第5話 アイ

 汗っかきの蝋みたいにとろりとして、そしてつるりとした肌の女の子は「アイ」と名乗った。


 愛って云ったんだ。そうに違いないよ。


 ヴァレリーは『匂いがするの。大きな鴉のような香りがね』と云って、僕が「それって、どんな匂い?」と尋ねると、ヴァレリーは黙り込んだ。


 僕も真似て、黙ったら、女の子は僕たちに指を差して「あなたの内側から、ホノウと同じ匂いがするわ!」と叫ぶように云った。


 ホノウは知っている。僕は知っていたよ、彼か彼女かは忘れたけれど。たぶん男じゃなかったっけな。


「男だっけ?」

「男?」

「ホノウのことだよ」と僕は云う。

「違うわよ」とアイは云った。


 そうだっけな? 僕は本当のことが知りたくて堪らなくなって、全然我慢できそうになくて、直接訊いてみることにしたんだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あうせうアキ 叢上友哉 @hiroto_07

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る