最終章:新しい時の始まり、そしてそれぞれの道
時の大聖堂での儀式によって、世界中の歪んだ時の流れは修正され、各地で起こっていた不可解な現象も収束していった。空に昇った光は、世界中の人々に、目に見えない形で影響を与え、彼らの失われた時間を取り戻し、未来への希望を再び灯した。
カイル、セレス、ライラ、そしてゼノスの四人は、大聖堂を後にし、新たな旅路へと歩き出していた。彼らの心には、達成感と、それぞれの新たな目的が芽生えていた。
ライラは、大聖堂で手に入れた古文書の残骸から、さらに多くの知識を得ていた。彼女は、時の神殿の真の歴史と、その崩壊がもたらした影響について、世界に正しく伝えることを決意した。
「私は、アルカディアに戻るわ。そして、この新たな知識を、世界中の人々に伝えなければならない。二度と、時の流れを歪ませる者が現れないように」
ライラは、瞳を輝かせながら言った。彼女の知識の探求者としての使命は、これで終わりではなかった。
セレスは、クロノスのリーダーが持っていた、ある小さな金属製の記章を手に入れていた。それは、セレスが探し求めていた「情報」に繋がる、決定的な手がかりだった。
「私の仲間を死に追いやった者たちの、真の目的。そして、その裏に隠された、さらに大きな組織の影…私は、それを突き止めるわ。そして、二度と、私のような悲劇が起こらない世界にする」
セレスの瞳には、過去の悲しみを乗り越え、未来へと進もうとする、強い決意が宿っていた。彼女の星辰の短剣は、もう復讐のためだけではなく、真実を切り開くための武器として輝いていた。彼女は、カイルに、旅の途中で集めた様々な情報の片鱗を、今後の活動に役立てるようにと手渡した。その中には、カイルがかつて見た「時の欠片の副作用」に関する、詳細な記述も含まれていた。
ゼノスは、自身の故郷を襲った悲劇の真実を知り、心の奥底で凍りついていた何かが溶け始めた。彼の両刃斧は、もう過去の復讐のためではなく、未来を守るための武器として、彼の傍らにあった。
「俺は…また森に戻る。そして、この世界の自然を守る。時間が正常に戻ったとはいえ、まだ歪んだ魔物や、不安定な場所が残っているだろう。それを、俺が狩り続ける」
ゼノスの言葉は、いつものようにぶっきらぼうだったが、その瞳には、穏やかな光が宿っていた。彼のバレットタイムは、もう戦いのためだけではなく、自然の営みの中で、小さな命を見守るための能力として、彼の傍らにあった。彼は、カイルに、故郷で祖先から代々受け継がれてきた、古めかしいお守りを渡した。それは、カイルの時の器と共鳴するように、微かに輝いていた。
カイルは、三人の仲間たちの決意に、深く頷いた。彼の時の器と古き契約の剣は、その使命を終え、もはや特別な光を放つことはなかった。しかし、カイルの右目は、未だに「時間の歪み」を捉えることができた。それは、彼が「時の守護者」としての役割を、これからも果たしていくことを示唆していた。
「俺は…故郷に戻る。そして、この能力が、世界に何をもたらすのか、見届けたい。そして、二度と、時の流れが歪まないように…俺も、この世界のどこかで、時の守護者として、見守り続ける」
カイルの心には、故郷への思いと、世界への責任感が共存していた。彼は、この旅で得た経験と、仲間たちとの絆を胸に、新たな人生を歩み出すことを決意したのだ。彼の剣が、最後に微かに震えたのは、彼の新たな決意を祝福しているかのようだった。
それぞれの道を歩み始めた四人。しかし、彼らの間に生まれた絆は、永遠に変わることはないだろう。彼らは、それぞれの場所で、**「時の欠片と忘れられた誓い」**によって結ばれ、新しい時の始まりを見守り続ける。
そして、世界のどこかで、カイルの右目が、また新たな「時間の歪み」を捉える時、彼らの物語が、再び動き出すのかもしれない。
時の欠片と誓い 月蝕刻 @cofe
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