目はモノを見るもの

@Aaa9981

第1話

パチパチと電灯が鳴っている、それを聞いている僕、空は赤を主張していた。困ったものだ。

クルクルとカラスが空を回り戦闘機さながらの旋回だ。僕にはカラスが何をしたいのかはわからない、ただ飛んでいるという感想が頭には浮かんできた。

まだ電灯はパチパチとなっている、いっそ消してしまおう。それがいい。

そんな事を考えているうちにチクチクと時計は秒を刻んでいく。何もしていない。この感覚は散々味わったが飽きが来ずも終わりも見えない、嫌な気分だ全く。

空気を読まないようにコンコンと誰かが玄関のドアを叩く、とても軽い音だ。インターホンを使わないのが気にはなるが、誰かが来たってことだ、殻を奪われたカタツムリの気で玄関に向かう。

途方もなく感じたがドアの前についた。それはいつもより縦に長く横に大きく感じた。僕を見下ろしているような気がして、不快だ。チェーンを掛け、ノブに手をかける、少し空けてみると、黒いトレンチコートに見つかった。

カカオ80%のチョコのように上品な色のトレンチコート。僕に会うのが目的なら無駄な手間だ。

トレンチコートの男は顔に少し死の匂いが強くなってきたからだろうか。よく見たら時代を感じさせるシワがある。

静かだが何処か底の見えない声でこう言ってきた。


「目は見ることができても内面を認識できない」


その男は何か哲学的な事を諭してきた。だがこと男の言った通り僕にはこの男の心理は不明で考えたくもない。その言葉は飲み込むことは出来たが消化することはできない。何か気持ちが悪い、靴下が濡れてしまった時のような気持ち悪さだ。その男は満足げにその木の断面のような顔で笑顔を作った。

僕も反射で笑顔を繕った。不自然だものだっただろう。誰かが顔を引っ張っているような笑顔だ。

男が去っていく、そっとドアを閉じた。チェーンは掛けたままだ。こっちの方が安全なのだから。帰りは極端に短く感じた。歩数にすれば10歩程度だろうか。そんな気がしないほどには早く感じた。

僕は電灯をつけた、いつものようにパチパチと音を鳴らし出した。空の赤は少し主張を弱めることにしたようだ。カラスは空と同化して見えなくなっていた。夜が来る。僕は瞼を閉じた。目が目としての役目を失った瞬間だ。

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