白目が爛々と輝く。

よほど一撃をぱるるさんに受け止められたのが癇に障ったのか青筋を立て、殺気と狂気は剥き出し。


構えは居合い。

刹那の時を縫い、命を刈り取る神速の刃……その技法。


「――此度、『虎徹』は血に飢えている」


「カタナを鞘に納めててなんのつもりィ!!? アタシのが当たる方が早いっしょぉ!!!!」


「イケナイ、パルルサン!!! フセテ!!!!」


「ックハハハハ!! 戯けがぁ!!!」


ぱるるさんは得意げな声でバットを振り上げる。

そんな彼女を見て、包丁を握ったマイケルさんが板場から叫ぶ。

土方はバットで殴りかからんとするぱるるさんを見て勝ちを確信したのか、哄笑を上げる。


神速の剣か、バットか。

どちらかによって店内は鮮血に染まる。





来るべきその瞬間。

しかし、それはいくら時間が経とうと訪れることはなかった。



「ちょいちょい、何やってやがりますか土方さ~~~~ん」


土方の背後からポニーテールの少女がひょっこり顔を出す。

彼の背後から顔を出す際に、流れるように卓上から箸を一本取って投げる。

その箸はマイケルさんが手に持っている包丁を弾くと、板場の後ろの壁に突き刺さる。


そして土方の刀を握る右腕に、まるで恋人がするかのように腕を絡ませることで固定する。

神速の刃は思ってもみないところから無理やり止められ、引き抜かれた刀身が道半ばで動きを止める。


そして土方へと振り下ろされたバットはと言うと、彼女の空いている方の手で受け止められていた。


「は……? うげぇっ!!?」


「はい、返してやるっス」


急に現れた少女にバットを手で軽く受け止められて、素っ頓狂な声を出すぱるるさん。

しかし、少女のつま先がぱるるさんの腹目掛けて食い込んだことで苦悶の声を上げながらバットから手を放して身体を折る。


膝をついたぱるるさんに軽い調子で声を掛けると、ぱるるさんの目の前の床にバットを力なく放った。


場を平定した彼女。

さっきまで楽しそうに土方と談笑していた少女だ。

彼と同じ軍服に身を包んでおり、攘夷師団の人間であることがわかる。

そんな彼女は土方に身体を寄せると、不機嫌そうに頬を膨れさせる。


「も~~、人がトイレに行っている間に剣客して~~~! どういうつもりっスか~~~!!」


「どういうつもりって、決まってんだろ。攘夷活動だよ、攘夷活動。 ここに居るガイジンと、それに与する非国民どもをなます切りにしてやろうとしてたところだ。俺たち烈士にとっちゃ義務だろ? ……沖田ぁ、お前何止めてんだ?」


土方はギラギラとした目つきで、隣の沖田と呼ばれた少女を睨みつける。

すると少女は慌てた様子でわたわたと身振りをし始める。


「ちょっ、それはマズイっスよ! ここ、バックに『ニッポン友の会』がついてる店なんス! いくらガイジン相手でも、同じ『東侠会』下部組織相手に不義理しちゃったら近藤さんもカンカンっすよ! 土方さんも危ない目に遭っちゃうっスよ!!!!」


「……チッ、そういうことかよ。ほんっとに下らねぇぜ……」


土方は吐き捨てるようにそう言うと、刀を納刀する。

そして周囲を睨みつけると、息をついて出口へと歩いていく。


「沖田ぁ……テメェ、支払いしとけ」


「あ、は~~~~い!」


「それと……お前、ここに行きつけの旨い寿司屋があるって言ってたよな?」


「ハイ!!」


「ガイジンに関する店に贔屓にするたぁ、なんたる狼藉だ。隊規違反だ……仕置き物だな。キツイ折檻が待っているから覚悟しておけ」


そう言い残すと、土方は寿司屋を出る。

ぴしゃると力任せに戸を閉める音が店内に響く。


「仕置き……折檻……、うへへっ、わたし何されちゃうっスかぁ~~~もぉ~~~~!!❤❤ あ、ダメ! 土方さん、それ身体に痕が残りやがりますぅ~~~❤❤❤」


残された沖田と呼ばれる少女は頬を紅潮させると、恍惚とした表情でくねくねもじもじと自分の世界に飛んで行っている。


「ア、アノ……」


「あ、支払いっスよね。りょーかいりょーかい、いや~迷惑かけたんでね? これで水に流してくださいっス。ほら、お姉さん方も店員さんも、4人でこれ分け合って、ね?」


マイケルさんがおずおずとした様子で声を掛けると、さっきまでとは打って変わってカラッとした様子で懐からテーブルへと何かを一個投げる。

それは分厚い顔札の塊……顔束だ。


今日、彼らが食べていたであろう寿司の代金なんか優に超えているであろうお金を投げ渡す。


顔束なんて、見たことがない。

この後、この依頼を成功させたら何個かもらえるような報酬だ。

お詫びにしては破格がすぎる。


「ちょっ、束! 束よアンゴ!!」


「うん、壮観だね」


「ド、ドウモ……アリガトウ、ゴザイマス……」


目を丸くするエリカちゃんと顔を見合わせる。

公園であんなことをしていたくらいなんだ、僕以上の衝撃だろう。

ご両親が生きていた頃なら、こうも驚くことはなかったんだろうか。

運命の悪戯というか、なんていうか……儘ならないな世の中って。


マイケルさんはおっかなびっくり頭を下げる。


「アッハハ~、いや~突然腹蹴られてビビったけどマジ助かったわぁ~! あの刀振り回してるヤバ男止めて、場を収めてくれたっしょ? ホント、あんがと! それにお詫びっつってもこんなんもらっちゃっていくら礼言っても足りないっつーの?」


「あ、ありがとうございます」


「あ、ありがとう……感謝するわ」


ぱるるさんは立ち上がると、沖田と呼ばれる少女に笑いかける。

僕もそんなぱるるさんに続いて、お礼を言う。

エリカちゃんも僕の裾を掴むとおずおずと頭を下げた。


「ここまでしてもらってるし? なんかしらお礼させてもらわないと気が済まない的な? とりまウチと連絡先交換しない? ヤバ上司に顎で使われるのも疲れるっしょ?」


ぱるるさんは携帯を取り出すと、フリフリと振って少女に見せる。

すると、沖田は乾いた笑みを浮かべながら頬を掻いた。


「アハハ……なんか、お姉さん方は勘違いしてやがるみたいっスねぇ~」


「勘違い?」


エリカちゃんが疑問符を浮かべる。

すると、そうっスと答えて沖田と呼ばれた少女は僕らに笑みを見せる。

口元は笑顔の形はしているが、目は据わっている。

その瞳を見やれば、笑みに友好的な意味合いがないというのは一目瞭然だった。


「わたしは別にアンタらと仲良しこよしをするつもりはないっス。寧ろ逆っスね。そもそも土方さんを止めたのだって、ここであのままにすると土方さんが不利益を被っちゃうから……全部土方さんのためっス。もし、ここじゃなくて外でアンタらと会っていたら、私だって土方さんと同じくアンタら斬ってたっスよ。」


「なんなら土方さんの手を煩わせないようわたしが率先してぶった斬ってたっスもん! アハッ♪」


ヘラヘラと笑う沖田。

しかし、腰に下げた刀を握る手にギュッと力が籠るのが分かる。

こちらを見やる瞳には剣呑な光が宿っている。

……刀を振るっていた時の土方と同じ目つき、殺意を感じさせる眼光だ。


「ほんと、この街から出ることをお勧めするっスお三方。何か、事情があって離れられないなら精々そんな派手で売女臭い服装は辞めた方が良いっス。ガイジンはガイジンらしく、目立たないように端で大人しくするのが賢い在り方っスよ。ってことで、精々また会わないことをわたしも祈ってあげるっス。さようなら」




彼女は皮肉交じりにそう言うと、後ろ手に手を振りながらも扉を開けて暖簾を潜る。

後に残るのは椅子を巻き込みながら床に尻もちをついたままの僕と、隣に寄り添ってくれているエリカちゃん。

板場に立つマイケルさんに、ぱるるさんが空しく携帯を取り出したまま佇んでいた。


「な、なんなのよ……あいつら」


「あれは、攘夷師団。今の他国によって分割支配された日本の是正と外国人排斥を掲げた過激な集団だよ。よく『慈善活動』と称して浅草周辺地域を見回って、目についた外国人に危害を加えたり、通りがかったところを演説したりしているらしい。斬られて重傷を負うような通り魔的な事件は浅草では6割ほど彼らの仕業だって言われてるんだ」


「ふーん……アタシからすればたまったもんじゃないけど、でもここに住んでる人間にとっては賛同できる主張でもあるんでしょうね」


「いや、それが……外国人であるという判断基準が見回っている人間でバラバラでね。名前が漢字でなければ外国人だってことで『トメさん』って日本人のお婆ちゃんが斬られたり、中国人でも名前が漢字だから見逃されたり、逆に肌が白いって理由で先天的にアルビノの日本人女性が斬られる事例があったりと結構カオスなんだよね……」


「じゃあダメじゃん。無茶苦茶じゃない、とんだイカレ集団だわ……」


何とも言えない表情をしていたエリカちゃんがドン引きする。

いや、同じ気持ちだ。

というか、彼らの所業は度々ネットの掲示板で『【悲報】攘夷師団さん、また斬る相手を間違ってしまう……w』的なスレが立てられてバカにされたりしている。


その際のデータソースは大体web版トウキョウサテライトの独自取材によるもので、警察の公表する情報も頼りにされてないこの街の終わっている情報が垣間見えるんだが……。

まぁ、ていうかこういう背後になんらかのバックが付いている奴の犯行の場合は、警察はほとんど世間に公表したりしないからしょうがないっちゃしょうがないか。


「ミナサン、オサワガセシテ、Sorryデース……」


「いいって、いいって! つーかさぁ、この顔束……7・3で分けない? こっちが3で、そっちが7。渡した方もそのつもりみたいだし、多分そっちの裏についてる人たちへの迷惑料なんしょ? 知らんけど」


「ワタシは、カマイマセン」


申し訳なさそうにするマイケルさん。

そんなマイケルさんにぱるるさんは笑いかけながらも、顔束について話をつけていた。

なんともまぁ、ちゃっかりしているというか……仮にも腹を蹴られたって言うのに、元気なものだ。


「なによ……あんな目に遭ったのにもうお金の話? 私腹肥やす気満々ね。同じ目に遭ったのはアタシたちもなんだけど?」


「ちょいちょい、エリカっち勘違いしてるって~! 先にもらうお金は決めとくべきぢゃん? せっかくみんなで山分けするんだし!」


「……それが分かってるなら、良いのよ」


ぱるるさんをジト目で見つめるエリカちゃん。

そんなエリカちゃんにぱるるさんが笑って返答すると、その言葉を聞いてエリカちゃんはこれ以上の追及を辞める。

どことなく嬉しそうだ……まぁ、新しく資金が手に入ったしね。

当然か……僕も同じ気持ちだし。


とはいえ、今後は浅草にエリカちゃんを連れて入るのはやっぱり控えた方が良いな。

噂に聞いてた連中が本当にヤバいことを確認出来たわけだし。

この寿司屋で遭遇していなければ、マジで斬られていた可能性があるからな。


「とりま、ウチは知り合いを当たってみるわ。ちょっと個人的な仲当たるから、ちょっち別れて行動させて欲しいカモ。そっちも何か情報が手に入ったらウチの携帯に連絡する……オーケー?」


「分かりました、お願いします」


今後の方針が決まった。

それじゃあ、僕の方はどこを当たろうか……ぱるるさんがくれた情報について一応調べてみるか?


ゆっくりと立ち上がり、椅子を直す。

すると、マイケルさんが僕たちのテーブルの寿司下駄に寿司を置く。

白身のお寿司と……それと赤い魚肉の寿司。

トロトロテラテラとしている……これって……!


「コチラ、タイデス! ソレト……サービスに、オオトロドウゾ」


「そんじゃ、色々決まったことだし! お寿司に集中しますかぁ! いっただきまーす!」


ぱるるさんは笑顔でそう言うと、手を合わせてお寿司を食べ始める。


「あ、マイケルさん。エリカちゃんのお寿司は……」


「モチロン、サビヌイテマース!」


「あ、ありがと。ま、まぁ気遣ってくれたなら、感謝してあげるわ……!」


良い笑顔のマイケルさん。

強がっていたのもあって、エリカちゃんは頬を赤くする。

なんとも微笑ましい光景だな……さっきまで刀持った連中が居たとは思えない和やかな雰囲気だ。


さて、僕の方もいただくとしようかな……。

まずは大トロで、身だけに醤油をつけて……っと。



……うんまっ!

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