第1話 席替えで隣になった高嶺さんに馴染めない
幼馴染ジョークをかました友人達から揶揄われる夜を過ごした次の日。
内心ビクビクしながら僕は教室のドアを跨いだ。
「でさー、この動画やばくない?」
「嘘っ、めっちゃこの人歌うますぎ。これでうちらと同い年とか信じられないんだけど」
「見て見て大谷山でたわ。めっちゃミート広くて強すぎんだけど」
「マジか!?俺バイト代入れても出なかったのにファッ○!?こんにゃろーーーー!」
「あだだだだっ」
しかし、僕の予想に反してクラスメイト達はいつも通りだった。
どうやら僕が高嶺さんの幼馴染なことは広まっていないらしい。
それか知った上であり得ないと思われているだけか。
まぁ、何にせよ助かった。
僕はホッと胸を撫で下ろし、自分の席に腰を下ろす。
(今日も平穏に過ごせそうだ──)
一時間後。
(──平穏終わるのはやっ!?)
僕はクラスの男子生徒達全員から針の筵にされていた。
原因は僕の冗談がクラスメイト全員に広がったから──ではなく、僕が今持っている一枚の紙にある。
これは担任の小林先生が作った何のヘンテコもない席替え専用のクジだ。
そして、僕が引いたのは25番。
場所は、窓際2番目の一番後ろというそこそこの当たり席だった。
でも、これくらいなら当然こんなことにはならない。
精々、「なかなかいいとこ引いたな」とか「荷物取るの楽そうで羨ましい」と言われる程度だろう。
しかし、そこにとある条件が加わるとあら不思議。
『変われ変われ変われ変われ変われ変われ変われ変われ』
『あーなんであいつなんだよ!○ね』
『空気読めや、カス』
声にならない怒りと嫉妬に塗れた言葉達が大量に飛んでくる最悪の状況に様変わりだ。
僕は別に悪いことをしていないのに。
まぁ、それも仕方ない。
だって、僕が偶然手にしてしまった
「よろしくお願いします、陽田君」
「うん、よろしくね。高嶺さん」
──学校1の美少女と名高い高嶺さんの隣の席になったこと。
コクリといつものように軽く会釈をしているだけなのに、間近にあるせいで破壊力は十割増し。
(まつ毛ながっ。肌のきめ細かすぎ。唇プルプル過ぎ。本当美少女過ぎてやばい!?)
もう色んな意味で心臓がバックバックだ。
本当になんでこうなった!?
こんなのが一ヶ月も続くなんて耐えられないよ!
あまりに急激な生活の変化に耐えられなくなった僕は、先ほど配られた大きめのプリントを被り机に伏した。
それからどれくらい経っただろう?
ある時、小林先生が「じゃあ、体育祭のメンバー決めするぞ〜」と重大発表を行なった。
それにより、クラスメイトの意識が一気に先生の方に向き、僕はアナグマのようにノロノロとプリントトンネルから顔を出す。
久々に見た外の世界は、いつもよりも賑やかだけど平和で思わずホッと息が漏れた。
しかし、それも束の間。
「あの、陽田君はどの種目に出るんですか?」
「っ!?」
隣の席に座る高嶺さんから声を掛けられた僕はビクッと身体を跳ね上げた。
不味い。
まさか高嶺さんと挨拶以外のタイミングで声を掛けられると思ってなくて、ついびっくりしてしまった。
「す、すいません。急に話しかけてしまって。迷惑でしたよね」
案の定というべきか、僕の反応を見て申し訳なさそうに眉を下げる高嶺さん。
「いやいや、そんなことないよ。僕がボッーとしてたのが悪いだけだから気にしないで」
彼女にそんな顔をさせるつもりが無かった僕は手と首を横に振り否定。
「えっと、種目はそうだなぁ。とりあえず借り物競争には出ようかな。こう見えて僕、実は運がいいんだ」
と、先程出された話題に全力で乗っかった。
「ふふっ、確かに小4の時の借り物競走で一位になってましたよね」
「そうそう。たまたま良いお題を引いてさ。ていうか、よく覚えてるね。何年も前のことなのに」
「あっ……。それは、そのお題を引いてすぐゴールに向かう姿が衝撃的だったので。ち、ちなみにあの時はどんなお題だったんですか?」
「『末っ子』だよ。家だと僕が一番下だから本当運が良かった」
「そうだったんですね。……っこなんだ」
おかげで何とか気まずい空気を払拭することに成功……なはず。
何故か高嶺さんが口をモニョモニョとしているのだけ気になるけど。
多分大丈夫だ。大丈夫だよね?
何となくこのまま会話を終わらせるのは不味いと思った僕は「そう言えば高嶺さんは何の種目に出るの?」と同じ質問投げ返した。
「私は、多分代表リレーになると思います」
「あぁー、なるほど」
若干恥ずかしそうに答える高嶺さんに、僕は曖昧な笑みを返す。
いくらこの前の体力測定でクラス一位だったとはいえ、自分の口から代表リレーに出場すると言うのは嫌味みたいになりかねないし、何より恥ずかしいに決まってる。
そんな複雑な状況でも口に出来るのは本当に凄い。
「小学校の頃からずっと代表リレー走ってたもんね。それで、いっつも活躍して。特に中学二年の時は凄かったよね。物凄い前と差があったのにアンカーに渡す直前でギリギリ追いついてさ。僕敵だったのについつい応援しちゃってたよ。いやぁ、あれはカッコよかったなぁ〜。本当高嶺さんが同じクラスで頼もしいよ」
僕は心の底から彼女のことを褒め称えると、高嶺さんは「……ありがとうございます」と何故か恥ずかしそうにそっぽを向く。
(いつもこれくらい褒められても恥ずかしがらないのに。珍しい)
普段のクールさは鳴りを顰め、チラチラとこちらの様子を窺っている高嶺さんに僕は小首を傾げる。
そんな僕の視線に不思議そうな視線に耐えられなくなったのか、少しして口を開いた。
「……陽田君も……その……」
が、聞こえてきた声はか細く、絶妙に聞き取れなくて「んっ?僕が何?」と聞き返す。
すると、高嶺さんの顔がカアッと赤く染まった。
「すいません。何でもありません」
口早にそう言った彼女は机に伏してしまった。
(もしかして、僕のことを褒めようとしてたのかな?それで言葉が出てこなかった感じだ。うわぁっ、だとしたら凄い申し訳ない。僕が褒めたせいで余計な気を遣わせちゃった)
少し遅れて自分がやらかしたことに気がついた僕も、高嶺さんと同じように机に伏せるのだった。
あとがき
好きな子の何気ない情報を知って一喜一憂するのあるある
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