第12話 裏切りと選択 

 合同演習の罠を突破した翌日、学園内は騒然としていた。

 「下層生徒が包囲を破って逃げた? そんなはずがない!」という声とともに、スプロウツの名はますます広まった。しかし、その裏では不穏な動きが進んでいた。

  夕方、寛人は理事長直轄の特別室に呼び出された。

 「君の瞬発力は素晴らしい。スプロウツに埋もれているのは惜しいな」

  理事長が淡々と語り、契約書を差し出す。

 「我々の直属チームに入れば、即座にAランクへ昇格させよう。設備も待遇も保証する」

  寛人は無言で紙を見つめた。頭の中で、仲間との日々がよぎる。

 (……でも、俺は早く強くなりたい。短期決戦型の俺には、早期成功が似合っているはずだ)

  一方その頃、廃部室では栞奈が不安そうに呟いた。

 「寛人君、今日は戻らないの?」

  友梨は心配そうに言った。「もしかして、何かあったんじゃ……」

  拓馬も不安を拭えずにいた。「あいつなら大丈夫だと思いたいけど……」

  夜、寛人がようやく戻ってきた。だが表情はどこか硬い。

 「どうした?」祥子が尋ねると、寛人は視線を逸らした。

 「……何でもない」

  しかし、その夜遅く。寛人はひとりで演習フィールド跡地に立っていた。

 (俺は……どうすればいい?)

  そこに現れたのは友梨だった。

 「寛人君、ここにいると思った」

 「……俺、理事長にスカウトされた」寛人は正直に話した。

  友梨は一瞬黙り込み、しかし優しく微笑んだ。

 「私も、昔は同じように迷ったことがある。大敗して、全部嫌になって。でも、その経験があったから今の私がいる。逃げてもいいけど、きっと後悔するよ」

  そこへ栞奈から通信が入った。

 『寛人君、あなたが目標にしてる“勝つ”っていう未来、それは一人で掴むもの?』

  その言葉に、寛人は目を閉じた。

 「……違う。俺は、仲間と一緒に勝ちたいんだ」

  翌朝、寛人は全員の前で頭を下げた。

 「昨日、裏切りかけた。だけど……俺はここに残る。スプロウツで勝ちたい」

  拓馬が笑い、拳を差し出す。「なら、もう何も言うな。行こうぜ、みんなで上に」

  寛人はその拳を力強く打ち返した。

  絆は、試され、そして強固になった。

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