全く馴染みのない幼馴染の高嶺さん

3pu (旧名 睡眠が足りない人)

プロローグ 


 突然だけど、僕には幼馴染がいる。

 しかも、とびっきり美人な。

 これを聞くと多くの人は羨ましいと思うだろう。

 けど、ごめん。

 実はこの話には一つ落とし穴があるんだ。

 幼馴染という単語の意味を調べるとはこう書かれている。

 幼い頃から親しくしている相手。

 もしくはのこと。

 もう勘のいい人なら分かってるだろうけど、僕の言う幼馴染は後者に当たる。

 同じ保育園に預けられ、小学校、中学校も同じ。

 そして、現在通っている高校も同じ。

 だけど、僕と彼女が同じクラスになったことは高校まで一度もない。

 彼女と僕の間にはいつも分厚い教室の壁があった。

 だから、関わりなんて殆どない。

 目が合ったら軽く会釈をして、挨拶運動の時に立っていた彼女のオウム返しをして、彼女が返しに来た給食の食器を受け取って、彼女が大量のノートを落とした時、拾いに集まったメンバーDになるくらいの関係。

 幼馴染のの部分が一切ないほぼ無縁な存在。

 彼女が持つ『高嶺』の苗字に相応しく、僕にとって高嶺さんはずっと手が掠りもしないくらい遥高い場所に咲いている一輪の花だった。

 だから、幼馴染と称しているのは僕のちょっとした冗談。

 彼女のことを話す友人達にちょっとしたマウントを取りがたいめの虚勢。

 だから、ずっとこのまま手が届くことはない。

 


 そして、


 蝉が鳴き始めた初夏の頃。

 教室でいつものようにお昼を食べていると、「えぇぇぇ〜〜!?高嶺さんって男の幼馴染がいるのーーーー!!?」と声が上がった。

 すると、僕を含めたクラスの全員がとある女子グループに視線が吸い寄せられる。

 訂正。

 正確には女子グループにいる一名に全ての視線が集まった。

 母親譲りの銀色のサラサラとした長い髪にサファイアのように澄んだ瞳。人形のように恐ろしく整った顔立ちに、出るとこは出て引っ込むところ引っ込んでいる抜群のプロポーション。

 まさに神が作り出したかのような彼女の名前は高嶺たかね 雪花ゆかさん。


「ちょっと声が大きいですよ!舞本さん」


 周りの視線が集中していることに気が付いた高嶺さんは白雪のように白い頰を赤く染め、ワタワタと恥ずかしがる。

 可愛い。

 普段クールな高嶺さんがあそこまで取り乱すのは珍しいため、思わず写真に収めたい衝動に駆られる。

 まぁ、本人の意に沿わない撮影は盗撮になるから絶対しないけど。


「ごめんごめん!全く男っ気のない高嶺さんに仲の良い男の子がいると思わなくてさ。めっちゃびっくりしちゃった」

「もう!わ、私にだって男の友達くらい一人や二人いますよ」


 そう言って、ポカポカと友人の金髪ギャルを叩く高嶺さん。

 そんな微笑ましい光景の脇で、僕は友人の佐藤から「おい、幼馴染呼ばれてるぞ」と肩を突かれた。

 

「おい、君は僕が高嶺さんと顔馴染かおななじみなことを知っているだろ」

「いやぁ、もしかしたらワンチャンあるかもだぜ?」


 ニヤけ面で悪ノリをかます友人を前に、変なことを言うんじゃなかったと僕は過去の行いを盛大に悔いた。

 今このタイミングでそんな冗談をかませば、クラスの全員から総スカンを喰らうのは勿論のこと。この先の人生で一生高嶺さんから死ぬほど冷めた目を向けられることは目に見えている。

 誰がそんな見え透いた地雷地獄に突っ込むものか。


「ないない」

「かー、つまんねぇの。それでも男かよ」

「勇猛と無謀を履き違えてはいけないよ、ワトソン君」

「いやいや、これ飲めばいけますってホームズさん」

「リアルのレッドブ○はCMみたいな万能薬じゃないからね!?」


 ダル絡みを継続してくる佐藤を相手するのは無駄だと判断した僕は、お母さん特製山賊おにぎりを頬張る。

 それからしばらく、もぐもぐと僕が無心でおにぎりを食べ続けた結果、これ以上は無理だと悟ったようで彼もサンドイッチを齧り出した。

 会話が無くなり、暇になった僕は再び耳を澄ませると「そうなんだ。で、ぶっちゃけその幼馴染のことをどう思っているの?」とそんな声が聞こえてきた。


「それは、その、えっと、あの、なんと言いますか……」

「えっ?その反応もしかして!?」

「脈アリってこと!?」

「……雪解けの季節が来た」

「か、か、勝手なことを言わないでください!彼とはまだ全然で」

!?うっひょおー、つまり好きぴがいるの確定じゃん」

「あっ…………あ、あう。もう、いっそ殺してください」


 そう言って両手で顔を隠す高嶺さん。

 が、全ては隠し切れず真っ赤な耳が丸見えだった。

 あの様子を見るにどうやら高嶺さんは幼馴染のことが好きらしい。

 

「おい、やっぱ行ってこいよ。陽田ひだ


 僕と同じ結論に至った佐藤が心底苛つくニヤけ顔を向けてきた。

 本当に殴りたくなる顔をするのが上手いなこの男は。


「絶対行かない」


 僕は鋼の意志で首を横に振り、窓の外へ視線を飛ばす。

 

(とりあえず僕じゃないのは間違いない。そうなると高嶺さんの幼馴染に当てはまるといえば、保育園が同じだった小鳥遊君か、小学校が同じの小帝君か。いや、先輩という可能性も考えると雷覇生徒会長もありえるな。うう〜ん、一体誰だろう?意外と難しいな)


 ハッキリ言って、未だ衝撃が抜け切れていない。

 まさか、高嶺さんに幼馴染の男の子がいるなんて初知りだ。

 それなのに今までエセ幼馴染を語っていたことを思うと、冷や汗が止まらない。


(大丈夫かな、僕?明日急に○されたりしないよね)


 僕の冗談が周囲に知れ渡った時のことを考えてしまい、昼休みが終わるまで恐怖でガタガタと震えていた。


 そのため、とあるクラスメイトの一人からチラチラ見られていたことに僕が気が付くことはなかった

 

 

 


 あとがき

 じれじれ系が描きたくてノリとノリとノリで始めました。

 よろっぷ。

 

 

 

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