クロックワーク・リザレクション
陽条 透環
第1話
エレボス鉱山――
鉱夫の大半は労働者階級のようなみすぼらしい身なりをしていたが、時々、冒険者のような装備を抱えた人たちもいる。
彼らは「
採掘した時間石を都市へ持ち帰り、大時計にエネルギーを供給する役目を持つ者たち。
報酬は時間。
自らの心拍に刻まれた標準時計へ蓄えられるそれは、
食事、住居、医療、そして“自由”の通貨だった。
そして今、またひとり、重たいブーツの音を響かせて、鉱山の闇へと足を踏み入れる。
装備は質素、動きに無駄はない。
供給者としての訓練を積んだ者だけが持つ、“止まらないための動き”。
彼は静かに、しかし確実に、崩れかけた足場を越えていく。
湿った鉱山の空気は金属と土の匂いを含み、どこか冷たく、耳をすますと微かな機械油の香りも漂っていた。
最奥に着くと、ハンマーを取り出し、真っ黒な地肌をガンガンと叩いていく。
石を掘るハンマーの金属音が、暗闇にこだまし、肌に感じる冷気が身を引き締める。
割れた隙間から、やがて青白い光が漏れ出し、彼はニヤリと笑った。
そのまま慎重に鉱石を削り、取り出したのは、水晶のような結晶。うっすらと光を放っている――時間石だ。
「これはでかいぞ」
呟いて、腰のズダ袋に仕舞い込み、採掘を続けていく。
やがて、腕の簡易端末が鳴り出した。労働終了の合図だ。詰所へ帰る鉱夫たちを横目に、彼は山を降り、大時計へと戻る。
都市の外縁、大時計の足元にある集積所では、時間石からエネルギーを取り出し、大時計のコアへ送る作業が行われていた。
ここは“志願”供給者用の時間石交換所を兼ねている。時間を使い果たし、自由を失っている鉱夫たちと違い、一定のレートで買い取られた時間の余りは、自分の標準時計に貯蔵することができる。
この分を食事や交通、娯楽などに利用することで、大時計の人々は生活していた。
「よおルディ。今日は機嫌良さそうだな」
顔見知りの職員が、声をかけてくる。
「でかいのが採れたんだ」
「ほう、早く見せてくれ」
交換はつつがなく終わり、彼――ルディは一息ついた。
「9万4526時間……か。まだまだだな」
腕に巻いた簡易端末をちらと確認して、最下層の自宅へと戻る。
1日18時間しかない最下層では、睡眠時間の確保が重要だった。
――明日に備えて、眠ろう。
彼は身支度を整えて、薄く羽織った布団に潜り込んだ。
大時計のカッチ、コッチという音が世界を包んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます